僕は人を好きになれない

杜鵑花

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序章

帰宅

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 僕は家の裏庭の何も無いただの空間から現れた。
ここも何故か結界の綻びがあるのだ。
そのため、いつも利用させてもらっている。
例えるならば家にワープ土管があるようなものだ。
僕は家の軒下を通り、雨に濡れないように玄関まで回った。
そして、ポケットから鍵を取り出し、ガチャリとドアを開けた。

「ただいま」

僕は少し大きめの声でそう言ったが返事はなかった。
木陰は寝ているのだろうか。
僕はそう思い、忍び足でリビングまで向かった。

「……よかった眠ってる……」

リビングを覗くと、ソファーですやすやと寝息を立てて眠っている木陰が見えた。
僕はホッと安堵の息をもらした。

「……さて、時間もいい頃だし晩ごはんでも作っておくかな。帰ってきたばかりだが」

そうしておいた方が僕がさっき帰ってきたということもバレないだろう。

「さてと、材料は何があったかな……」

僕は慣れた手つきでエプロンを装備し、キッチンにある冷蔵庫を開ける。
その中にある物を見て僕は少し安心し、料理を始めた。
緑黄色野菜をよく研がれた鋭い包丁で切り刻む。
その度にトントンと包丁とまな板とが衝突する音が響く。
暫くそのようにしているとソファーの辺りが動いたのを確認した。
少し騒々しくしてしまったから木陰が目を覚ましたのだろう。

「うーん……あれっ? 皐月さん帰ってきてたんですか」

「ああ、割とすぐに帰ってこれたよ。……起こしてしまったか??」

しれっと嘘をついたが、この程度の嘘ならバレる心配もないだろう。
嘘も方便だ。

「いえ、全然そんなことはないです。結構眠っていましたからね。もうそろそろ起きる頃合いだっただけです」

「そうか。それはよかった。てっきり色々と物音を立ててしまったから起こしてしまったかと思った」

「私は眠りが深い方ですからその程度では起きませんよ。それより、料理しているんですか??」

「ああ、もう七時だからな。夕食の準備をしなくちゃいけないだろ」

「すいません……今からでも代わっていいですか??」

木陰は寝起き相応の声でそう言うとソファーから立ち上がってふらふらとこちらに向かって歩き出した。

「いや、大丈夫だ! おとなしく座って待っていてくれ!」

木陰のその様子を見て、今任せたら絶対に大変なことになると思った僕は少し大きな声で彼女を制止する。

「住まわせてもらう身なので、何か一つでもお手伝いでも……」

「大丈夫だって! 寝起きの人間に料理を任せる程僕は鬼じゃないし馬鹿でもない。それに、中途半端なところで任せてもわからないだろ?!」

「ですが……」

「いいから僕にやらせてくれ」

「……わかりました。でも明日からは私が作りますからね……」

木陰は念を押すように言うと倒れるようにソファーに座った。
その様子を見て僕は安心して再び料理に取り掛かった。
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