僕は人を好きになれない

杜鵑花

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動機

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 木陰が着替えを終えて、部屋から出てきた。
僕は慌てて手に持っているハウツー本を元の場所に戻す。
これについていろいろと考察するのは後にして今は僕が本の存在を知ったということを悟られないようにするべきだ。
僕は即座にそう思考し、冷静に頭を回転させ始めた。

「あれ?? どうしたんですか?? なんか、汗かいてません??」

制服姿から部屋着姿に変わった木陰が不思議そうにそう訊いてきた。
僕は滲んだ冷や汗を近くにあったタオルで拭いながら、必死に言い訳を考える。

「最近、暑くなってきたからな。汗だってかくさ」

「そうですよね。最近は異常過ぎますもんね。エアコンじゃ足りないほど暑いです」

僕は話を逸らすことに成功していた。
内心でガッツポーズをして僕はそのまま話を続けた。

「まあ、この家にはエアコンなんてないけどな」

「前から気になっていたんですが、エアコンがないのはなんでなんですか?? 体がドロドロに溶けちゃいますよ」

「家を買った当時はそこまで暑くなかったからな。エアコンなんて必要なかったってわけだ。ただ、今年の夏は暑くなりそうだから付けようか悩んでるところだ」

「付けることを強くおすすめします!」

「まあ検討に検討を重ねて検討を加速させておくよ」

「そうですか。あまり期待しないでおきます。……っと、そんなことより私は買ってきた本を読まなきゃいけないのでそろそろ部屋に戻ります」

「お、おう。……読書を十分に満喫するといい」

「なんか、歯切れの悪い相槌ですね……。まあ、いいですけど」

そう言うと、木陰は荷物を持って再び部屋へと戻っていった。
とりあえず、一難は去ったが僕にはまだ解決すべき課題が残っていた。

「なんでいきなりあんな本を買ったんだろう」

課題とはそのことである。
もしかすると、好きな異性でもできたのかもしれない。
可能性としてはその線が一番だ。
だが、あの本にはろくでもないことが書かれていそうである。
ド偏見だと思うが、恋愛のハウツー本とはそんなもんだ。
実際に読んでみたことはないが。
まあ、あの本が未来の予言書にならないことを祈るしかない。

「……人のプライベートに首を突っ込むのは野暮か」

僕はあの本の存在をキッパリと忘れることにした。
その方が精神的にも楽だろう。
しかし、それでも気になってしまうのが僕である。
夕食のときにでもそこはかとなく話題を振ってみることにしよう。
その結論に至った後、僕はお風呂掃除やテレビなどで夕食までの時間を潰した。
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