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24 蛇足・それぞれの数日間・こたろー
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「うざい、めんどくさい」
「片山先生ー」
喫煙室に入ってきた途端、嫌そうな顔をして踵を返そうとした片山先生の腕を掴んで引き止めた。
「何で最近、俺から逃げるのさ」
「お前の顔が気持ち悪いからだよ」
失礼な。
勢いで出ていこうとしていた片山先生は俺のしつこさに負けたのか、諦めたように肩を落とすといつもの定位置に腰を下ろした。
「で、なんだよ。なんなんだよ。話したいならさっさと話せよ。っていうか、大体、お前生徒じゃねーんだから俺を頼るなよ」
イライラしたように煙草を銜える片山先生を、恨みがましそうに睨む。
「普通さ、卒業してもお前達は俺の生徒だ! とか、そんなこと言うんじゃないの?」
「いわねーよ。どんだけこっちに責任背負わせばいいんだ。ふざけんな」
そういいながらも、実はちゃんと面倒みていることを俺は知っている。
臨採の事を、俺に教えた事でも証明されてるしね。
「顔が気持ち悪いから、お前と面合わせるの避けてたのによー。煙草の誘惑に負けたし」
心底残念そうに煙を吐き出す片山先生は、持っていた缶珈琲の蓋を開けながら俺を見た。
「で、なんだ。伝えられなかったのか。それとも、振られたのか」
「うっわー、直球」
そう言いながら、座っていた椅子に戻って机に上体を伏せた。
両腕に顎をのせて、目を伏せる。
「……幼馴染のままでいいんだよ」
ぽつり、と呟く。
片山先生はよく聞こえなかったのか、問い返すような視線で俺を見る。
「幼馴染のままでいいって、そう言われたんですよ」
「振られたんじゃん。ごしゅーしょーさま」
「即答かよ!」
がばっと顔を上げれば、眉間に皺を寄せたまま煙草を口に銜える片山先生の姿。
「即答だろ。他にどんな言いようがある。ナンテマァ、カワイソウニ」
「棒読みやめてーっ!」
再び、机に伏せた。
「つーか、その割に深刻に悩んだりしないんだな。ふざけてる様に見えるのは、俺だけか? それとも、そうでもしないと保ってらんねーのか?」
その言葉に、ピクリと肩が動く。
鼻で笑う声が聞こえて、青い青いとのたまわれた。
「大方拒絶されたら諦めるとか決心しておきながら、いざ拒否られたら余計に自分のものにしたくなって、手出しそうで怖いんだろ」
「……その、人の深層心理を的確に抉り出す手法は、どこで学んだわけですか」
「お前、幼馴染に近づくな。なんかあったら、元担任とか言って俺まで槍玉にあげられそうだ」
あぁぁ、否定できないだけに言い返せない。
諦めると、決めていた。
比奈に想いを伝えて、それでもダメだった場合は。
いっそすっきりするとか思ってたのに。
実際は、真逆。
”幼馴染のままでいいんだよ”という、何ともオブラートに包んだような言われ方をしたせいで、余計諦めきれなくなった。
嫌いじゃないなら。
好きでもないけど、嫌いでもないならそこに望みを見出してしまった。
衝動的に手を出しそうで、自分が怖い。
ぽん、と頭に掌が乗っかる。
「お前、良くも悪くも素直なんだよなー。で、”幼馴染のままでいいんだよ”って事は、お前の鬼畜所業、彼女は許してくれたのかよ」
「は? わけないじゃん」
思わず、がばりと体を起こす。
頭から離れた手を宙に浮かせたまま、片山先生が怪訝そうに首を傾げた。
「許される、わけないじゃん?」
「いや。言う、わけないじゃん」
それを聞いた片山先生は、眉を顰めた後、ふぅんと呟いて煙草を銜えた。
口端から上る細い煙が、ゆっくりと消えていく。
「この期に及んで、自分を守ったわけか」
