僕は人を好きになれない

杜鵑花

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急章

過去の記憶

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 種族としての魔法使いは極めて長命だ。
私、時雨玲沙は何百年もの時を生きてきた。
まだ魔法使い生の半分にも満たないその時は私にとって長すぎた。
人間たちに正体がバレないよう自らの力で創った世界でひっそりと暮らし、魔法の実験を行う日々。
私はそんな生活に飽きてきていたのだ。
しかし、その飽きはある出来事によって完全になくなってしまった。
ある日の朝、私がいつも通り実験の素材を採りに近くの森を散策していると、一人の男が道で倒れているのを発見した。
私は驚いてその男の方へ駆け寄った。

「ちょっと!? 大丈夫?!」

男は苦しそうにしていた。
この世界に人間が入ってくることはあまり珍しくないが、そのどれもが、骨の状態で見つかるため、生きている人間に出会うのは極めて稀だった。
ただ、もうすぐ死ぬかもしれないが。
なんせこの世界に入る条件は死にかけることだからだ。
死と生の幻想的な曖昧さがこの世界を創っているのだ。

「まぁ大丈夫ではなさそうね」

私は苦しむ男を一旦自分の家まで運ぶことにした。
別に、助けようとは思っていない。
ただ、今作っている薬を試してみようと思ったからだ。
その薬は、思考実験上では不死の薬のはずである。
もしかしたら、男は助かるかもしれない。
私は自室から、タツナミソウやらなんやらを混ぜて調合した薬を持ってきてそれを男に飲ませた。
すると、最初の方は男はもがき苦しんだがしばらく経つと動きが完全に止まり、それ以上動かなくなった。

「死んじゃったかしら」

私は男の生死を確認する。
男の心臓は脈を打っていて、平気だった。
自分からしておいてなんだが私はホッと一息ついた。
それから、一時間程度経つと、男はさっきのが嘘かのように回復していた。
どうやら実験は成功したらしい。
しかし、これは後から気づいたことなのだが、この薬には思わぬ副作用があった。
それは、好きになった人物を自分もろとも死に追いやるという呪いのような恐ろしいものだった。
やはり不死の薬という禁忌の薬を作った事によって神の怒りを買ったのだろうか。
男は八雲皐月と名乗った。
私はこの男の行く末を見守ることにした。



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