僕は人を好きになれない

杜鵑花

文字の大きさ
上 下
7 / 47
序章

面白い出来事

しおりを挟む
 
「お主、暇そうにしておるな?? よかったらじゃが、この神社で最近起きた面白い出来事でも聞くかい??」

無言の時間が暫く続き、気まずさを感じ始めていたその時、それに気付いたのか神主さんが話を振ってくれた。

「最近起きた面白い出来事ですか……」

僕はこれ以上の気まずさには耐えかねるので神主さんが言ったことを復唱する。

「そうじゃ。ちと摩訶不思議な出来事だった。こんな廃神社に近いところにも神様でも居るのかと思うほどにの……」

「じゃあお聞きしてよろしいですか?? 雨もまだまだ止みそうにないですしね」

僕は窓を横目にそう言った。
春雨は止むことを知らず、激しく大地を濡らしている。
神主さんはそうじゃなと相槌を打って話を始めた。

「儂はその日、境内の掃除をしておったんじゃ。愛用している箒で土やらなんやらをはらっていると、近くからガサガサと物音がしたんじゃ。普段の儂なら仕事を続けると思うのじゃが、その日は何を思ったのか儂はその音の正体を確かめに行こうとしたのだ。音のした方向はあそこの森じゃった。じゃから儂はその森に入ったんじゃ。」

神主さんはそう言いながら指を差した。
その先には、今は雨の所為で見にくいが神社を囲むような形をした森の一部が広がっていた。

「暫く進んでいると、森の力でか儂は冷静になったんじゃ。音を立てたのは熊で罠に嵌められのかも知れん。そう考えるのと同時に、儂の体は踵を返していた。じゃがここからが不思議なんじゃ」

神主さんはいつの間にか手に持っていたお茶を一口のみ、続ける。

んじゃよ。さっきまで儂の周囲を覆っていた木々は全く知らない木にかわり、通ってきた道は何処にも見当たらなかった。まさか神隠しにでも遭ってしまったかと困惑していると、前からタツナミソウに似た花を持った女性が来たんじゃ」

「……女性ですか??」

神主さんが話す出来事が僕の記憶と結びつき、僕は無意識に聞き返してしまった。
もしかすると僕はその人を知っているかもしれない。

「容姿はあまり覚えておらんが、女性じゃったよ。……その女性は驚いたような表情をして儂に何処から来たのか訊いてきた。じゃが儂は混乱していた所為もあってか返すことが出来なかった。すると、それを見かねたのか女性は念仏みたいなものを言うと去っていってしまった。女性が完全に儂の視界から消えると、儂は何故か元の場所に戻ってきていた。……とこんな出来事じゃがどうじゃ?? 中々に面白いじゃろう?? 儂は神様の仕業じゃと思っている。この廃神社に近いところにも神様が居ることに驚きじゃよ」

「そうですか……事実は小説より奇なりって言うのは案外満更でもないですね。それより、すいません。少し急用を思い出してしまって……。まだ雨が降ってますけど帰ります」

「そうか。急な別れじゃな。でも、ここにはまたいつでも来るといい。大抵、儂はここにおるからな」

「ありがとうございました!!」

僕は大きく礼を言うと、足早に目的地へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

平凡な高校生活を送る予定だったのに

空里
恋愛
高校生になり数ヵ月。一学期ももうそろそろ終わりを告げる頃。 僕、田中僚太はクラスのマドンナとも言われ始めている立花凛花に呼び出された。クラスのマドンナといわれるだけあって彼女の顔は誰が見ても美人であり加えて勉強、スポーツができ更には性格も良いと話題である。 それに対して僕はクラス屈指の陰キャポジである。 人見知りなのもあるが、何より通っていた中学校から遠い高校に来たため、たまたま同じ高校に来た一人の中学時代の友達しかいない。 そのため休み時間はその友人と話すか読書をして過ごすかという正に陰キャであった。 そんな僕にクラスのマドンナはというと、 「私と付き合ってくれませんか?」 この言葉から彼の平凡に終わると思われていた高校生活が平凡と言えなくなる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...