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破章
雨と傘と門番
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雨の雫が傘の布に当たって心地よい音を鳴らす。
僕はまた外に出ていた。
道路はすっかり濡らされ、視界は灰色に変わっている。
あまり木陰を待たせちゃいけないな。
そう思った僕は歩みを加速させた。
そうしてしばらく歩を進めていると、ようやく今月二度目の大きな正門が見えてきた。
「こんな雨の日でもあなたはここに居るんですね」
僕は傘もささずにその門のそばに立っていた銀髪のそいつに声をかけた。
「おや、あなたはいつぞやの……」
「八雲皐月です。僕の名前は」
「今更ですが、私は伊都明希です。……ところで、今日はどんな御用ですか??」
「今日は娘に傘を届けに来たんですよ」
「そうですか。でしたら速く渡しに行って上げてください。娘さんも待っていると思うので」
「今すぐにでもこれを届けに行きたいんですが……」
僕は明希さんの濡れた髪に視線を移し、続きの言葉を紡ぐ。
「やっぱり、この傘は明希さんにあげます。まだ、門番としての仕事があるんですよね?? それに、これからもっと降る予感もしますし、このままだと風邪引いちゃいますよ??」
手に持っていた折りたたみ傘を差し出しながら言う。
しかし、明希さんはその傘を受け取らなかった。
「お気遣いは大変ありがたいのですが、その傘は娘さんに渡して上げてください。うちの生徒を濡らして帰らせるわけにはいかないので」
「それでしたら大丈夫ですよ。この傘は大きいですからね。二人ぐらい余裕で入れます。ですから、この折りたたみ傘はもらってください。本当に風邪でも引いちゃったらそれこそ生徒たちに迷惑がかかるでしょう??」
僕は折りたたみ傘を再び明希さんに差し出した。
「それもそうですね。でしたらありがたく使わせていただきます」
そう言いながら、明希さんは傘を受け取って開いた。
バサッと大きな音を立てて紺色一色の布が八角形に一気に広がった。
「やっぱり、傘はいい道具ですね」
「僕もそう思います。……あ、その傘は別に返さなくていいですよ。どうしても返したいっていうならそれが僕の遺品になった時に返してください。まあ、当分は来なさそうですがね」
「わかりました。そうさせてもらいます。本当にありがとうございます」
明希さんはそう言うと、深く頭を下げた。
「どういたしまして。……っと、あまり娘を待たせるわけにもいかないので僕はそろそろ行きます。また会いましょう」
僕はそれだけ言って門の中に入った。
木陰に渡す傘がなくなったため、僕たちが相合傘をすることになったというのは言うまでもないだろう。
僕はまた外に出ていた。
道路はすっかり濡らされ、視界は灰色に変わっている。
あまり木陰を待たせちゃいけないな。
そう思った僕は歩みを加速させた。
そうしてしばらく歩を進めていると、ようやく今月二度目の大きな正門が見えてきた。
「こんな雨の日でもあなたはここに居るんですね」
僕は傘もささずにその門のそばに立っていた銀髪のそいつに声をかけた。
「おや、あなたはいつぞやの……」
「八雲皐月です。僕の名前は」
「今更ですが、私は伊都明希です。……ところで、今日はどんな御用ですか??」
「今日は娘に傘を届けに来たんですよ」
「そうですか。でしたら速く渡しに行って上げてください。娘さんも待っていると思うので」
「今すぐにでもこれを届けに行きたいんですが……」
僕は明希さんの濡れた髪に視線を移し、続きの言葉を紡ぐ。
「やっぱり、この傘は明希さんにあげます。まだ、門番としての仕事があるんですよね?? それに、これからもっと降る予感もしますし、このままだと風邪引いちゃいますよ??」
手に持っていた折りたたみ傘を差し出しながら言う。
しかし、明希さんはその傘を受け取らなかった。
「お気遣いは大変ありがたいのですが、その傘は娘さんに渡して上げてください。うちの生徒を濡らして帰らせるわけにはいかないので」
「それでしたら大丈夫ですよ。この傘は大きいですからね。二人ぐらい余裕で入れます。ですから、この折りたたみ傘はもらってください。本当に風邪でも引いちゃったらそれこそ生徒たちに迷惑がかかるでしょう??」
僕は折りたたみ傘を再び明希さんに差し出した。
「それもそうですね。でしたらありがたく使わせていただきます」
そう言いながら、明希さんは傘を受け取って開いた。
バサッと大きな音を立てて紺色一色の布が八角形に一気に広がった。
「やっぱり、傘はいい道具ですね」
「僕もそう思います。……あ、その傘は別に返さなくていいですよ。どうしても返したいっていうならそれが僕の遺品になった時に返してください。まあ、当分は来なさそうですがね」
「わかりました。そうさせてもらいます。本当にありがとうございます」
明希さんはそう言うと、深く頭を下げた。
「どういたしまして。……っと、あまり娘を待たせるわけにもいかないので僕はそろそろ行きます。また会いましょう」
僕はそれだけ言って門の中に入った。
木陰に渡す傘がなくなったため、僕たちが相合傘をすることになったというのは言うまでもないだろう。
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