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序章
面白い出来事
しおりを挟む「お主、暇そうにしておるな?? よかったらじゃが、この神社で最近起きた面白い出来事でも聞くかい??」
無言の時間が暫く続き、気まずさを感じ始めていたその時、それに気付いたのか神主さんが話を振ってくれた。
「最近起きた面白い出来事ですか……」
僕はこれ以上の気まずさには耐えかねるので神主さんが言ったことを復唱する。
「そうじゃ。ちと摩訶不思議な出来事だった。こんな廃神社に近いところにも神様でも居るのかと思うほどにの……」
「じゃあお聞きしてよろしいですか?? 雨もまだまだ止みそうにないですしね」
僕は窓を横目にそう言った。
春雨は止むことを知らず、激しく大地を濡らしている。
神主さんはそうじゃなと相槌を打って話を始めた。
「儂はその日、境内の掃除をしておったんじゃ。愛用している箒で土やらなんやらをはらっていると、近くからガサガサと物音がしたんじゃ。普段の儂なら仕事を続けると思うのじゃが、その日は何を思ったのか儂はその音の正体を確かめに行こうとしたのだ。音のした方向はあそこの森じゃった。じゃから儂はその森に入ったんじゃ。」
神主さんはそう言いながら指を差した。
その先には、今は雨の所為で見にくいが神社を囲むような形をした森の一部が広がっていた。
「暫く進んでいると、森の力でか儂は冷静になったんじゃ。音を立てたのは熊で罠に嵌められのかも知れん。そう考えるのと同時に、儂の体は踵を返していた。じゃがここからが不思議なんじゃ」
神主さんはいつの間にか手に持っていたお茶を一口のみ、続ける。
「帰り道がなくなっていたんじゃよ。さっきまで儂の周囲を覆っていた木々は全く知らない木にかわり、通ってきた道は何処にも見当たらなかった。まさか神隠しにでも遭ってしまったかと困惑していると、前からタツナミソウに似た花を持った女性が来たんじゃ」
「……女性ですか??」
神主さんが話す出来事が僕の記憶と結びつき、僕は無意識に聞き返してしまった。
もしかすると僕はその人を知っているかもしれない。
「容姿はあまり覚えておらんが、女性じゃったよ。……その女性は驚いたような表情をして儂に何処から来たのか訊いてきた。じゃが儂は混乱していた所為もあってか返すことが出来なかった。すると、それを見かねたのか女性は念仏みたいなものを言うと去っていってしまった。女性が完全に儂の視界から消えると、儂は何故か元の場所に戻ってきていた。……とこんな出来事じゃがどうじゃ?? 中々に面白いじゃろう?? 儂は神様の仕業じゃと思っている。この廃神社に近いところにも神様が居ることに驚きじゃよ」
「そうですか……事実は小説より奇なりって言うのは案外満更でもないですね。それより、すいません。少し急用を思い出してしまって……。まだ雨が降ってますけど帰ります」
「そうか。急な別れじゃな。でも、ここにはまたいつでも来るといい。大抵、儂はここにおるからな」
「ありがとうございました!!」
僕は大きく礼を言うと、足早に目的地へ向かった。
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