魔王は喫茶店を開きたい

杜鵑花

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発端

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 薄暗く、辺りに瘴気が漂っているここは魔王、つまり俺の部屋だ。
部屋の中央には趣味の悪い大きな玉座が置かれており、両サイドには本棚が立ち並んでいる。
俺はその内の一冊を手に取り、玉座に座って興味深そうにそれを眺めていた。
その時、ギギギギと耳を塞ぎたくなる音をたてて部屋の扉が開いた。
俺は後で魔法で建て付けを調整しておこうと考えた後、本をパタと閉じ訪問者の方へ向き直った。

「何の用だ? 側近」

訪問者は俺の側近の女性だった。
彼女は丁寧に扉を閉めると、持っていた書類を魔法で俺の手に飛ばした。

「今月の魔王城各部の担当職員からの報告です。ご確認ください」

「ありがとう。どれどれ……」

俺は彼女にそう礼を言い、その書類に目を通し始める。
途端に周囲が静けさに包まれた。
静寂が嫌いな俺は書類を見ながら彼女に質問をする。

「その腰につけた剣、新調したのか??」

「えっ? これのことですか? はい、新調しましたけど……何か??」

そんなことをいきなり訊かれるとは思っていなかったのか、彼女は困惑混じりに答える。

「いや、気になったんでな。……っと、確認終わったぞ。問題はなかった。一つもな」

「そうですか、それでは――」

そう言い、彼女はきびすを返そうとする。

「いや、ちょっと待ってくれ」

しかし、俺は彼女を呼び止めた。
ドアノブに掛けようとしていた手を引っ込め、彼女は再びこちらを向く。

「他に何か用が??」

「用って程じゃあないんだが、ちょっと話したいことがあってだな」

「何でしょうか??」

「まずこれを見てくれ」

俺は自分がさっき読んでいた本を取り、あるページを彼女に見せる。
そこには、お洒落な雰囲気が漂う店の絵が描かれていた。

「何が描かれているか判るか??」

「喫茶店でしょうか??」

「ああ、そうだ。これは喫茶店だ。そこの本棚に並ぶ小説の中にもこれが良く出てくる。だから俺は喫茶店とやらに興味を持った。そこで、だ」

彼女は話の先が読めないのかキョトンとしている。
しかし、俺は構わず言葉を紡ぐ。

「側近よ。俺と喫茶店を開かないか??」
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