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第1章 騎士の国
000 プロローグ
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王都カルカスは難攻不落の城塞都市だ。
二重の外壁が街全体を囲み、無数の城壁塔があたりに睨みを効かしている。かつてあった幾たびかの攻撃、そのすべてを弾き返してきたのだ。
しかし今、その分厚い城門はすべて開け放たれ、頑丈な塔には白旗がひるがえっていた。城を守る兵もなく、兵を率いる将もいない。いるのはただ一人の少年だけだった。
少年は城門の前で目を細めた。平原のむこうから、金属音と大勢の足音が聞こえる。もう間もなく彼の待ち人があらわれるはずだった。遠くでおこる砂煙をみたとき、少年はすこし笑った。
そしてついに、猛々しい軍勢が姿をあらわしたのである。それは長槍を持った重装歩兵の隊列だった。兵士たちの甲冑が夕日を反射して鈍く輝く。地響きをたてながら進むその軍団には、おそろしい威圧感があった。
兵士たちは城門の手前まで来ると、一糸乱れぬ動きで左右に展開した。その数ニ千。すこし遅れて、合成弓を背負った弓兵部隊ニ千が歩兵の後ろにならんだ。
その軍団から前に進み出る者がいる。銀色に輝く盾に鎧。他の者と身分が違うことは一目瞭然だ。彼こそが、少年が待ち受けていた人物だった。
「ライト、よく無事でいてくれた! 助けに来るのが遅くなってすまなかったな」
銀鎧の男は大声で少年に呼びかけた。その言葉には、ライトと呼ばれた少年への親愛の情があふれていた。彼はゆっくりと城門に向かっていく。しかし、城門まであと30歩というところで立ち止まった。
守備兵を警戒したわけではない。もうとっくに、弓の射程内に入っていたのだから。彼が足を止めたのは、ライトが槍を取り出したのを見たからだった。
「ライト、なんだその槍は?」
「神話級武装(ミシカルアームス)、聖槍ロンゴミアント。世界でたった一つしかないレアアイテムだよ。アベルにはこれを使おうと最初から決めてたんだ」
「違う! なぜオレに武器をむけるのか、と言っているのだ!!」
アベルと呼ばれた男が絶叫した。その声には怒りと、それ以上のとまどいが混じっていた。異変に気づいた軍勢はあわてて前進をはじめた。重装歩兵が槍を構え、弓兵は弓に矢をつがえる。けれど四千もの軍隊の突撃をみても、ライトは眉一つ動かさなかった。
「……アベル、ずいぶんたくさん殺したみたいだね」
糾弾にしては、ライトの口調はひどく優しかった。けれどアベルは、痛みを覚えたように顔を歪ませた。
「たしかにオレは陛下を弑した。だが止むを得なかったのだ!」
「そう、やむをえず。でも出会ったばかりのアベルなら、どんな理由でも王様を殺したりしなかったはずだよ」
「違う! オレは──」
「もういいよ。ボクは君を止める。君はボクを殺して自分の道を行けばいい」
ライトは両手で純白の長槍をかまえた。
彼がなにかをつぶやくと、槍の穂先から真紅の血が滴り落ちた……。
二重の外壁が街全体を囲み、無数の城壁塔があたりに睨みを効かしている。かつてあった幾たびかの攻撃、そのすべてを弾き返してきたのだ。
しかし今、その分厚い城門はすべて開け放たれ、頑丈な塔には白旗がひるがえっていた。城を守る兵もなく、兵を率いる将もいない。いるのはただ一人の少年だけだった。
少年は城門の前で目を細めた。平原のむこうから、金属音と大勢の足音が聞こえる。もう間もなく彼の待ち人があらわれるはずだった。遠くでおこる砂煙をみたとき、少年はすこし笑った。
そしてついに、猛々しい軍勢が姿をあらわしたのである。それは長槍を持った重装歩兵の隊列だった。兵士たちの甲冑が夕日を反射して鈍く輝く。地響きをたてながら進むその軍団には、おそろしい威圧感があった。
兵士たちは城門の手前まで来ると、一糸乱れぬ動きで左右に展開した。その数ニ千。すこし遅れて、合成弓を背負った弓兵部隊ニ千が歩兵の後ろにならんだ。
その軍団から前に進み出る者がいる。銀色に輝く盾に鎧。他の者と身分が違うことは一目瞭然だ。彼こそが、少年が待ち受けていた人物だった。
「ライト、よく無事でいてくれた! 助けに来るのが遅くなってすまなかったな」
銀鎧の男は大声で少年に呼びかけた。その言葉には、ライトと呼ばれた少年への親愛の情があふれていた。彼はゆっくりと城門に向かっていく。しかし、城門まであと30歩というところで立ち止まった。
守備兵を警戒したわけではない。もうとっくに、弓の射程内に入っていたのだから。彼が足を止めたのは、ライトが槍を取り出したのを見たからだった。
「ライト、なんだその槍は?」
「神話級武装(ミシカルアームス)、聖槍ロンゴミアント。世界でたった一つしかないレアアイテムだよ。アベルにはこれを使おうと最初から決めてたんだ」
「違う! なぜオレに武器をむけるのか、と言っているのだ!!」
アベルと呼ばれた男が絶叫した。その声には怒りと、それ以上のとまどいが混じっていた。異変に気づいた軍勢はあわてて前進をはじめた。重装歩兵が槍を構え、弓兵は弓に矢をつがえる。けれど四千もの軍隊の突撃をみても、ライトは眉一つ動かさなかった。
「……アベル、ずいぶんたくさん殺したみたいだね」
糾弾にしては、ライトの口調はひどく優しかった。けれどアベルは、痛みを覚えたように顔を歪ませた。
「たしかにオレは陛下を弑した。だが止むを得なかったのだ!」
「そう、やむをえず。でも出会ったばかりのアベルなら、どんな理由でも王様を殺したりしなかったはずだよ」
「違う! オレは──」
「もういいよ。ボクは君を止める。君はボクを殺して自分の道を行けばいい」
ライトは両手で純白の長槍をかまえた。
彼がなにかをつぶやくと、槍の穂先から真紅の血が滴り落ちた……。
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