「いや、守るっていうか……。別に言わなくてもいい話だろ? これ以上、幻滅されたくないし」
「すでに底辺だから、大丈夫だろ」
それ、まったく大丈夫って言えないんすけど、先生。
「底辺突き破って、奈落に落ちたら責任とってくれるんですかー」
「責任とれる大人が、甘ったれたこと言ってんじゃねーよ」
ぶはぁっと煙を吐き出した片山先生が、ふと顔を上げて一点に視線を向けた。
「あれ、お前の幼馴染じゃないか。えれー、早いな」
「え?」
その声に同じ方に視線を向けると、少し離れた場所を比奈が横切っていくのが見えた。
「あれ、ホントだ。図書室閉めるまでいないの、珍しい……」
いつも必ず下校時刻まで、最悪最終下校まで居座る比奈が。
「お前のせいかなー」
「……っ」
びくっと、肩を揺らす。
「お前が阿呆な事言ったから、幼馴染ちゃん、落ち込んでんじゃねーの?」
「落ち込みたいの、俺の方だと思うんだけど」
なんで振った方が、落ち込むんだよ。
じろりと睨みあげれば、煙草を灰皿に押し付けている姿。
「お前が、お前を守ったからだろ。案外、ばれてんじゃないか?」
「え?」
片山先生は椅子から立ち上がって、両手を上げて体を伸ばした。
「てーかさ。お前、自分の気持ち言うだけで、幼馴染ちゃんの気持ちを聞いたことあんの? 変に断らない方が、俺には怪しく思えるけどね」
比奈の気持ち?
首を傾げて考え込む。
「……言われてみれば、ないかも」
比奈、あんまり反応してくれないし。
「ホントお前、まだまだ子供だなー。青いわー」
「……よし、聞いてくる!」
ガタッと大きな音を立てて立ち上がる。
「あ? お前仕事中……っ」
突然立ち上がった俺に驚いたように目を見開く片山先生に、大丈夫と返した。
「すぐ戻るし、声かけて後で行くことだけとりあえず伝えてくる!」
そのまま、喫煙室を飛び出した。
「……そういうの、プライベートでやってくんないかね。せめて、メールとかさー」
呆気にとられた片山先生が、そんなことを言っていたみたいだけど、全く俺の耳には届いていなかった。
「片山先生ー」
喫煙室に入ってきた途端、嫌そうな顔をして踵を返そうとした片山先生の腕を掴んで引き止めた。
「何で最近、俺から逃げるのさ」
「お前の顔が気持ち悪いからだよ」
失礼な。
勢いで出ていこうとしていた片山先生は俺のしつこさに負けたのか、諦めたように肩を落とすといつもの定位置に腰を下ろした。
「で、なんだよ。なんなんだよ。話したいならさっさと話せよ。っていうか、大体、お前生徒じゃねーんだから俺を頼るなよ」
イライラしたように煙草を銜える片山先生を、恨みがましそうに睨む。
「普通さ、卒業してもお前達は俺の生徒だ! とか、そんなこと言うんじゃないの?」
「いわねーよ。どんだけこっちに責任背負わせばいいんだ。ふざけんな」
そういいながらも、実はちゃんと面倒みていることを俺は知っている。
臨採の事を、俺に教えた事でも証明されてるしね。
「顔が気持ち悪いから、お前と面合わせるの避けてたのによー。煙草の誘惑に負けたし」
心底残念そうに煙を吐き出す片山先生は、持っていた缶珈琲の蓋を開けながら俺を見た。
「で、なんだ。伝えられなかったのか。それとも、振られたのか」
「うっわー、直球」
そう言いながら、座っていた椅子に戻って机に上体を伏せた。
両腕に顎をのせて、目を伏せる。
「……幼馴染のままでいいんだよ」
ぽつり、と呟く。
片山先生はよく聞こえなかったのか、問い返すような視線で俺を見る。
「幼馴染のままでいいって、そう言われたんですよ」
「振られたんじゃん。ごしゅーしょーさま」
「即答かよ!」
がばっと顔を上げれば、眉間に皺を寄せたまま煙草を口に銜える片山先生の姿。
「即答だろ。他にどんな言いようがある。ナンテマァ、カワイソウニ」
