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序章
お持ち帰り
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あれから、一時間は経っただろうか。
僕は彼女を担いで家に帰ってきていた。
少し休憩はできたものの、冷たい川に飛び込んでなおかつびしょびしょの状態でここまで歩いてきた時の疲労はまだまだ残っていた。
彼女は幸運なことに生存していて、今はソファーで寝かせている。
流石に着替えさせることはできなかったので、ソファーは外に置いていたかのように濡れていた。
「あーあ、後で何とかして乾かさないとな……」
悲惨なことになっていたソファーを見て呟く。
家を改めて見回してみると、それだけではなく家中のいろんなものが同じようになっていた。
帰宅したらすぐに着替えればよかったな。
あの時は僕にしては珍しくもなく割とパニックになっていたため、着替えることが頭からすっかり抜け落ちていた。
もちろん、今は着替えているが。
そんなどうでもいいようなことを思考していると、ソファーの方から物音がした。
どうやら彼女が目を覚ましたようだ。
「……ここは……??」
混乱しているのかソファーから起き上がった彼女は周囲を見回しながら困惑気味にそう呟いた。
「お前、自分がやろうとしたこと覚えているか??」
僕がそう訊くと彼女はこちらを向き、互いの視線が交錯すると何かを思い出したような顔をし、僕のことを捉えた瞳は僕を訝しむようなものに変わった。
「思い出したか……まあそう警戒するんじゃない。別にやらしいことをしようと思って連れてきたわけじゃない。完全に善意だ。まあ、こういうのを偽善っていうんだろうが……」
僕は彼女に刺激を与えないようになるべく慎重に言葉選びをすることにした。
まずは彼女を落ち着けることが最優先だ。
「……何処の誰かは知りませんが、私を止めないで下さい。それに、偽善だと思ってるならやめて下さい。それは、ただのあなたの自己満足でしょう?? とにかく、私は帰ります」
彼女はまくし立てるように言うと、ソファーから立ち上がった。
今の彼女は敬語で話しているため、きっとさっきより冷静だ。
もともとはこんな感じの子だったのだろう。
それより、今なら言葉の力で止めることができるかもしれない。
「帰るって……外は雨が強くなってるし、どうせまた死にに行くんだろ??」
「あなたには関係ないですよね?! 私を助けようとするのはやめて下さい!! 何がしたいんですか、あなたは!!」
「落ち着けよ。別に助けようとしてるわけじゃないさ。ただ、目の前で死んでほしくないだけだ。もう、人が死ぬのをみるのはごめんなんでな。だから、死ぬなら一人で死ねってことだ」
言葉の力で引き止めると言っても僕にはそんな語彙力はないのでいきなり最終手段だが僕は賭けてみることにした。
もし、僕が公園にいたあの時、この子を引き止めたのが必然だとしたら彼女はきっと出て行かないだろう。
そうでなければきっと彼女は出ていく。
そうなったら僕は止めない。
そういう運命だったってことで割り切ろうと思う。
人の命を賭けた賭博、これはきっと大罪だ。
しかし、罪は死ぬほど犯した。
これ以上増えたって変わらない。
それに、僕にはこの結果がすでに見えている。
僕は彼女を担いで家に帰ってきていた。
少し休憩はできたものの、冷たい川に飛び込んでなおかつびしょびしょの状態でここまで歩いてきた時の疲労はまだまだ残っていた。
彼女は幸運なことに生存していて、今はソファーで寝かせている。
流石に着替えさせることはできなかったので、ソファーは外に置いていたかのように濡れていた。
「あーあ、後で何とかして乾かさないとな……」
悲惨なことになっていたソファーを見て呟く。
家を改めて見回してみると、それだけではなく家中のいろんなものが同じようになっていた。
帰宅したらすぐに着替えればよかったな。
あの時は僕にしては珍しくもなく割とパニックになっていたため、着替えることが頭からすっかり抜け落ちていた。
もちろん、今は着替えているが。
そんなどうでもいいようなことを思考していると、ソファーの方から物音がした。
どうやら彼女が目を覚ましたようだ。
「……ここは……??」
混乱しているのかソファーから起き上がった彼女は周囲を見回しながら困惑気味にそう呟いた。
「お前、自分がやろうとしたこと覚えているか??」
僕がそう訊くと彼女はこちらを向き、互いの視線が交錯すると何かを思い出したような顔をし、僕のことを捉えた瞳は僕を訝しむようなものに変わった。
「思い出したか……まあそう警戒するんじゃない。別にやらしいことをしようと思って連れてきたわけじゃない。完全に善意だ。まあ、こういうのを偽善っていうんだろうが……」
僕は彼女に刺激を与えないようになるべく慎重に言葉選びをすることにした。
まずは彼女を落ち着けることが最優先だ。
「……何処の誰かは知りませんが、私を止めないで下さい。それに、偽善だと思ってるならやめて下さい。それは、ただのあなたの自己満足でしょう?? とにかく、私は帰ります」
彼女はまくし立てるように言うと、ソファーから立ち上がった。
今の彼女は敬語で話しているため、きっとさっきより冷静だ。
もともとはこんな感じの子だったのだろう。
それより、今なら言葉の力で止めることができるかもしれない。
「帰るって……外は雨が強くなってるし、どうせまた死にに行くんだろ??」
「あなたには関係ないですよね?! 私を助けようとするのはやめて下さい!! 何がしたいんですか、あなたは!!」
「落ち着けよ。別に助けようとしてるわけじゃないさ。ただ、目の前で死んでほしくないだけだ。もう、人が死ぬのをみるのはごめんなんでな。だから、死ぬなら一人で死ねってことだ」
言葉の力で引き止めると言っても僕にはそんな語彙力はないのでいきなり最終手段だが僕は賭けてみることにした。
もし、僕が公園にいたあの時、この子を引き止めたのが必然だとしたら彼女はきっと出て行かないだろう。
そうでなければきっと彼女は出ていく。
そうなったら僕は止めない。
そういう運命だったってことで割り切ろうと思う。
人の命を賭けた賭博、これはきっと大罪だ。
しかし、罪は死ぬほど犯した。
これ以上増えたって変わらない。
それに、僕にはこの結果がすでに見えている。
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