僕は人を好きになれない

杜鵑花

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急章

運命の終着点

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 あれから数時間は経っただろうか。
私は、皐月と出会った昔のことを思い出しながらある魔法の準備をしていた。
その魔法は生物の脳に影響を及ぼすというかなりの技術テクニックが必要なものだ。
故に魔法を受ける生物は意識がない状態でなければならない。
皐月と木陰ちゃんは深い眠りに就いていた。
皐月からは、この魔法を使うのは木陰ちゃんだけでいいと言われていたが、今回の一連の出来事で、と私は改めて認識した。
そのため皐月には悪いが、私はこの誰も得をしない負の連鎖を断ち切らなければならない。
だから私は二人に睡眠導入魔法をかけ、眠ってもらったのだ。

「思えば皐月と出会ってから数百年は経ったわね」

そんな永い期間を知り合いとして過ごしてきた所為か、この魔法を使ってしまうのが寂しく感じる。
私は皐月の寝顔を見て軽く微笑んだ。

「さて、魔法の準備ができたわ」

いざ魔法を使うとなると、なんだか名残惜しい気持ちになる。
これまでの思い出が脳内を駆け巡る。
私は軽く息を吸って覚悟を決めた。

「さあ、使いましょうかね。……記憶を消す魔法を――」




 私は皐月より先に覚醒するであろう木陰ちゃんを連れ、児童養護施設に訪れていた。
施設のスタッフは私や木陰ちゃんの存在に気付かない。
私はスタッフたちの記憶をちゃちゃっと弄って、木陰ちゃんが初めから施設に居たということになるようにした。
無事、作業が終わって木陰ちゃんを施設内に置き、しばらく待って安全を確認すると私は再び家に戻ってきた。
私が実験室に入ったその時、とある声が響いた。

「……あなたは誰ですか??」

その声を聞いた瞬間、私は瞬時に魔法が成功してしまったことを理解した。
木陰ちゃんは皐月と出会ってから、皐月は私と出会ってからという随分と永い期間の記憶を消す大魔法だった。
私はなんとも言えない複雑な感情になっていた。
しかし、困惑する皐月を放っておけないので私はその問いに返答する。

「私は時雨玲沙。……ただの魔法使いよ」

「……魔法使い?? ……そのことも気になるんですが、なんで泣いてるんですか??」

「あら、泣いてしまってたかしら。ごめんなさい。色々とあったのよ」

「そのことはあまり深くは訊きませんが、ちょっと僕に何が起こっているのか教えてもらえますか?? 今起きていることがあまりにも理解不能で……」

皐月からのその質問に私は涙を拭き、彼が何故生きているのか、ここはどこなのかなどを丁寧に教えていった。
しかし、ここから抜け出す方法は教えなかった。
なんなら、この世界からはどう頑張っても抜け出せないと教えた。
私は皐月を殺そうと思う。
たとえ、自分が死ぬことになっても、不老不死という存在を作ってしまったことへの贖罪のために――
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