僕は人を好きになれない

杜鵑花

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破章

日常と化す

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 木陰と出会ってからはや三週間余りだろうか。
初めの一週間は色々と忙しかったが木陰もここでの生活に慣れたようで、今では家事全般を彼女に任せてしまっている。
もう木陰が居ないと僕は生きていけないだろう。
慣れとは本当に恐ろしいものだ。

「美味そうだな」

今日もいつも通り木陰が朝食を作ってくれた。
並べられた食パンとスクランブルエッグから美味しそうな匂いが漂ってくる。

「じゃあいただきましょうか」

僕たちは朝食を食べ始めた。
二人で食べるということが僕の中でもう既に日常の域に達しつつある。
それは平和というべきか恐ろしいというべきか……

 「行ってきます」

朝食を食べ終えた後そう言って制服を着て家を出て行ったのは木陰だった。
行き先は買い物でも職場でもなく高校だ。
木陰は別にいいと言ったが僕は何とか説得して彼女を高校に通わせることに成功していた。
拾ってしまった以上、最後まで育て上げ、自立させるのが僕の責任というものだろう。
足音が聞こえなくなったのを確認すると、僕は静かになったリビングに戻り、ソファーにダイブした。
最近、木陰が居なくなると今のように暇を感じることが多くなってきている気がする。
仕事をすればいいのだが、なんというか今はそんな気分じゃない。
なんとわがままなやつなのだろうか。
そうひとり演劇を脳内で繰り広げていると、ふと床に本が落ちているのが目に入った。
何だろうと思って拾い上げてみる。

「これは……教科書か……??」

恐らく通学カバンから落ちたのだろう。
僕は暫くそれを眺めながら思考して、やがて外に出る支度をし始めた。

「届けてやるか……暇だし」

現在の時刻は八時三十分。
まだ一時間目の授業は始まっていないだろう。
僕は教科書を片手に急いで家を出た。
住宅街では、鳥がさえずり花は咲き乱れるという穏やかな日常が流れていた。
そんな中、非日常を手に持った僕は走った。
それはもう、数学の問題に出てくるたかしくんの速さを上回るほどに――
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