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事件前:地下鉄の騒動【PERT⓪】
しおりを挟む────2017/9/20/Wed────
セクター-0.Ω-0個別ルーム-PM7:15-
なんの物音もしない暗闇。ここが何処なのか、どんなものがあるのか、皆目見当もつかない。人を不安にさせるような暗闇。
突如、そこは光で満たされた。どうやら、そこは小さな部屋のようだった。白い壁に灰色のカーペット。綺麗に整えられたベッドに、シャワールームへ続く扉、壁にかけられたテレビと、壁と同色のタンス。それらは綺麗に整えられており、汚れなども見受けられない。しかし、それによって、紙に溢れたデスク周りはひときわ浮いていた。
照明がつき数秒して、部屋の角の扉がウィンと音を立てて開いた。
「…こんばんは。ミスター・エージェント・アレックス。報告が五件来ています」
機械音声が響く。それに応えるのは、青年の声。
「あぁ、順番に頼むよミス・イヤー。悪いけど、手が離せなくてね」
青年は手に持った書類をドサっとデスクに置くと、ガサガサと書類を漁る。椅子に腰掛け、机の上にぶちまけられた書類をかき分ける青年は、見たところ20代のようだ。漆黒の髪色と赤い瞳は米国人にしてはとても珍しく、藍色の制服の着て、丸めた上着を小脇に抱えている。
そのデスクに置かれた端末にはひとりの女性が映っている。女性は画面の中で口を動かした。
「はい。では、AM11:00。ミスター・エージェント・エドワードより中華人民共和国香港特別行政区Sunshine City Plaza-サイト。『ハローアレックス!調子はどうだい?こっちは最悪さ!わざわざ中国くんだりに来てやったのに、SCP-1830Aとの面会はダメだった!ほんとにO5から許可が降りてんのか?全く頭の硬い奴らだ。…だがまぁ、色々と面白いものを見つけたぜ!写真送っとくからよ!じゃあな!もう数日遊んでから戻るわ!』以上です」
綺麗な女性の声と、張りのある元気なおじさんの声を使い分けてメールを読み上げるミス・イヤー。その後に、画面から消え、画面には数枚の写真が表示された。
「…これは?」
気になったのか、アレックスが端末を覗き込むとそこにはどこかのテーマパークの写真が何枚も載せられていた。
「これは、香港ディズ…」
「あぁ、もういい。次に行ってくれ」
飽きれたように目を離す。
「分かりました。ではPM2:30。ミス・エージェント・レイよりアメリカ合衆国ニュージャージー州バッキンガム。『アレックス。こちらゴーストバスターズ。バッキンガムの第三製材所で未確認オブジェクトクラスeuclidを捕獲。被害は最小限にとどめたけれど六人の戦闘部隊が死んだわ。このオブジェクトは無力化してあるから、明日にはサイト-1に送り届けるわ』以上」
「…」
「PM4:30。ミスター・エージェント・クラウスよりアメリカ合衆国ニューヨーク州ロチェスター市ロチェスター廃棄地下鉄線。『例の目撃対象はグールの群れであったと思われる。殲滅、死体処理は完了。問題もなく目的は終了した…しかし、なにやらエージェント・アイズに気がかりになっていることがある様子だ。十中八九お前に押し付けられたことについてだろうが…一応、俺から言っておくこととしては、簡単すぎたってことだ。俺は今からサイト-1、O5の奴らの元へ向かう。今頃アイズが戻ってきているだろうから、謝っておけよ』以上」
「…ハァ…アイズには説明したはずなんだがな…まぁいい分かった。クラウスが行ってくれるなら手間が省ける」
「PM4:34。ミスター・エージェント・クラウスよりアメリカ合衆国ニューヨーク州ロチェスター市ロチェスター廃棄地下鉄線。『報告忘れがあった。このグール達は全部で31体。血液採取。血液鑑定結果として、こいつらは安定して人肉を摂取している。貯蓄でもあるのか知らないが、こんな人がいないところでよく31体分も集めたものだ』以上」
「…ふむ」
「最後の報告です。PM5:00。ミスター・エージェント・マークスより、『SCP-169の微弱活性化を確認。K-xの危機増加につき注意されたし。セクター-0のクレフ博士へ報告及びサイト-1へ報告必要』以上」
「…SCP-169が動き出した?」
「ミスター・エージェント・マークスからの情報を見ると、SCP-169は昨日から0.1cm移動しています。これによって、太平洋諸島への津波被害が発生しました」
「そうか…文献でしか見たことは無かったが…分かった。クレフ博士にメールを飛ばしてくれ」
アレックスは書類を纏め、デスクの端に放った。
「クレフ博士は端末の使用が規制されています」
「…なんでそんな例の博士みたいな…」
アレックスはため息をつく。
「例の博士、とはジャック・ブライト博士のことですか?」
「やめておけミス・イヤー。彼は世界の裏でも自分の名を呼ぶ声が聞こえるらしい」
「……その症状について検索しています。結果が出ました。幻聴を引き起こす精神疾患を抱えているものと推測されます。詳細を見ますか?」
「…AIにも、ジョークを理解する機能が欲しいところだね」
アレックスは、抱えていた制服の上を羽織ると、キュッとネクタイをしめた。
「また書類仕事は後回しだ…全く、仕事好きのドッペルゲンガーが欲しいよ」
譫言のようにぼやくと、端末は再度反応を示す。
「……ドッペルゲンガーの記録に関してライブラリにヒットしました」
「…勝手に参照しててくれ。それじゃ、行ってくるよ。なるべくすぐに戻る」
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