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序章
出会い
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春は出会いと別れの季節――
故に人間の感情が大きく変化する季節でもある。
そのため、こんな春雨が降る日なんかには自ら世界を去ろうとする人間が現れたって何ら不思議ではない。
細い春雨にうたれながら、僕は人気のない古びた公園のこれまた古びたベンチにただ一人、座っていた。
別に雨にうたれたいがためにここに来たわけじゃない。
僕が趣味の散歩の休憩でベンチに座っていたら勝手に雨が降ってきた、ただそれだけのことだ。
それでも僕が動かないのは本当は雨にうたれたいのか、はたまた濡れずに帰ることを諦めたのか、僕にはわからなかった。
「はぁ……、まったく……近ごろの天気は予想できないな……。晴れてると思ったら雨が降ったり、逆に雨が降ってると思ったら晴れたり……」
ため息混じりに僕はそう溢した。
その独り言はすぐに雨に流され、地面へと溶けていった。
「この様子じゃあ、そこの川もだいぶ流れが激しくなってるだろうな。あそこの川はこれといって対策をされているわけじゃないし、氾濫する前に帰るとするかな……」
そんなどうでもいい事を言いながら、僕はゆっくりと立ち上がった。
当然のことだが服が水を含んで想像以上に重くなっていて、僕は少し顔をしかめた。
「帰ったら面倒くさいな……」
僕がどうしようかと思考していると、モノトーンの人影が目の前を駆け抜けていった。
突然のことで、一瞬、思考が停止したが気になった僕はその影の跡をつけてみることにした。
この際、いくら濡れようがそう大差ないだろう。
影を見失わないように割と全力で走ってきた僕は案の定激流と化した川の目の前まで来ていた。
僕が跡をつけていたその影は川沿いに建てられているフェンスに手をかけ、今にも川に飛び込みそうだった。
ここで何もしなかったら恐らく助からないだろう。
そう思った瞬間、僕は無意識に叫んでいた。
「おい! お前!! 何してるんだ!?」
走って息切れしていたため、掠れた声しか出なかった。
いつもの僕ならこんな偽善じみた面倒くさいことはしなかっただろう。
しかし、何故かここで死なせてはいけないと思ったのだ。
「だ、誰?!」
人がいると想定していなかったためか、その影は驚いてこちらに振り返った。
そこで初めてその影の容姿を僕の瞳がはっきりと捉えることができた。
その影は、高校生ぐらいの少女だった。
そして、雨でびしょびしょになっていてもわかるぐらいには彼女の目から涙が溢れていた。
「誰って……今はそんなことはどうでもいい。それよりも、少し冷静になった方がいい。何があったかは知らんがきっとお前は気が動転している。こんなところで死を迎えようとするなんてな」
彼女を制止するべく、僕はそんな言葉を投げる。
だが、効果はこれといって無かった。
「あなたには関係ないでしょ?!」
「確かに、関係ないが……だけど」
「だったら帰って!! あなただって人が死ぬところをみたいわけじゃないでしょ?」
僕の言葉は遮られ、彼女が続けて叫んだ。
刹那、近くで雷が轟いた。
突然の出来事に驚いたのか彼女はよろけて川に転落した。
僕は次にどうするかとっくの昔に決めていた。
故に人間の感情が大きく変化する季節でもある。
そのため、こんな春雨が降る日なんかには自ら世界を去ろうとする人間が現れたって何ら不思議ではない。
細い春雨にうたれながら、僕は人気のない古びた公園のこれまた古びたベンチにただ一人、座っていた。
別に雨にうたれたいがためにここに来たわけじゃない。
僕が趣味の散歩の休憩でベンチに座っていたら勝手に雨が降ってきた、ただそれだけのことだ。
それでも僕が動かないのは本当は雨にうたれたいのか、はたまた濡れずに帰ることを諦めたのか、僕にはわからなかった。
「はぁ……、まったく……近ごろの天気は予想できないな……。晴れてると思ったら雨が降ったり、逆に雨が降ってると思ったら晴れたり……」
ため息混じりに僕はそう溢した。
その独り言はすぐに雨に流され、地面へと溶けていった。
「この様子じゃあ、そこの川もだいぶ流れが激しくなってるだろうな。あそこの川はこれといって対策をされているわけじゃないし、氾濫する前に帰るとするかな……」
そんなどうでもいい事を言いながら、僕はゆっくりと立ち上がった。
当然のことだが服が水を含んで想像以上に重くなっていて、僕は少し顔をしかめた。
「帰ったら面倒くさいな……」
僕がどうしようかと思考していると、モノトーンの人影が目の前を駆け抜けていった。
突然のことで、一瞬、思考が停止したが気になった僕はその影の跡をつけてみることにした。
この際、いくら濡れようがそう大差ないだろう。
影を見失わないように割と全力で走ってきた僕は案の定激流と化した川の目の前まで来ていた。
僕が跡をつけていたその影は川沿いに建てられているフェンスに手をかけ、今にも川に飛び込みそうだった。
ここで何もしなかったら恐らく助からないだろう。
そう思った瞬間、僕は無意識に叫んでいた。
「おい! お前!! 何してるんだ!?」
走って息切れしていたため、掠れた声しか出なかった。
いつもの僕ならこんな偽善じみた面倒くさいことはしなかっただろう。
しかし、何故かここで死なせてはいけないと思ったのだ。
「だ、誰?!」
人がいると想定していなかったためか、その影は驚いてこちらに振り返った。
そこで初めてその影の容姿を僕の瞳がはっきりと捉えることができた。
その影は、高校生ぐらいの少女だった。
そして、雨でびしょびしょになっていてもわかるぐらいには彼女の目から涙が溢れていた。
「誰って……今はそんなことはどうでもいい。それよりも、少し冷静になった方がいい。何があったかは知らんがきっとお前は気が動転している。こんなところで死を迎えようとするなんてな」
彼女を制止するべく、僕はそんな言葉を投げる。
だが、効果はこれといって無かった。
「あなたには関係ないでしょ?!」
「確かに、関係ないが……だけど」
「だったら帰って!! あなただって人が死ぬところをみたいわけじゃないでしょ?」
僕の言葉は遮られ、彼女が続けて叫んだ。
刹那、近くで雷が轟いた。
突然の出来事に驚いたのか彼女はよろけて川に転落した。
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