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第2章 お城の外へ。常識を知る

凱旋

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 ノランたちと合流して、ルオフィキシラリアの街に戻る。
 血は洗い流したし、全員新しい服に着替えた。なかなか良い感じだ。

 兵士たちはお揃い服で統一感があるし、魔族たちは綺羅びやかな服をまとった。ヘルハウンドたちだって、赤い布切れで飾り立ててある。急ごしらえにしては、悪くない衣装が揃えられたと言っていい。

 しばらくすると、街が見えてきた。
 城壁の外に多くの人が集まっている。外壁のさらに外側には、貧民が住むボロ小屋が軒を連ねている。だが今集まっているのは、スラムの住民ではないようだ。

「ノラン、そなたなにかやったかの?」
「近くの村や町にも触れを。お気に召しませんか」

 宣伝効果を高めるために、より広い範囲に情報を回してくれたようだ。
 ノランは武官の割に、察しもいいし手回しも良い。将来的には、宰相のような仕事をまかせてもいいかもしれない。

「いや、よくやった。みな、予定より早いが隊列を組め」

 ノランを先頭にして、きっちりと整列する。
 彼も配下も、歴戦の猛者たちらしくキビキビと動いた。

 オレとファロン以外が徒歩なのが、少し残念だ。
 馬にでも乗っていたほうがカッコよかっただろうに。いちおうヘルハウンドに乗らないかと勧めてみたのだが、みんなに断られたのだった。

 わぁぁぁ!

 住民たちから歓声が上がった。オレたちに気づいたらしい。
 集まった人も多いし、かなり盛り上がっている。水浴びに時間がかかりすぎてクナーに叱られたが、遅れたくらいでちょうどよかったのだ。

 門に近づくにつれ、人々の顔もはっきり見えるようになってきた。
 ノランの説明がうまくいったようで、シロを見ても怯える様子はない。


 * * * * *


 門を通りぬけ、城に向かって行進する。
 オレはシロの上から街の人々に手をふった。そのたびに大きな歓声があがる。

 なんだかお祭りみたいだ。
 よく見ると、なにか食べ物を売って歩いている抜け目のない連中もいる。

 ──大通りを進み、中央広場まで来たところで行進を止めた。
 人々の熱狂が高まるばかりで、このまま解散させるのもどうかと思ったのだ。

「みなのもの、静まれ」

 魔法で強化した声で呼びかける。
 少しづつ歓声が低くなり、やがてあたりは静寂に包まれた。
 オレは、ゆっくりと人々を見回した。

「よく集まった、わが民よ。まず、先王が没してより9年もの無為をわびよう」

 いったん言葉を止めて様子をみる。
 すこしざわめいているが、騒ぎ出す者はいない。

「だが今日より先は、そなたらが誇れる主たることを誓う。わらわは魔狼フェンリルを降して、その力をしめした──」

「グォォオォォ!」

 突然シロが吠えた。
 住民に恐慌が走り、悲鳴が上がる。近くにいた者が、あわてて逃げ出そうとするが、密集した人混みに身動きがとれない。

 いきなりなんだ、シロが野生の本性をあらわしたのか……!?
 一瞬オレも緊張したが、シロが何かをする気配はない。咆哮のあと、何事もなかったように元の姿勢に戻った。

「シロ、伏せ! おとなしくしていよ!」
「ウォフ……」

 オレが厳しい口調でたしなめると、シロは叱られた子供のように小さくなった。
 ……なんとなく今のは、魔狼フェンリルという単語に反応しただけのような気がする。自分の紹介がされているとでも勘違いしたか?

 シロの咆哮に、住民はパニックをおこす寸前だった。
 けれども、オレがシロをおとなしくさせたことで、みな安心したようだった。

 シロには驚かされたが、住民へのパフォーマンスとしては、なかなか良かったかもしれない。おそろしい魔物を完全に御している、と印象付けられたはずだ。

「このように、強大なフェンリルでさえ、わらわに従う。そなたらも安んじてわらわについてくるがよい。栄光の日々をそなたらに与えよう!」

「ディニッサ様!!」「ディニッサ様!!」「ディニッサ様!!」

 大地を揺らすような、今日一番の歓声が群衆からあがった。
 ヘルハウンドたちが、逆に怯えるほどの大歓声だ。

 今日この日、トゥーヌルの時代が終わった。
 ──そして、ディニッサの時代が始まったのだ。
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