僕は人を好きになれない

杜鵑花

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破章

就寝

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 睡眠を取ることは人間にとって重要なことだ。
脳を休ませて明日に備える必要不可欠な時間。
だから僕は毎日七時間は眠るようにしている。
しかし、今日の僕にはそれを達成することができないかもしれない。
理由はなんといっても隣にいる木陰の存在だ。
どうして一緒に寝ることになったのかの説明は簡単で、先程から振り始めた雷雨の所為である。
木陰は雷が大の苦手らしく、雷が鳴っていると一人で眠ることさえできなくなるらしい。
初めは断ったのだが、何度も何度も「一緒に寝てください!」と言うので僕が先に折れてしまって今に至る。
一応、背中合わせで寝ているのだがそれでも意識してしまって眠れない。
この状態がかれこれ三十分は続いている。
木陰はもう寝ているのだろうか。
耳を澄ますとかすかにスースーと寝息が聞こえた。
それを聞くと僕はこの状況を変えるべくゆっくりと布団から出ようとした。
だが、ある程度行ったところで僕の体は鎖に繋がれているように動かなくなった。
驚いて振り返ってみると、木陰が僕の服をがっしりと掴んでいることがわかった。
起きているわけではない。
無意識下の行動である。
もう打つ手がないと察した僕はまるで逆再生かのように再び布団に戻った。
すると、長時間気を張っていたためか、睡魔が襲いかかってきた。
眠れない夜というのは幻想で、僕はいつの間にか眠りに就いていた。

 

 僕の意識はそこで覚醒した。
木陰はまだ寝ている。
さすがに服から手は離していた。
小鳥のさえずりは――聞こえない。
街はまだ眠っていた。
僕はそっと布団を抜け出すとリビングに向かった。
そして時計を確認する。
短針は四を、長針はおおよそ一をさしていた。
僕はそれを見て短いため息を吐くと、二度寝もできそうもないのでとりあえずコーヒーを一杯淹れた。

「さあ、何をしようか」

コーヒーを一口含み、リラックスした僕はそう溢した。
リビングは朝日でかすかに照らされていた。
豊かな感性を持った人なら幻想的な時間だなとか思うんだろうが生憎と僕には暇な時間にしか思えない。
僕は朝早くから仕事をするほど真面目じゃないし朝早くからゲームをするほど不真面目でもない。
だからただの暇な時間。

「クソッ、何も思いつかないな。本当に中途半端な時間に起きてしまった」

僕は一人でそう悪態をついた。
こんなとき、普通の人はどんなことをして時間を潰すのだろうか。
僕は思考した。
辺りに広がる静寂、ほのかな陽の光、眠っている街。
僕はやがて一つの答えにたどり着いた。

「散歩に行こう」
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