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急章
違和感散歩
しおりを挟む「はぁ……疲れたな」
家に入るや否や、僕は無意識にそう発していた。
玲沙に一瞬でここまで送ってもらったものの、旅行の疲労は消えてない。
僕の足は木陰を担いでいたこともあってか限界を迎えていた。
僕は最後の力を振り絞ってリビングまで歩き、木陰をソファに下ろした。
その直後に僕は床に倒れ込んだ。
少しの間、人が居なかった建物は冷たくなっていた。
床の固さとその冷たさを味わっていると僕の意識は夢の中へと誘われていった。
あの旅行から数日経ったある休日、僕は散歩をしていた。
まだ旅行の余韻があり、疲れも完全には取れていないが、散歩は欠かせなかった。
最近の散歩は災難ばかりがあって落ち着いて出来なかったが、今日はのんびりとした散歩になるだろう。恐らく。
「今頃、木陰は何してるんだろう……」
今日、木陰は勉学に勤しむとか言って部屋にこもっている。
真偽は不明だが、疑ってもこれと言って意味はないのでそのままにしておいた。
木陰のことだ。きっと普通に勉強してるんだろう。
ふと洩らした疑問の答えが出て、スッキリした僕は再び歩みに専念した。
そうやって歩いていると、やがて人々の喧騒が聞こえる場所に着いていた。
あまり見覚えのない風景に多少困惑したが、すぐに少し都会のところまでおりてきたと理解した。
普段はここまで来ることはないのだが、無意識に歩いていたら辿り着いたのだろうか。
しかし、何処か不自然である。
というのも、ついさっきまではこんなに騒がしくなかったはずだ。
だが、それは感覚的なもののため、確証は得られない。
僕はとりあえず気の所為だということにして、街を歩き出した。
「騒がしいな……」
行き交う人々の足音、車の動く音など、それらが僕の声をかき消した。
僕は騒がしいのがあまり好きではない。
だから、こういう場所も本来ならば嫌いであるのだが、生き物には、ごくごく稀に騒がしさに紛れたくなる時があるのだ。
例えば、祭りだとかあんな時がそうだろう。
まあ、それは祭事に呑む酒の所為かもしれないが。
とにかく、今の僕はそう感じているのだ。
「……」
僕は雑踏に飲まれないようにひたすらに歩いた。
そして、やがて人の少ない場所に着くと、僕はようやく一息吐いた。
今までの散歩の中で断トツに疲れたかもしれない。
それにしても、人が多すぎではないだろうか。
僕は滅多に都会の方におりたりしないが、この街にはそぐわない人数とすれ違ったような気がする。
何処か、本当の都会にきたようなそんな感覚があった。
僕は関係していそうな二つの違和感についてゆっくり思考し始めた。
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