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序章
運命の天秤
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数秒間、沈黙の時間が続いたが彼女は再びソファーに座り込んだ。
賭けは僕の勝ちってことでいいだろう。
運命の天秤は彼女を生かす方に大きく偏っているようだ。
「どうして見知らぬ私にそこまでするのですか?? 私にはあなたが何を考えてるのかわかりません……」
「そこまでするって言ったって僕は特に何もしてないと思うのだが……」
「してますよ!! 川に飛び込んだりここまで運んできたり……」
「それらの行動理由はさっき言った通りだ。まぁちょびっとだけだが普通に生きてほしいって思っていたのかもしれないが……」
「そう、ですか……」
気付けば、彼女から怒りや悲しみが入り混じったような複雑な感情は消えていて、この頃になって漸く彼女は完全に落ち着きを取り戻したようだ。
「少し落ち着いたようだし……そうだな、まずは着替えるか??」
彼女のびしょびしょになった服を見て僕は少し目を逸らしながら言った。
別に透けて見えるわけじゃないが、少し目のやり場に困る。
「服は持ってないようだし……ちょっと待っててくれ」
僕はそう言って部屋から出て、物置部屋に向かった。
部屋の扉を開けると、掃除していなかったためか、ホコリが宙を舞った。
僕は部屋の割と奥の方から服を取り出し、それに付いていたホコリを軽く払い、また彼女がいる部屋に戻った。
「この服、お前には少し大きいかもしれないが……」
僕は持ってきたそれを彼女に手渡した。
「これは女性用の服……いいんですか??」
「別に着る人も居ないし問題ない。それに、着てもらわないと僕が困る。これ以上家を濡らすのはぜひとも勘弁してほしいからな」
「……ちょっと向こう向いてて下さい」
僕は別に見たいわけでもないので従順に指示に従った。
背後からガサゴソと物音がする。
少し気まずい。
「……いいですよ」
暫くして、彼女のその合図を聞き終わってから僕は振り返った。
「いいじゃないか。案外似合ってる」
その服に身を包んだ彼女を見て、僕はそう言った。
薄っぺらい感想だったかもしれないがこれが僕の精一杯だ。
「そうですか、ありがとうございます。それより、着替えてる途中、ずっと気になってたんですけど……」
彼女はそこで少し間を置いた。
言いにくいことなのかもしれない。
僕はほんの少しだけだが身構えた。
「女装癖でもあるんですか??」
「は??」
僕は思わず素っ頓狂な声を出した。
こんなことに身構えた僕が馬鹿だった。
まぁ予測できるわけないが。
「お前、絶対死にたくなかっただろ」
「なんでです??」
「さっきまで自殺しようとしてた人間が放つような質問じゃないからだよ!!」
「あはは! それもそうですね」
彼女が笑うと僕も釣られて笑ってしまった。
「漫才をやってるわけじゃないんだけどなぁ……」
暫くの間、僕らは互いに笑い合った。
彼女の笑顔を見ると、どうしても自殺を図ろうとした人間の顔には見えなかった。
この様子だと、本当にあの時だけ気が動転していたのかもしれない。
まぁ、僕がしつこいから全てを諦めているだけかもしれないが。
ともかく、とりあえずは大丈夫そうだと僕は安堵した。
ちなみに、女装癖がないことはしっかり説明した。
賭けは僕の勝ちってことでいいだろう。
運命の天秤は彼女を生かす方に大きく偏っているようだ。
「どうして見知らぬ私にそこまでするのですか?? 私にはあなたが何を考えてるのかわかりません……」
「そこまでするって言ったって僕は特に何もしてないと思うのだが……」
「してますよ!! 川に飛び込んだりここまで運んできたり……」
「それらの行動理由はさっき言った通りだ。まぁちょびっとだけだが普通に生きてほしいって思っていたのかもしれないが……」
「そう、ですか……」
気付けば、彼女から怒りや悲しみが入り混じったような複雑な感情は消えていて、この頃になって漸く彼女は完全に落ち着きを取り戻したようだ。
「少し落ち着いたようだし……そうだな、まずは着替えるか??」
彼女のびしょびしょになった服を見て僕は少し目を逸らしながら言った。
別に透けて見えるわけじゃないが、少し目のやり場に困る。
「服は持ってないようだし……ちょっと待っててくれ」
僕はそう言って部屋から出て、物置部屋に向かった。
部屋の扉を開けると、掃除していなかったためか、ホコリが宙を舞った。
僕は部屋の割と奥の方から服を取り出し、それに付いていたホコリを軽く払い、また彼女がいる部屋に戻った。
「この服、お前には少し大きいかもしれないが……」
僕は持ってきたそれを彼女に手渡した。
「これは女性用の服……いいんですか??」
「別に着る人も居ないし問題ない。それに、着てもらわないと僕が困る。これ以上家を濡らすのはぜひとも勘弁してほしいからな」
「……ちょっと向こう向いてて下さい」
僕は別に見たいわけでもないので従順に指示に従った。
背後からガサゴソと物音がする。
少し気まずい。
「……いいですよ」
暫くして、彼女のその合図を聞き終わってから僕は振り返った。
「いいじゃないか。案外似合ってる」
その服に身を包んだ彼女を見て、僕はそう言った。
薄っぺらい感想だったかもしれないがこれが僕の精一杯だ。
「そうですか、ありがとうございます。それより、着替えてる途中、ずっと気になってたんですけど……」
彼女はそこで少し間を置いた。
言いにくいことなのかもしれない。
僕はほんの少しだけだが身構えた。
「女装癖でもあるんですか??」
「は??」
僕は思わず素っ頓狂な声を出した。
こんなことに身構えた僕が馬鹿だった。
まぁ予測できるわけないが。
「お前、絶対死にたくなかっただろ」
「なんでです??」
「さっきまで自殺しようとしてた人間が放つような質問じゃないからだよ!!」
「あはは! それもそうですね」
彼女が笑うと僕も釣られて笑ってしまった。
「漫才をやってるわけじゃないんだけどなぁ……」
暫くの間、僕らは互いに笑い合った。
彼女の笑顔を見ると、どうしても自殺を図ろうとした人間の顔には見えなかった。
この様子だと、本当にあの時だけ気が動転していたのかもしれない。
まぁ、僕がしつこいから全てを諦めているだけかもしれないが。
ともかく、とりあえずは大丈夫そうだと僕は安堵した。
ちなみに、女装癖がないことはしっかり説明した。
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