4 / 47
序章
過程
しおりを挟む「なんか、さっきまで死にたいって思ってた自分が馬鹿みたいです」
笑いの波が落ち着くと彼女が軽く微笑みながらそんな事を言った。
その様子を見て不意に僕は顔をほころばせた。
「それはよかった」
僕がそう返すとさっきまでとは打って変わって沈黙の時間が流れた。
次に僕らがどんな話をすればよいのか互いに察しているのだ。
どちらが先に言うかだが、きっと僕から話を切り出した方が彼女も話しやすいだろうしいいだろう。
そう思考し、僕は意を決して口を動かした。
「……掘り返すようで悪いんだが、なんで死のうとしたんだ??」
自ら命を絶つという決断に至るまでには過程が必要である。
彼女にも恐らく深い事情があるのだろう。
だからこそ訊きにくかったのだが。
「……そうですね……やっぱり訊きますよね」
「別に、無理にとは言わないが……」
「いや、言わせてもらいます。あなたには言っておくべきです。長くなるのでちょっとはしょりますが」
彼女はそう前置きをし、その台詞を吐くために大きく息を吸った。
僕はそれを聞く準備をした。
「私には父親が居たんですが、つい最近……って言っても先月ですが突然、蒸発したんです。どうやら私に隠して多額の借金があったみたいで……それで、私が一人で借金を返済しなければいけなくなって……」
「話を遮るようで悪いが母親は居ないのか??」
「いません。私が小さい頃に離婚したそうです」
「そうか……すまない、続けてくれ」
「……一週間ぐらい前までは返済しようとしてたんです。でも、遅すぎたみたいで……ついに借金取りが家に来たんです。初めはただ少し圧をかけて脅してくる程度だったのが徐々にエスカレートして終いには脅迫までしてきて、私は怖くなって逃げたんです。そして気付いたらあの川の前にいて……」
「そして今に至るってわけか……想像以上に壮絶な人生を送っているな。まだ幼いだろうに」
「すいません。こんな暗い話をして」
「いいんだよ。僕から振ったし」
急に謝られて少し困惑しながらも僕はそう返した。
前から薄々感じていたが彼女は育ちが良いようだ。
母親似なのだろうか。
「それより、借金ってのは今いくらぐらい残ってるんだ?? まさか六十一億とかはさすがにないよな??」
「そんなに借金があったらプロの野球選手じゃないと払えませんよ。残ってる借金は三百万円ぐらいです。」
「そうか……じゃあここに住むか??」
「え??」
僕がそう言うと、彼女は心の底から困惑しているというような素っ頓狂な声を出した。
「借金は僕が肩代わりしといてやるよ。それに、もう家も売り払われてるだろうしな」
「そ、そんな!! 申し訳ないですよ!」
「同仕様もないだろう?? 僕と一緒に住むのは嫌だろうが見殺しにはできない」
「別に、嫌ではないですけど……ただ本当に申し訳なくて」
「申し訳なく思う必要はないはずだ。それに僕も話し相手が欲しかったんだ。これなら互いにwinwinな関係だろ??」
「……じゃあ、住まわせていただきます……」
彼女は申し訳なさそうにそう言った。
僕は育ちが良すぎるというのも良くないなと今初めて思った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる