幼馴染と図書室。

篠宮 楓

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22 蛇足・一方通行・こたろー

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 この歳になって、自分の気持ちを正直に口にするということが、どれだけ羞恥を煽るものかと心底理解した。

 恥かしい。
 青い春の内に、さっさと伝えてしまえばよかった。
 青いことしたって、若さ故の~で少しは軽減されるのにっ!

 それでもその羞恥心こそ、昔の自分の所業の報いだとでもいうように乗り越え踏み越え、今までの自分を比奈に曝け出した。
 年上なのに、馬鹿でごめん。

 ただ、さすがに高三の所業だけは口に出来なかった。
 穴を掘って、永久に封印したい。
 永久凍土に捨て去りたい。
 あの頃の自分を、自分の中から抹消したい位の過去。
 それを伝える事だけは、さすがにできなかった。

 最低だった自分を曝け出して、これ以上、比奈に幻滅されたくなかった。


 何とか伝えたいことを、話し終える。
 緊張していたのか、口の中がカラカラで。
 意識を切り替えるように大きく息を吐き出した後、懇願するように比奈の目を見た。




「比奈。その、俺の気持ち、伝わった……?」



 ぴくり、と比奈の肩が震えた。
 小さく息を吐き出す音が聞こえた後、比奈は伏せていた眼を微かに上げると、俺が握ったままだった手をくんっと引く。
「あ、ごめん」
 つい握ったまま話し続けていたことに気が付いて、慌てて手を放した。
 両手を膝の上に投げ出したまま、比奈の言葉を待つ。

 比奈はゆっくりと瞼を上げて、俺の目を見た。


「こたろーちゃん」


「……はい」


 いつにない低い声に、思わず返事をする。
 比奈はそんな俺を見て、ふ、と笑うと綺麗な笑みを浮かべた。
 昔のような、可愛い笑顔じゃない。
 大人のような、綺麗な笑み。

 知らず、感情が高ぶる。

 もしかして、もしかして……これは……


 期待に満ちた、目をしていたと思う。
 比奈は一瞬目を細めると、再び口角を上げた。


「私達は、幼馴染でいいんだよ」

「え?」

「幼馴染のままで、いいんだよ」


 それだけ告げると固まったまま何も言えない俺を置いて、比奈は部屋から出て行った。




 ……幼馴染で、いいんだよ?


 返事なのかなんなのか分からないその言葉を、脳裏で繰り返す。


 ……幼馴染で、いいんだ、よ


「え、と」


 ぽっかりと、心に空洞ができたように、何も浮かんでこない。

 ただ、ただ――



 綺麗に微笑んだ、比奈の表情だけが目に焼き付いていた。
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