僕は人を好きになれない

杜鵑花

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急章

幻想世界にて

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 「あらあら、随分と深いお眠りのようね」

悩んだ末、結局僕は玲沙に送ってもらう方を選んだ。
幸いにも、玲沙の家は近くにあったため、無駄な体力を消費せずに着くことができた。

「それで、そんな状態の木陰ちゃんを連れていったいここになんの用かしら??」

「そういえば、お前には言ってなかったな……。実は僕たちはついさっきまで旅行に行ってたんだ」

僕は玲沙宅のリビングにある椅子に腰をかけながらここに来た経緯を説明するべくそう言った。

「旅行?! なんたってそんな親密度を深めるようなことをしたの?!」

案の定、驚きや呆れなど様々なものが入り混じった声が飛んできた。

「しーっ、木陰が起きるだろ?? もう少しボリュームを下げてくれ」

飛来してきた言葉を真正面に受けながらも冷静にそう返した。

「はぁ、まったく……アンタってやつは……。親密度なんて、別れが寂しくなるだけじゃない」

怒号よりだった声のトーンがだんだん呆れよりに変わっていく。

「別に僕から誘ったってわけじゃないからそんなに責めなくたっていいじゃないか」

「……責めてなんかないわ。……それより、木陰ちゃんから誘ったって本当??」

「ああ、事実だよ。僕もちょっと驚いたよ、提案してきた時は……」

「じゃあ、アンタは珍しく他人からの提案を断らなかったわけね。……ちょっと話が変わるんだけど最近アンタ変わったわよね。いや、変わったていうかの前に戻ったっていうか……」

「そうか?? 僕は別にそうは思わないのだが……」

「自分は自己の無意識的な変化には気付きにくいようにできているのよ」

僕には自分が変わったという実感がなかった。
ただ、いつも通りに過ごしていただけである。
もし、変わっていたとするならば、前の自分はどうだったのだろうか。
僕にはさっぱりわからなかった。

「時期としては木陰ちゃんを拾ったあたりかしらね。そこから徐々に変わっていった気がするわ」

「じゃあ、木陰が僕を無意識的に変えた元凶ってことになるのか??」

「そういうことになるわ。……それから予測するに、その変化にはアンタの元カノが関係してそうだわ」

「元カノ?? 笹羅日向ささらひなたのことか??」

玲沙はコクリと相槌を打った。

「それとこれがなんの関係があるってんだ??」

「アンタが日向ちゃんと木陰ちゃんを同一視しているかもしれないってこと。どことなく雰囲気が似てるからね。二人は」

「まさか! 日向は日向。木陰は木陰でちゃんと見てるよ。同一視なんてするわけ無いだろ?!」

どちらも僕にとってかけがえのない大切な存在なのだ。
同一視なんてしている筈はない……きっと。
僕は少し強めの語気でそう言った。

「まあいいわ。アンタはアンタで自分が思う最善の選択をするといいわ……」

玲沙がそれ以上その話題を深掘りすることはなく、そう言うと、一拍を置き、気の抜けるような次の台詞を吐いた。

「それで、なんの用かしら??」



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