君が見ていた空の向こう

篠宮 楓

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はじまり。

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朽木 颯。
高一からのクラスメイト。
爽やかな名前に反していっつもぼーっとしているから、身長が高いけれどまったく威圧感やら何やらはない。
サラサラな髪の毛にほんわかした風貌は女子なら喜ぶんだろうけれど、

「うぜぇ、離せ」

俺はよろこばねぇ。


あれからガン無視して午前授業を乗り切った俺は、昼飯で捕まった。
さっさと食堂に行こうと思っていた俺の腕を掴むと、ぐいぐいと引きずりながら廊下を歩いていく。
その後ろから困惑した表情でくっついてくる僚太と、鼻歌でも歌いそうな正也。
正直、くっついてくるなら朽木を止めろと、俺は言いたい。

「つかどこ行くんだよ、俺飯買ってねぇぞ」
「うん、さっき殴られた後に買っといたから」
……用意周到で。
何言っても離さないんなら仕方ないとばかりに抵抗を弱めると、少しこっちに視線を向けた朽木と目があった。
その表情は、どこか満足そうで。
なんかむかついて、そっぽ向いたまま足を動かす。

窓の外は、木枯らし吹く秋の風景。
葉のない枯れ枝を晒す校庭の木は、見てるだけで寒そうだ。

こんな時は食堂で飯食うのが一番なんだけどなぁ。
調理してるから、あったかいんだよね。
溜息をついた俺が連れてこられたのは……

「屋上かよ、無理、却下」

寒風吹きすさぶ屋上でした。
アホかこいつ。風邪ひくわ。

屋上のドアを開けてずんずん歩いていく奴に掴まれている腕に力を入れて、引き留めようと踏ん張ってみたけれど。
「俺達、ここで食ってるわ」
そう言って正也がドアを閉めやがった。
「朽木、マジで風邪ひくから」
「そう?」
そうじゃねーよ、まんねんぼけぼけしてるお前には関係ないかもしれねーけどな!!
睨み上げながら嫌だオーラを出しまくっていたら、口端をあげた朽木が俺の腕を急に引っ張るから勢いに負けて奴の体にぶち当たった。
しかも顔から。

「いってーな! 何すんだお前!」
昨日まではまだスキンシップが多い奴位だったのに、なんでいきなりこんな変態じみた奴になった!
奴はぎゅーっと真正面から俺を抱きしめると、そのまま給水塔の影に腰を下ろした。
確かに風はよけられるけれど、寒いのは変わらん。
「あったかい」
「俺をカイロ代わりにすんなよ……」
ぎゅーぎゅー〆る勢いで腕に力を入れる朽木の背中を、軽く叩いた。

いつもこうだ。
俺が文句言っても蹴り飛ばしても、犬のようにじゃれついて気付いたら傍にいる。
だから、スキンシップが好きな若干のさびしがり屋か? とか思ってたのに。

――勃った

よもやそこに下心が含まれていたとは。


身長差に体格差まであるわけで、じゃれつかれても撃退できなくて諦めてた俺がいけないのか。
「朽木、あのさー。ふざけた発言は置いといて、お前ホントに俺の事好きなのかよ」
「うん。気付いてると思ってた。気付いてないとも思ってたけど」
「どっちだよ」
「だって、祐はまっすぐだから」

その言い方に、思わず口を噤む。
「つか、なんで俺だよ。せめて正也なら納得できんのに」
女っぽいわけでもなく、綺麗系なわけでもなく、はっきり言えば喧嘩っ早いただの男子高生。
「祐は、可愛いよ」
「……どこが」
生まれてこの方、そんな単語言われた事ねぇ。
「ちまっこいのに懸命に噛みついてくるところが、柴犬みたいで」
……
「てめぇ、腕離せや」
「殴られるの嫌だなぁ、殴らない?」
「殴る為にいってんだ、このボケ」

朝の繰り返しかこの野郎。

あの後、境にめっさ嫌味言われたんだからかな!
じゃれるのもいい加減にしろとかなんとか……お前は寝てたから聞いてねーだろーけど!

「ほんと、祐は可愛いよ」
ほやんと言われる言葉は、女子に向けての言葉なら頷ける。
何でそれ言う相手が俺だよ。
「そんな事言うのはお前だけだっつーの」
「そんな事ないよ」
言いながらがさごそと身じろぎした朽木は、少し腕の力を緩めて俺の顔を上から覗き込んだ。

「はい、ラブレターだって」

……

「……は?」

たっぷり30秒は開いただろう間を、奴は表情も変えずに俺を見ていた。
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