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そしておまけのはじまりはじまり 1
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ガタガタガタ……
ばさばさばさっ ←数冊のファイルが床に落ちる
ガタガタガタ……
どさささっ ←献本の包みが机の上で崩れた
ガタガタg
「うっさいわよ、加藤! その手にある原稿早く読みなさいよ! あんたのチェック待ちなの分かってるでしょーがっ、このでかいだけ男!」
「で、でかいだけ……」
原稿を手に持ったままガタガタと震えていた加藤は、斜め前のデスクに陣取る先輩にあたる女性社員、田之倉に怒鳴りつけられてショックを隠し切れない顔を晒した。
「どこにくいついてんのよ、ってかどこ想像してんのよ! 出てけ、どっか行け、私の見えない所で妄想してこい!」
いつの間にかデスクを回り込んできた田之倉は、ささっと原稿を封筒に入れるとそれを加藤の顔に押し付けて退室命令を下す。
加藤はそれに従うように頬に押し付けられた封筒を手に取ると、肩を落としたままふらふらと課を出ていった。
その背中を見送った田之倉は、にやりと笑いながら自分のデスクへと戻っていく。
「いつにもまして、加藤先輩ってばネガティブな雰囲気だだ漏れてますねぇ」
隣に座る後輩が苦笑気味に言うのを、田之倉は当たり前よと応えてコートを手に取った。
「あいつにとっては、自分の評価書を読むようなものだからねぇ」
「評価書? 人事考課っぽいなんかですか?」
今回の企画は秘密裏に進められているから、内容をここでもらすわけにはいかない。
それでもついニヤけてしまうのは、事情を知っている上の悪戯心。
「んー? 人生のー? 男のー? みたいなー?」
笑いが止まんないんだけど~♪
「じゃ私出てくるから、あとよろしくね」
「え? でも、田之倉先輩が担当してるのって、今加藤先輩が持っていった奴じゃ……」
「んふふ、それとは別のモ・ノ」
別とは言えないけどね☆
綺麗目カラーのスプリングコートに袖を通している田之倉とドアを交互に見れば、威圧感たっぷりな笑顔が向けられる。
「余計な事、考えなくていいの。加藤に何か言ったら、あんたが大変な目に合うわよ?」
ハートマークが付きそうな声音だけれど、十分後輩の動きを固める威圧感いっぱいだった。
そんな後輩をにっこり笑って見遣りながら、田之倉はドアから出て行った。
「……加藤先輩、何をやらかしたのやら……」
気の毒そうに呟く後輩の声は、決して加藤には届かない。
「……」
その頃、加藤は田之倉の言いつけどおり屋上の一番奥、木製ベンチに腰を下ろしてじっと封筒を見つめていた。読みたくない、読まないと怖い。読むのも怖い、けど確認しないのはもっと怖い。
そんな思考がループする。
「悪循環過ぎる……」
そんな加藤が手に持っている原稿。
それは、古藤 蓮が次回出す予定の恋愛小説。
きっと帯とかあおりには”あの古藤 蓮が描く、初の大人女子恋愛模様”とかなんとか字が躍ることになるんだろう。
……関係なかったら、すげぇ面白おかしくコピー考えるのに。
なぜ自分の実体験に対して、コピーを起こさなきゃならないんだ……。
今回担当は、さっきの先輩・田之倉が請け負う事になっていて、加藤には訂正箇所がないかのチェックとコピーを考えろというお達しがきた。
古藤先生から、名指しで。そのこと自体は田之倉しか知らないけれど、裏を返せば田之倉にだけはバレるってことだ。
誰の話で、ほぼ実話っていうのが。
……どこかに埋まってしまいたい……
前回のバレンタインの時と比べて、既に加藤に出版することがばれているからか、随分とゆっくり執筆したらしい。
もう本が出版されていてもいい時期なのに、まだ印刷に回っていない原稿のまま。
「……それくらい、詳細に書いてるって……ことだよな」
そしてゆっくり書くことで、じわじわと加藤を追いつめているという、腹黒と鬼畜の二重奏。
哀愁漂う背中を晒したまま、加藤は意を決して……というか諦めて封筒から原稿を取り出した。
ぺらり
一枚、めくる。
ぺらり
一枚、めくる。
ぺら……
ピピピ、ピッ
「許してください、古藤せんせぇぇぇっ!」
「ん、却下」
ツーツー
ピピピ、ピッ
「お願いします、何でもしますから! 何でもっ!!」
「あと一時間以内に読み終えろ。じゃないと、そのまま印刷回してもらう」
ツーツー
ピピピ、ピッ
「ただ今おかけになった電話番号は、電源が入っていないか電波の繋がらない……」
