僕は人を好きになれない

杜鵑花

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序章

幻想世界

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 僕は少し濡れながらもその場所に辿り着いた。
そこは降りしきる雨の匂いが立ち込めていて、梅雨のようにじめじめしていた。
そう、その場所とはさっき神主さんが話していた森の中だ。

「神主さんが話していた場所はここら辺だと思うのだが……」

僕は周囲を見回してみる。
すると、一箇所だけ周りとは明らかに違う異質な場所があった。
僕はそれを見つけると急いでそこに向かった。
そこには空気に穴が空いたかのような空間の裂け目があり、その裂け目の中には奇妙だが幻想的とも言える場所が広がっていた。

「今日は二回目だな。この先に行くのも」

そう呟いて僕はその裂け目の中に入った。
刹那、太陽のような眩しい光が目を刺激する。
その所為で僕の脳は今が昼なんじゃないかと錯覚を起こす。

「相変わらず奇妙な世界だな」

辺りには同じ時期には絶対に咲くはずのない花々が咲き乱れ、見たこともない木々が生い茂っている。
その様子は奇妙という言葉の概念そのものではないかと思わせる。

「そう、悪かったわね奇妙な世界で」

不意に、背後から声がした。
僕は少し驚いて後ずさりながら振り返る。

「ゲゲ、速いな……入ってきたのが分かるのか……」

僕の背後に立っていた人物は神主さんが話していた女性と恐らく同一人物で僕のだった。

「ゲゲってそんなに私に会いたくないなら入らなければいいのに……」

「確かに、いたいわけじゃないからそうしたいのはやまやまなんだが……何かと便利でね、この場所」

「ったく、私用利用するんじゃないわよ。一応、私の土地よ?? あ、もしかして昼頃来たのもアンタ??」

「昼頃……ああそうだな。ここにはからな。ちょっと利用させてもらったよ」

木陰を運ぶとき、目立ちたくなかった僕はここを通った。
お陰で人に見られず、なおかつ素早く家に着く事ができた。

「アンタ、裏の仕事にでも就いたの??」

「そんなわけ無いだろ?? ……一人が好きなんだよ」

彼女に木陰の存在がバレると恐らくというか間違いなく面倒くさいことになると悟った僕は少し誤魔化す。

「……結界をもう少し強化しないとね、まあそれでもアンタは入ってくるんでしょうけど」

「綻びがある方が悪いんだよ」

僕はそう言い放つとその場を去ろうとした。
しかし、案の定彼女に止められてしまった。

「あら、家に来るんじゃないの??」

「そんな予定を組んだ覚えは無いのだが……」

「まあいいじゃないの、会うのは久しぶりなんだし」

「すまないが今日は用事があるんだ。だから帰らせてもらう」

「アンタに用事なんて珍しいわね」

「僕にだって用事ぐらいあるさ」

「なら仕方ないわね……」

意外にも彼女はあっさり身を引いてくれた。
僕はその様子を少し不思議に思いながらも、木陰が待つ家に帰るべく、この幻想世界を歩き出した。
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