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第5章 戦争、休憩、戦争

076 初陣3

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 跳ねるように戦場上空を動くオレ。
 眼下には百人近い魔族。

 アッフェリ軍は、それぞれに魔法で攻撃をしてくる。オレも無傷というわけにはいかないが、大きなダメージは負っていない。ゴニンヴ作のヒラヒラドレスは、見た目に反して高い防御力を持っていた。

 アッフェリと白髪のケンタウロスはすでに死んでいる。
 オレの執拗な砲撃をくらって、完全に再生が止まっていた。

 『我が軍に、死を恐れるような臆病者はいない』だったか、アッフェリのセリフは。あれほど大言壮語をしたのだから、殺されても文句はあるまい。

 オレの「砲撃回避」を捉えられないと見て、敵の攻撃は誘導弾が主体になっていた。誘導弾は回避が難しく、少しづつとはいえ、オレの魔力が削られていく。

 けれども、まったく問題はない。すべて計算通りだ。
 なぜなら、それはまるで効率の悪い攻撃だからだ。

 魔族の闘争は、魔力の削り合いだ。
 そして一般的に、もっとも効率の良い攻撃は接近戦である。

 距離が離れるほどに消費魔力が増大するために、自分の肉体を強化するのが最適解となるのだ。誘導弾など、最低効率の攻撃だと断言できる。オレの魔力を1削るのに、敵は10くらいの魔力を使っているだろう。

 対して、オレの砲撃は高効率の攻撃法だ。
 砲弾作製、水素作製、酸素作製、火花作製。アクションは多いが、そのすべてが「安い」。エネルギーは化学反応が出してくれるので、敵の魔法とは比べ物にならないほどに消費魔力が少ないのである。

 砲身強化だけが少し高い。しかしこれも一瞬ですむため、問題になるほどでもない。大雑把に言うと、作製物×距離×時間が消費魔力となる。瞬時に消えるならばごくすくない魔力ですむというわけだ。

 思った以上に順調だった。
 相手が十人以下なら、この戦法で完封できただろう。けれど、さすがに92人もいると、こっちの魔力が持ちそうもない。

 ──今は、高度10mくらいを維持して敵と撃ち合っている。
 これを高度100mに上げれば、敵の攻撃をさらに弱めて安全に戦うこともできる。対してこちらの砲撃は、100mでも十分に致命傷を負わせられる。

 しかしこちらにも事情があって、それはできない。

 魔法攻撃の合間にジャンプ攻撃をしてくる魔族が増えてきた。
 空中を高速移動するオレを捕らえるのは困難だが、もしも成功すればその効果は絶大だ。悪くない戦法だろう。

 ただし、オレが一人きりならば、だ。
 すでにトレッケ一族が、オレのフォローに駆けつけている。

 今また、オレの目の前にジャンプしたカエル男を、トレッケが光る剣で切って落とした。空中制御が効かない敵と、自由に空を飛べるバードマンでは勝負にならない。

「ご苦労。みごとな腕前じゃな」
「みごとなのは貴殿の攻撃である。これほどの魔法は吾輩も始めて見る」

 すれ違いざまに、トレッケに声をかけた。
 彼らのおかげで、オレは対地砲撃に集中できる。オレが爆撃機で、彼らが護衛戦闘機といったところか。

「しかしディニッサ殿、その音はどうにかならんのか。このままでは、吾輩たちの耳が潰れてしまうぞ」

「すまぬが、どうにもらなぬ。この音も魔法の一部じゃ」

 原理上、音は無くすことができない。魔法ではなく純粋な物理現象なのだから。
 そもそも一番音に苦労しているのは、発射しているこのオレなんだぜ。

『純金弾』

 オレは、地面に叩き落とされたカエル男に純金弾を叩き込んだ。これでアイツも死亡ルート確定だ。再生が止まるまで、オレが延々と砲弾を送り込むから。

 敵に飛行可能な魔族がほとんどいなかったのは幸いだった。いたのは天使系魔族の女性が一人だけ。そしてその天使はすでにミンチになっている。

 ……女性まで容赦なく殺したのは、恥ずべき行為だろうか。
 否。戦場で男女の区別などない。戦う意志を持ってこの場に立ったのなら、たとえそれが子供であろうと躊躇なく殺すべきだ。

 そもそもその視点でながめるならば、連中こそが大勢で幼女に襲いかかる外道ではないか。元の世界の道徳観念を戦場にまで持ち込むのは、不要であるし、それ以上に危険でもあるだろう。


 * * * * *


 ジャンプが得意な種族、風系魔法が得意な者はあらかた潰した。
 魔族なら誰でもオレが飛んでいる高さくらいはジャンプできる。だが、慣れない行動のため、動きが単調でよけやすい。

「ディニッサ殿、そろそろ吾輩たちは地におりたほうがよいのではないか? もう護衛の必要もないであろう」

 空にいれば安全性が高いのに、トレッケが地上に降りようとするのにはわけがある。それは飛んでいる最中、ずっと魔力を消費しているからだ。肉体能力だけで飛べるような魔族や魔物は、ごく希少な存在だった。

 バードマンであるトレッケたちですら、魔法の助けがなければ飛ぶことはできない。平民のバードマンなどは、地面から飛び立つことは出来ず、ただ高いところからグライダーのように滑空ができるだけだという。

 飛行は魔力を消費する。
 これは魔族の戦いの本質を考えれば、継続ダメージを受け続けているに等しい。だからこそ、戦争で飛行する魔族はまずいない。

 アッフェリ軍がオレへの対応に困っているのは、経験にない攻撃を受けているせいもあるだろう。砲撃も未体験の攻撃のはずだが、予想より反応が薄かった。どうやら、攻撃魔法の一種にすぎないとみなされているようだ。

 ──敵軍は、すでに指揮官たるアッフェリを失った。さらにはアッフェリを含め10人が死亡している。しかし、アッフェリ軍に焦りはみられない。戦闘が長引けば、オレたちの魔力が尽きると確信しているからだろう。

 間違っているのだが。
 トレッケたちはともかく、オレはほとんど「飛行」はしていない。

 砲撃の反動で跳ねているだけだ。姿勢制御に多少魔力を使うくらいで、ほとんど羽は使っていない。つまり、攻撃、回避、移動のすべてを大砲でまかなっていることになる。

 ただし、魔力があり余っているというわけでもない。敵の誘導弾への防御と、傷の治療にだいぶ力を使わされている。92人の内、10人は倒せた。魔力が尽きるまでに、もう10人くらいはいけるかもしれない。しかしそこまでだ。

 このまま戦闘が推移すれば、確実にオレたちが敗北する。

 そういった意味でも、余力があるうちに次の行動に移ろうというトレッケの進言は的を射たものだ。しかし彼の言う通りにさせるわけにはいかない。空にいるからこそ、致命的な接近戦をしないですんでいるのだ。

 地上に降りれば、圧倒的多数に囲まれてやられるのが目に見えている。シロでさえどうにもならないものを、オレやトレッケがなんとかできるはずもない。

「地上戦は不要じゃ。それより逃げるとするかの」

 やるべきことはもうやった。
 ……それに、これ以上時間をかけると困ったことになる可能性が高い。

 次のステージは砦だ。自慢の防御施設でヤツらを出迎えるとしよう。
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