「棒読みやめてーっ!」
再び、机に伏せた。
「つーか、その割に深刻に悩んだりしないんだな。ふざけてる様に見えるのは、俺だけか? それとも、そうでもしないと保ってらんねーのか?」
その言葉に、ピクリと肩が動く。
鼻で笑う声が聞こえて、青い青いとのたまわれた。
「大方拒絶されたら諦めるとか決心しておきながら、いざ拒否られたら余計に自分のものにしたくなって、手出しそうで怖いんだろ」
「……その、人の深層心理を的確に抉り出す手法は、どこで学んだわけですか」
「お前、幼馴染に近づくな。なんかあったら、元担任とか言って俺まで槍玉にあげられそうだ」
あぁぁ、否定できないだけに言い返せない。
諦めると、決めていた。
比奈に想いを伝えて、それでもダメだった場合は。
いっそすっきりするとか思ってたのに。
実際は、真逆。
”幼馴染のままでいいんだよ”という、何ともオブラートに包んだような言われ方をしたせいで、余計諦めきれなくなった。
嫌いじゃないなら。
好きでもないけど、嫌いでもないならそこに望みを見出してしまった。
衝動的に手を出しそうで、自分が怖い。
ぽん、と頭に掌が乗っかる。
「お前、良くも悪くも素直なんだよなー。で、”幼馴染のままでいいんだよ”って事は、お前の鬼畜所業、彼女は許してくれたのかよ」
「は? わけないじゃん」
思わず、がばりと体を起こす。
頭から離れた手を宙に浮かせたまま、片山先生が怪訝そうに首を傾げた。
「許される、わけないじゃん?」
「いや。言う、わけないじゃん」
それを聞いた片山先生は、眉を顰めた後、ふぅんと呟いて煙草を銜えた。
口端から上る細い煙が、ゆっくりと消えていく。
「この期に及んで、自分を守ったわけか」
「いや、守るっていうか……。別に言わなくてもいい話だろ? これ以上、幻滅されたくないし」
「すでに底辺だから、大丈夫だろ」
それ、まったく大丈夫って言えないんすけど、先生。
「底辺突き破って、奈落に落ちたら責任とってくれるんですかー」
「責任とれる大人が、甘ったれたこと言ってんじゃねーよ」
ぶはぁっと煙を吐き出した片山先生が、ふと顔を上げて一点に視線を向けた。
「あれ、お前の幼馴染じゃないか。えれー、早いな」
「え?」
その声に同じ方に視線を向けると、少し離れた場所を比奈が横切っていくのが見えた。
「あれ、ホントだ。図書室閉めるまでいないの、珍しい……」
いつも必ず下校時刻まで、最悪最終下校まで居座る比奈が。
「お前のせいかなー」
「……っ」
びくっと、肩を揺らす。
「お前が阿呆な事言ったから、幼馴染ちゃん、落ち込んでんじゃねーの?」
「落ち込みたいの、俺の方だと思うんだけど」
なんで振った方が、落ち込むんだよ。
じろりと睨みあげれば、煙草を灰皿に押し付けている姿。
「お前が、お前を守ったからだろ。案外、ばれてんじゃないか?」
「え?」
片山先生は椅子から立ち上がって、両手を上げて体を伸ばした。
「てーかさ。お前、自分の気持ち言うだけで、幼馴染ちゃんの気持ちを聞いたことあんの? 変に断らない方が、俺には怪しく思えるけどね」
比奈の気持ち?
首を傾げて考え込む。
「……言われてみれば、ないかも」
比奈、あんまり反応してくれないし。
「ホントお前、まだまだ子供だなー。青いわー」
「……よし、聞いてくる!」
ガタッと大きな音を立てて立ち上がる。
「あ? お前仕事中……っ」
突然立ち上がった俺に驚いたように目を見開く片山先生に、大丈夫と返した。
「すぐ戻るし、声かけて後で行くことだけとりあえず伝えてくる!」
そのまま、喫煙室を飛び出した。
「……そういうの、プライベートでやってくんないかね。せめて、メールとかさー」
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