僕は人を好きになれない

杜鵑花

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序章

質問

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「一緒に住むことになったんだし、とりあえず自己紹介でもするか」

「自己紹介……そういえばまだしてませんでしたね」

「僕の名前は八雲皐月やくもさつきだ。呼び方だが、別に呼び捨てでもなんでも呼んでくれて構わない」

「じゃあ皐月さんって呼びますね」

僕は別に嫌というわけでもないので無言で首肯した。
それにしても『皐月さん』か……こう呼ばれるのは学校の先生以来かもしれないな。

「次は私ですね。私の名前は橋本木陰はしもとこかげです。皐月さん同様になんとでも呼んで下さい」

「わかった。これからよろしくな木陰」

「……はい! よろしくお願いします!!」

僕らは互いに握手を交わした。
これで正式に僕は年頃の異性と一緒に過ごすことになった。
言い様によればだいぶやばいことしてるな。
まあ、出そうとは思ってないが手を出さなければ問題になることはないだろう。
僕が木陰を好きになることなんて万一にもないしな。

「自己紹介も終わったし、なんか質問とかあるか?? 今日からここに住むんだし色々と知っておいた方がいいだろう??」

「じゃあ、済んだ話を蒸し返すようで悪いんですが……本当に私を養えるんですか??」

「僕は昔から貯金をする性格でな。人間一人の一生を終わらせるぐらいの財はあるし、借金だって一括で返せる。だから心配するな」

「ご迷惑おかけしてすいません……」

「別にいいって言ってるんだけどなぁ……」

僕は半分呆れながらそう言って他に質問はあるかとさらなる質問を促した。

「さっきとは百八十度ぐらい違う質問なんですがお仕事は何をしてるんですか??」

「個人のゲームクリエイターだ。初めは趣味で始めたんだけどな。気付いたら仕事になってた」

「それはいいことですね」

木陰がそう相槌を打ったあと、少し間が空いた。
会話があまり長く続かない。
そこまで続けようとは思ってないが、誰とも関わらない時間が永すぎて僕のコミュニケーション能力が下がっているのかもしれない。
僕は新しい話を切り出すため、さっきと同じように質問を促した。

「他に質問は――」

僕はそこまで言って彼女の顔を少し見た。
そしてその後に続く予定だった言葉を飲み込み、代わりに新しい言葉を生み出した。

「なさそうだなその顔じゃあ……」

「質問はたくさんあるんでしょうけどいざ問われると浮かばなくて……」

「まあ思い浮かんだら後からでも質問してくれて構わない。別に期限があるわけでもないしな」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」

「じゃあ今日は色々と疲れただろうし、仮眠でも取っておくといい。あ、その前に例の借金取りの特徴とか教えてくれないか??」

「え?? 今から返しに行くんですか?? 危ないですよ!」

「借金取りはお金さえ受け取ればいいんだから危ないことはないだろ?? まあ任せておけよ」

「そう、ですか……でも一応気を付けてくださいね」

「ああ、もちろん」

僕は彼女に借金取りの特徴や前の家の住所を教えてもらった。
居るとしたら前の家周辺だろう。
僕はそれらをしっかり記憶し、未だに春雨が止まない外に出た。
もちろん、傘を片手に――
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