魔王は喫茶店を開きたい

杜鵑花

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部屋

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 「……この部屋、もう何年も使っていないらしいぞ」

喫茶店に使うための空き部屋を探すべく城内を彷徨っていた俺は埃っぽいその部屋の入口を指して彼女に言った。

「他はないのでしょうか??」

「俺は城を歩くことがほぼないからな。そういうのはお前のほうが詳しいんじゃないか??」

俺は最高精度の瞬間移動を使って城内を移動するため、廊下に出ることが少ない。
故に彼女のほうが城の構成を知っている。
そう思って訊いてみたのだが…… 

「……そんなことないですよ。広いですしね、ここは」

「そうか……何十年過ごしてきても部屋を覚えきれないほど広いか……。で、だとすると、今のところここしか候補がないわけだがどうする??」

「そうですね……。まぁ、この部屋も掃除をしたら使えないこともないでしょうし。もうここにしますか!!」

「なら決まりだな。じゃあ掃除からだな」

俺は右手を部屋の入口に突き出し手のひらに魔力を集める。
そして、それが十分に集まった瞬間、部屋が赤く燃えた。

「な、何が起こったのでしょうか……?!」

突然の出来事に彼女は驚いていた。
しかし、俺が喫茶店を開きたいと言った時よりは驚いていなかった。
彼女の中での驚きのランク付けはどうなっているのだろうか。
一瞬、疑問に思ったがすぐにどうでもいいかとなり、彼女に起きた出来事について説明することにした。

「埃の一つ一つを火炎魔法で燃やした。一気に燃やしたら火事になってしまうからな」

「恐ろしく緻密な魔力操作、さすが魔王と言ったところでしょうか」

「ま、とにかくこれで掃除はできたはずだ。中に入ろう」

室内は埃一つなく、清潔感にあふれていた。
これなら衛生面にも問題なく喫茶店を開けそうだ。

「いいですね。まるで新しい部屋のようです。ただ、喫茶店を開くには問題があるんじゃあないですか??」

「何だ? 広さも丁度良いし問題は無いと思うのだが……」

「キッチンが見当たらないのですが……」

部屋には家具が何一つなかった。
本当に新しい部屋のようだ。

「それは、大問題だな。まあ最悪、城の大キッチンを使ってもいいが、何とか魔法で具現化してみるよ」

具現化魔法はかなりの想像力を要する。
つまり、普段使わないものは具現化し難いのだ。
しかし、俺には小説で読んだ知識がある。
そのため、ある程度は想像できるはずだ。

「具現化魔法を行うのであれば大キッチンを詳しく見てからのほうが良いんじゃないですか??」

「嫌だな。あんな禍々しいキッチンみたいになるのはごめんだ。俺の理想のキッチンを想像してみせるさ」

俺は深く呼吸をし、想像力を働かせた。
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