僕は人を好きになれない

杜鵑花

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破章

夕食

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 そして、ついに夕食の時間がやってきた。
辺りに食欲をそそる匂いが漂う。
どうやら今日の夕食はハンバーグらしい。
僕の五番目の好物だ。

「いただきます」

僕たちは合掌し、料理を食べ始めた。
相変わらず木陰の料理は美味しかった。

「最近、学校は楽しいか??」

まずは軽めの話題を木陰に振った。
探りを入れるなら徐々に踏み込んでいった方が怪しまれなくていい。

「唐突ですね。……まあ、楽しいですよ?? 普通に友達がいて、先生もいい人ですし……でも、ちょっと変わってますけどね。あの学校は」

「変わってる、か。噂には聞いたことがあるんだが、例えばどんなところが変わってるんだ??」

「なんというか、変な授業があるんですよ。確か、不老不死についての授業です。奇妙だとは思っていますけど、なんか非日常感があって案外おもしろいですよ。まあ、不老不死が居るとは思いませんが……」

「へぇー、確かにかなり変わっているな」

そこで、学校についての話題が終わってしまった。
少しの間、沈黙の時間が流れる。
ある程度話題が続けば芋づる式に話題が出てくると思っていたが、その考えを改めないといけないな。
このまま、沈黙が続くとどうしようもなくなるので、僕は新たな話題を振ることにした。
しかし、僕の口が開くよりも前に、木陰の口が開いた。

「皐月さんって、恋愛したことありますか??」

木陰のその質問に、暫く僕の脳が停止した。
あまりにも急で突拍子もない質問に僕は思わず素っ頓狂な声を洩らす。

「あのっ! 別に変な意図とかはなくて単にさっきの読書の話の続きみたいな感じです!」

「あ、あぁ。すまない。ちょっといろいろな方向に思考が飛んでしまってな。……それで、質問の答えだがあるにはあるよ」

「それは、あるって解釈していいんですよね。それじゃあ、小説な主人公みたいな感じのことがあったりしたんですか?!」

「木陰がどんな小説を読んでいるのかは知らないが、少なくともそんな綺麗なもんじゃないよ」

「それってどういう意味ですか??」

「秘密だ。秘密。これを言うのは僕が死ぬときだな。まあ墓まで持っていってもいいが」

随分と話が逸れてしまった。
だが、あの本のことを訊ける流れが来ている。
今なら違和感なく話題を切り替えることができるだろう。

「こんな僕の昔の恋愛事情よりもっとおもしろい話をしよう。例えば、木陰が今日買ってきた本の話とか……」

「えっ?? あの本の話ですか!?」

「そうだ。割と気になっているんだよ。どんな本か」

木陰は暫くの間、思考してやがてこう言った。

「秘密です。でも、皐月さんが秘密を教えてくれたら言うかもしれません」

「そんなに隠すような本なのか??」

「女子高生は秘密の一つや二つ作りたくなるものなんですよ」

「だとしたら、いい考えを思いついたものだ。なんせ、僕はそうそう自分の秘密を言うつもりはないからな」

まあ、僕は本が何か知っているのだが。
こうして僕は大した情報を得ることができずに夕食の時間は幕を下ろした。
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