「あぁぁぁぁ」
悲痛な叫び声が、屋上に響いた。
ばさばさばさっ ←数冊のファイルが床に落ちる
ガタガタガタ……
どさささっ ←献本の包みが机の上で崩れた
ガタガタg
「うっさいわよ、加藤! その手にある原稿早く読みなさいよ! あんたのチェック待ちなの分かってるでしょーがっ、このでかいだけ男!」
「で、でかいだけ……」
原稿を手に持ったままガタガタと震えていた加藤は、斜め前のデスクに陣取る先輩にあたる女性社員、田之倉に怒鳴りつけられてショックを隠し切れない顔を晒した。
「どこにくいついてんのよ、ってかどこ想像してんのよ! 出てけ、どっか行け、私の見えない所で妄想してこい!」
いつの間にかデスクを回り込んできた田之倉は、ささっと原稿を封筒に入れるとそれを加藤の顔に押し付けて退室命令を下す。
加藤はそれに従うように頬に押し付けられた封筒を手に取ると、肩を落としたままふらふらと課を出ていった。
その背中を見送った田之倉は、にやりと笑いながら自分のデスクへと戻っていく。
「いつにもまして、加藤先輩ってばネガティブな雰囲気だだ漏れてますねぇ」
隣に座る後輩が苦笑気味に言うのを、田之倉は当たり前よと応えてコートを手に取った。
「あいつにとっては、自分の評価書を読むようなものだからねぇ」
「評価書? 人事考課っぽいなんかですか?」
今回の企画は秘密裏に進められているから、内容をここでもらすわけにはいかない。
それでもついニヤけてしまうのは、事情を知っている上の悪戯心。
「んー? 人生のー? 男のー? みたいなー?」
笑いが止まんないんだけど~♪
「じゃ私出てくるから、あとよろしくね」
「え? でも、田之倉先輩が担当してるのって、今加藤先輩が持っていった奴じゃ……」
「んふふ、それとは別のモ・ノ」
別とは言えないけどね☆
綺麗目カラーのスプリングコートに袖を通している田之倉とドアを交互に見れば、威圧感たっぷりな笑顔が向けられる。
「余計な事、考えなくていいの。加藤に何か言ったら、あんたが大変な目に合うわよ?」
ハートマークが付きそうな声音だけれど、十分後輩の動きを固める威圧感いっぱいだった。
そんな後輩をにっこり笑って見遣りながら、田之倉はドアから出て行った。
「……加藤先輩、何をやらかしたのやら……」
気の毒そうに呟く後輩の声は、決して加藤には届かない。
「……」
その頃、加藤は田之倉の言いつけどおり屋上の一番奥、木製ベンチに腰を下ろしてじっと封筒を見つめていた。読みたくない、読まないと怖い。読むのも怖い、けど確認しないのはもっと怖い。
そんな思考がループする。
「悪循環過ぎる……」
そんな加藤が手に持っている原稿。
それは、古藤 蓮が次回出す予定の恋愛小説。
きっと帯とかあおりには”あの古藤 蓮が描く、初の大人女子恋愛模様”とかなんとか字が躍ることになるんだろう。
……関係なかったら、すげぇ面白おかしくコピー考えるのに。
なぜ自分の実体験に対して、コピーを起こさなきゃならないんだ……。
今回担当は、さっきの先輩・田之倉が請け負う事になっていて、加藤には訂正箇所がないかのチェックとコピーを考えろというお達しがきた。
古藤先生から、名指しで。そのこと自体は田之倉しか知らないけれど、裏を返せば田之倉にだけはバレるってことだ。
誰の話で、ほぼ実話っていうのが。
……どこかに埋まってしまいたい……
前回のバレンタインの時と比べて、既に加藤に出版することがばれているからか、随分とゆっくり執筆したらしい。
もう本が出版されていてもいい時期なのに、まだ印刷に回っていない原稿のまま。
「……それくらい、詳細に書いてるって……ことだよな」
そしてゆっくり書くことで、じわじわと加藤を追いつめているという、腹黒と鬼畜の二重奏。
哀愁漂う背中を晒したまま、加藤は意を決して……というか諦めて封筒から原稿を取り出した。
ぺらり
一枚、めくる。
ぺらり
一枚、めくる。
ぺら……
ピピピ、ピッ
「許してください、古藤せんせぇぇぇっ!」
「ん、却下」
ツーツー
ピピピ、ピッ
「お願いします、何でもしますから! 何でもっ!!」
「あと一時間以内に読み終えろ。じゃないと、そのまま印刷回してもらう」
ツーツー
ピピピ、ピッ
「ただ今おかけになった電話番号は、電源が入っていないか電波の繋がらない……」
「あぁぁぁぁ」
悲痛な叫び声が、屋上に響いた。
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