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「あー、なるほどね。へぇ、そういう事」

 白けた雰囲気のリビングに、陸の声が空しく響く。

 絶句、という言葉がとっても似合う状況から救ってくれたのは、さっきから一言も言葉を発していない両家の父親‘sだった。

 ……とりあえず、皆、部屋に入らないか? ←マイ父
 ……恥ずかしいから。←蓮の父

 その通りだと、全員が納得しました。


そしてリビングに総勢十二名の関係者? が、勢ぞろいして桜子さんのお話を聞きました。
あ、ほぼ途中から大男……蓮と桜子の担当編集者であらせられます、見た目はクマ、中身はエリート☆らしい加藤さん……が喋ってたけど。(ごめんなさい、言い回し使いましたm――m)


 要するに。
 蓮の家を訪れていた加藤さんと桜子さんは、もちろん最初は蓮との仕事の打ち合わせをやっていたと。けれど加藤さんが持ってきたワインを開けて飲み始めた所から、話が脱線していったらしい。
 綺麗な絵を描く桜子さんは、BL関係のお仕事もしていて。
 そこで来ている「可愛い系の男の子が、大男に押し倒される図」のモデルをやってくれと、酔っぱらった勢いで言いだして。
 そして同じく酔っぱらっていた加藤さんが、その勢いのまま冗談のつもりで押し倒してみたと。
 いや、あわよくばちゃんとスケッチしてくれることを願って。

「本当に襲うつもりはなかったからな!」の言葉に、誰が頷いて慰めてやるか。

 それは全員一致の意見らしく、誰も同意してません。

 加藤さんにとってお仕事と言えばそうですが、された方はたまったもんじゃありません。ふざけてても強制的にその体勢にしたわけだから、蓮はたぶん、殴ってもいいと思うよ。


 で、加藤さんがお仕事という名のおふざけを敢行した、その時に。

「私が、来たと」

 なんとなく、小さく呟いたのは。

「――蓮、こえぇ……」

 激しく同意するよ、司!!
 私の隣で、半端なく黒オーラを出している蓮が恐ろしいから!

「要するに、俺は被害者の上、恋人にはホモと思われ、実家の前で襲われたとか叫ばれ……」

 うっわー、こわっ。

「ででで、でも私が勘違いするのって仕方なくない? そーだよね? ねぇ、そーだよねっ?」
 周りに視線を向けても、頷いてはくれるものの蓮の雰囲気が怖すぎて目は逸らしています。
 はぁぁっ、と蓮がため息をついた。
「葉月は。俺をそういう風に見ていたって事、だよな? 男と、浮気とかしちゃうような」
「へ?」
 いきなり私に向けられた非難を含んだ声に、間抜けな言葉しか出なかった。
 でも何とか自分を立て直して、ぎゅっと膝の上でこぶしを握る。

 いやー蓮て顔は可愛いから、なんか違和感なくて。
 ……そこは黙っておこう。

「その、破壊的な光景だったもので」
「俺には、チョコを一気食いする葉月の方が、破壊的光景だったけどね?」


 まずい、蓮がいつもの蓮化してきた。


「ねぇ、葉月。どうして今日の内に来るように言ったか、気づいてる?」
「バレンタインだから。蓮が食べたいチョコを、私に買いに行かせたから」

 一気に答えれば、生ぬるい空気がリビングに流れた。
 蓮は小さく溜息をついて、ソファから床へと腰を下ろす。
 っていうか、私の目の前で片膝をついた。


 ……何これ、何この恥ずかしくも悶える様な状況!
 だから蓮、そういうのは自分の書いてるお話の中だけにしてよ!
 現実でやる奴なんか、いないんだから!
 くさいよ、恥ずかしいよ、なんか既視感を感じるよぉぉっ!

 こっちの内心の葛藤を余所に、蓮は膝の上で握りしめられていた私の手にゆっくりと触れる。そのまま反対の手でシャツのポケットから、小さな何かを取り出した。

 その指先に光るのは……

「え?」

 キラリと光る、それは。


 蓮の指がそれをもって、私の指にゆっくりと通した。
 冷たい感触がしてふるりと震えたけれど、すぐにそれは私の体温になじむ。


「指輪……?」


 思い出すのは、高三のあの時。
 あの時もいきなり指輪をはめられて……
 でも、それは右手の……



 蓮はあの時を辿る様に、指輪の上に唇を寄せる。
 左手の、薬指。

 光るのは、プラチナとそれにはまった綺麗な透明の……ダイヤ……?


 ちゅ、というリップ音さえも再現して上目づかいに私を見上げた。


「佐山 葉月さん。俺と、結婚してください」
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