幼馴染と図書室。

篠宮 楓

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16 蛇足・比奈の本音・こたろー

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「ちょっと待て、比奈」

 比奈の言葉に、愕然とした。

「お前は俺が比奈のことを好きだと言う、その言葉自体を嘘だと思ってたってことか?」

 見つめる先の比奈は、じっと目を伏せたままで。

「俺の事をそう考えられないとか、からかわれているとか、そういう風にとっていたんじゃなくて。それ以前に、俺が比奈にそんな嘘を吐くような男だと、そう思ってたってこと?」

 照れて、嫌がっているとか。
 信じられなくて、からかわれているとか。


 そう思われている方が、どれだけいいだろう。


 俺が好きだと言っている言葉を、嘘だと、思われていた?
 比奈を相手にしてそんな嘘を吐けるほど、俺が酷い人間だと?

 比奈は、何も言わない。
 その態度が、俺の言葉を肯定しているようで、苦しい。

「比奈、何か言え」

 頼むから、否定して。
 照れているだけだって、そう怒鳴って……

 けれど、現実は、残酷で。

「こたろーちゃん。私の事なんか、好きじゃないもの」
「好きだよ」

 もっと聞きたくない言葉が比奈の口からぶつけられて、思わず即答した。けれど比奈は、それこそ怪訝そうに首を傾げる。

「お母さん達の手前、そう言ってるだけなのくらい分かってるし」
「違う、本気で……」
「何言ってるの。嘘吐き」


 うそ、つき。

 その言葉が、胸を抉る。
 ドキドキと、不必要なほど鼓動が早くなる。

「比奈こそ何言ってんだよ。嘘なんか、俺、吐いてな……」
「それが、嘘だって言ってんの。そんなこと言わなくても、ちゃんと幼馴染してるんだからもういいよ」

 もういいよ。

 そんな小さな言葉が、俺の感情を高ぶらせる。

 ”もう、そんなのどうでも、いいよ”

 そう、比奈が言っているのが、読み取れるから。
 分かりたくない、けど、伝わってくるから。

「比奈」

 苛立った感情のまま名前を呼べば、比奈は微かに笑んだ。

「おやすみ、こたろーちゃん」

「比奈っ」

 慌てて手を伸ばしたけれど、寸での差で窓は閉まってしまった。開けようとしたけれど、鍵も掛けられたらしくどうにもならない。比奈の部屋はすぐに電気も消えて、真っ暗になった。

「どういう、事だ?」

 さっきまで、普通だったよな?
 俺の為の夜更かしだったから、少し注意して、でもすぐに普通に戻して。
 ただ、伊藤先生の事気にしてたから、その事で何かあったら俺に言えって……で……

 右手で、顔を覆う。

 なんでいきなりこーなった?
 意味わかんねぇ。
 俺が、嘘吐き?
 なんで?

 ベランダの柵に寄りかかったまま、目を瞑る。

 高三から、ずっと比奈に好きだと伝えてきた。
 本気にしてないだろうとは態度で伝わってきたけれど、それでも少しは恋愛感情があると、存在していると思ってた。
 それが、全くの勘違いで。
 しかも、俺が五年間も嘘を吐いてきたと思われてて。

 それも……ショックだけど――

 ”もういいよ”

 この言葉が、脳裏で繰り返される。

 ”もう、こたろーちゃんなんかどうでも、いいよ”

 もし、そう言われていたとしたら。
 五年間、ずっとそう思われていたとしたら……
 窓が閉まる前、微かに笑んだ比奈の表情。
 俺、実はどーでもいい奴だと思われてたわけ……?


 そのまま俺は部屋に戻ることもできず、ベランダで手すりに寄り掛かったまま朝を迎えてしまった。
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