31日目に君の手を。

篠宮 楓

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14日目~20日目 原田視点

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「おい、餌にもならないななし。さっさと下の奴ら連れて外周いって来い」
 声と共に飛んできたタオルを後頭部で受けて、それを握りしめながら後ろを向いた。
 そこには他校の部長と一緒に立っている、佐々木の姿。その表情は、物凄く見下している目。
「佐々木、てめぇ」
「アオさんの手料理食えると思ったのに、何が悲しくて高一男子が作った飯を毎食食わねばならん!」
「なら、てめぇが作れ! 高三男子!」
「女の子がいい女の子が。食うなら女子の作ったごはんーっ」
「……女子が作ってんじゃねーか。岸田が中心になって作ってるんだろ? 顧問も手伝ってるみたいだし」

 俺の言葉に佐々木は両手を上げて、肩を竦めた。

「お前馬鹿だろ。八人中女子が一人のメシなんざ、女子のメシとはいえん!」
「一度脳味噌入れ替えて来い」
 佐々木の言葉に呆れ何も言えなくなった俺は、タオルを肩にひっかけて合宿所を出た。



 合宿に来てすでに三日目。
 初日の勢いがだんだんと疲れに変わっていく時期。合宿所のそばにはグラウンドが整備されていて、そこに部員が集まっていた。
 三年生は井上だけ。辻は顧問と買い出しに行っているし、佐々木は言わずもがな。残りの三年は、俺と井上だけだ。
 井上は俺を見つけると、軽く片手を上げた。
「筋トレ終わった」
「じゃー、外周行くか」
 三年は少ないなりにやる事が多く、役を持っていない井上と俺で下級生の面倒を見る事になっていた。別個に筋トレと準備運動を終えていた俺は、下級生を連れてグラウンドの外周を走りはじめる。

 別に陸上部ではないから、速さを競う為に走るわけじゃない。
 どれだけ持久力をつけられるか、だ。

 バレーボールと言えばそんなに走り回ったりしないイメージがあるかもしれないけれど、かなり体力を使うのだ。基礎体力は、一番重要。


 リズムを崩さず、淡々と外周をこなしていく。
 すると頭の中は暇になって、余計な事を考え始める。

 今日も、快晴。
 普段より標高の高い場所にいるせいか、空も青々と綺麗に感じる。




 アオも、この空を見ているんだろうか。

 見せた空の画像を、くい入る様に見つめていたアオ。その姿を見て、嬉しくてたまらなかった。自分が一番好きなものを、綺麗と言ってもらえたただそれだけのことに。


 自宅に戻るのは、来週。
 会えない期間は、あと七日。


 寂しいとそう思えてしまうのは、本心だ。アオが合宿への誘いを断ると、あの時実は思えなかった。うぬぼれじゃなく、アオは俺に少しは関心があると思ってたから。会えない事を、寂しいと思ってもらえるものだと考えてしまった。

 実際は、そうじゃなかったけど。
 結構、がっくりきたけど。

 俺が思うほど、アオにとって俺の存在は大きくないってところか。


 “ななしくん!”


 アオの笑顔が、脳裏を掠める。
 ふわりとわらう、優しい笑顔。
 くるくると変わる、素直な表情。
 けれど何かを隠して、何かを探しているその目。


「……」

 自分の考えに、自分で照れてどうする。
 顔が赤くなっている事を自覚しながら、それでもアオを想う事をやめられない。
 

 乙女で悪かったな。

 思わず、自分自身に悪態をついた。

 なんで、あんな面倒な女を好きだと思ってしまったのかと思うけど、今更だ。


 早く帰りたいと、そう思う。
 七日後、ここから帰れる。
 そうしたら、その足でアオに会いに行こう。
 たくさんの、#色__あお__#を持って。
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