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現世〜3年後〜
日常〜とある子息〜
しおりを挟む昔、幾多の苦難を乗り越え、度重なる試練に打ち勝った者がいた。
過酷な運命に屈しなかったその者は、やがて王となった。
その王の名はラピスラズリ。
夜空を思わせる瑠璃色と、散りばめられた星のような輝きを持つ宝玉に相応しい、聖なる力を持つ王であったという。
その王家の正統なる血筋、次代の王たるジークフリード様と同じ学院にて学ぶ事の出来る幸運を、今私は噛み締めている。
ジークフリード様といえば、明るい黄金色の髪に瑠璃色の瞳を持つ、生徒会長だ。
品行方正かつ頭脳明晰。
その学年の最も優秀な者が選出される生徒会役員の中でも、入学時から現在に至るまで主席を譲った事のないという完全無欠なお方。
女子生徒のみならず男子もまた憧れる、親しみやすくて非の打ち所がない方だ。
そのような方だから、何としてもお近づきになり、あわよくば…と企む者ももちろんいる。
けれど、そのような思惑を持って近づく者は軽やかにいなし、誰よりも己を律し規律を重んじておられる。
誰にでも…下級貴族や市民にも公平に接する懐の広さもあり、学院一の人気を誇っている方だ。
婚約者であり、副会長でもあるセラフィーヌ様。
白銀の髪に薄青の瞳を持つ彼女もまた、生徒会役員の名に恥じぬ才媛だ。
常に相手を思いやり笑顔を絶やさず、カルセドニの名の通り、人と人との結びつきを大切にされる学院一の淑女。
ジークフリード様を助け、支え、共に国に尽くべく努力されるお姿は眩しく感じられる。
今は王妃教育の為、学院を離れているが、王子が心なしか寂しそうなので早く帰って来ていただきたい。
書記であるコーネリア様は黒髪黒目のきっぱりとした方だ。
生真面目な性格とキツめの顔立ちから、近寄りがたく感じられる事も多いのだが、案外面倒見の良い所がありその落差から下級生に人気があるのだと言う。
会計のアイザック様は蜂蜜色の髪に深緑の瞳を持つ、いつもにこやかな方だ。
一見、愛想が良く誰とでも親しく口を聞き鷹揚な様子だが、笑顔の裏で何を考えているかわからない底知れない物を感じる。
何事もソツなくこなす如才なさと、そうと感じさせずに相手を上手く使うしたたかさを併せ持つ方だ。
そして、セラフィーヌ様の留守の間、副会長に任じられたクリスティナ様。
ブルネットの髪に薄紅色の瞳を持つ方で、コーネリア様程ではないが成績優秀で学年でも5本の指に入ると言う。
清楚な雰囲気の温和な方で、セラフィーヌ様の親友という事もあり、ジークフリード様の信頼も厚い。
生徒会のメンバーといえば、全校生徒の憧れであり、ごくごく普通の生徒からしてみれば手の届かない高嶺の花だ。
そんな方々が、今、私の目の前にいる。
…正確には、私の隣にいるユージン・ファントムクォーツの前、だが。
「ついているぞ」
ジークフリード様がユージンの頬を指差す。
「はひ?」
「…口の中に物が入っている時に話すでない。
頬にソースがついておると言ったのだ」
昼食をとっていた僕らの前に陣取られた、ジークフリード様ご一行。
麗しい方々と、食事をご一緒させていただけるなんて…。
先程まであんなに美味しかった食事なのに、緊張のあまり途端に味がわからなくなる。
豪快に平らげるユージンの食べっぷりは、日ごろなら見ていて気持ちいいものだけど。
——おいおい、殿下の前だぞ。
もっとお淑やかに?いやいや、丁寧に?とにかく落ち着いて食えよ!
と思っていたら…。
案の定、口の端についたクリームソースに気づかないユージンに突っ込むジークフリード様。
「ありがとうございます」
慌てて拭うも、まるで見当違いの場所で。
——何やってんだよ。
あぁもう!見てらんない!
「こっちだバカ、落ち着いて食え」
つい、実家の弟にするようにやや乱暴に持っていたハンカチで拭ってやっていた。
それを見て、吹き出すジークフリード様方。
「まったく…
手のかかる奴だな。
こいつのお守りは大変だと思うが、まぁ頼むぞ」
苦笑するジークフリード様の目は、まるで手のかかる弟を見守る兄のように優しくて。
そんな立ち位置にいるユージンを羨むと同時に、頼まれた誇らしさから
「はい!お任せください」
と勢いよく頭を下げた。
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