僕は人を好きになれない

杜鵑花

文字の大きさ
上 下
38 / 47
急章

違和感散歩

しおりを挟む
 
 「はぁ……疲れたな」

家に入るや否や、僕は無意識にそう発していた。
玲沙に一瞬でここまで送ってもらったものの、旅行の疲労は消えてない。
僕の足は木陰を担いでいたこともあってか限界を迎えていた。
僕は最後の力を振り絞ってリビングまで歩き、木陰をソファに下ろした。
その直後に僕は床に倒れ込んだ。
少しの間、人が居なかった建物は冷たくなっていた。
床の固さとその冷たさを味わっていると僕の意識は夢の中へと誘われていった。




 あの旅行から数日経ったある休日、僕は散歩をしていた。
まだ旅行の余韻があり、疲れも完全には取れていないが、散歩は欠かせなかった。
最近の散歩は災難ばかりがあって落ち着いて出来なかったが、今日はのんびりとした散歩になるだろう。恐らく。

「今頃、木陰は何してるんだろう……」

今日、木陰は勉学に勤しむとか言って部屋にこもっている。
真偽は不明だが、疑ってもこれと言って意味はないのでそのままにしておいた。
木陰のことだ。きっと普通に勉強してるんだろう。
ふと洩らした疑問の答えが出て、スッキリした僕は再び歩みに専念した。
そうやって歩いていると、やがて人々の喧騒が聞こえる場所に着いていた。
あまり見覚えのない風景に多少困惑したが、すぐに少し都会のところまでおりてきたと理解した。
普段はここまで来ることはないのだが、無意識に歩いていたら辿り着いたのだろうか。
しかし、何処か不自然である。
というのも、ついさっきまでははずだ。
だが、それは感覚的なもののため、確証は得られない。
僕はとりあえず気の所為だということにして、街を歩き出した。

「騒がしいな……」

行き交う人々の足音、車の動く音など、それらが僕の声をかき消した。
僕は騒がしいのがあまり好きではない。
だから、こういう場所も本来ならば嫌いであるのだが、生き物には、ごくごく稀に騒がしさに紛れたくなる時があるのだ。
例えば、祭りだとかあんな時がそうだろう。
まあ、それは祭事に呑む酒の所為かもしれないが。
とにかく、今の僕はそう感じているのだ。

「……」

僕は雑踏に飲まれないようにひたすらに歩いた。
そして、やがて人の少ない場所に着くと、僕はようやく一息吐いた。
今までの散歩の中で断トツに疲れたかもしれない。
それにしても、人が多すぎではないだろうか。
僕は滅多に都会の方におりたりしないが、この街にはそぐわない人数とすれ違ったような気がする。
何処か、本当の都会にきたようなそんな感覚があった。
僕は関係していそうな二つの違和感についてゆっくり思考し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

処理中です...