幼馴染と図書室。

篠宮 楓

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11 幼馴染と後輩と先生と 比奈

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「で、どういった本ですか?」
 
 隣に立つこたろーちゃんを見上げれば、優しげな視線とかち合う。
 それは親しみを込めつつも他人を感じるもので、思わず渡された用紙をひったくるようにその手から受け取った。
「三嶋さん?」
 先生モードのこたろーちゃんの声は、心臓に悪い。
 知らない人みたいで、なんだか嫌。
 けれどもっと嫌なのは。

「なんでもないです」

 なんでもない行動ができないくせに、隠そうとする自分が一番嫌。



 先ほどカウンターの前で腕を組むように立つ二人を思わず呆気にとられて見ていた私は、おずおずとでもいうように隣から聞こえた声に意識を戻した。
「梶原先生、伊藤先生。何か御用ですか?」
 それは少し怯えたような、松井くんの問いかけ。
 意識せず松井くんを見遣れば、問い掛けたもののその表情はびくびくしていて。
 まるで、尻尾を足の間にしまった小型犬!! 決して大型でも中型でもない! チワワ!
 萌えるーーっ! かわいい!! もう、何一つとして不可な場所無し!!!


 なーんて萌えに悶えていた私は、何やら不機嫌そうな視線に目を向けた。

 ……こたろーちゃん、松井くんに威嚇してどーしたのさ……


 不機嫌な視線の元は、こたろーちゃんだった。
 松井くんを表面上にこやかに見ているけれど、目が全く笑ってない。
 可愛い可愛い松井くんは意味は分からずとも本能的に恐れを感じるようで、ちらちらと視線を彷徨わせながらこたろーちゃんを伺っているようだった。
 あー、なんでこたろーちゃんは、可愛い松井くんを苛めるかな。
 あえて言うなら私も物凄く失礼な思考をしているんだけど、それは棚に上げる! めっちゃ高いとこにね!

 小さく聞えないように息を吐き出すと、伊藤先生とこたろーちゃんに目を向けた。

「あの、何かありましたか?」

 冷静な私の声に、こたろーちゃんが顔を向けてきた。
 あれ? 私に対しても、何か怒っていらっしゃる?
 少しだけ和らいだ気がするけど、不穏な空気は全くなくなっていない。
 首を傾げると、もう一人事情を知っていそうな伊藤先生に目を向けた。
「あの……」
「私は特に用はないわ」

 左様ですか。
 んじゃ、カウンター前に来るなよ。
 イラッときたけれど顔には出さず、松井くんに目配せする。
 用がないなら、座っていいよね。
 大体、ここで皆が立っていたら借りに来る人に、邪魔だし。

 軽く会釈して座ろうとした私に、やっとこたろーちゃんが声を掛けてきた。
「三嶋さんに用があるんだけれど。松井くん、彼女借りていってもいいかな? カウンター、頼める?」
「は?」
「はいっ!」
 怪訝そうに聞き返した私と、座ろうとしていた体を再びピンッと伸ばして返事をする松井くん。
 こたろーちゃんは穏やかな笑みを浮かべて、私を見ている。
「私、ですか?」
 なんの用だよ、学校でー。
 思わず胡乱気な視線を向ければ、口端を上げたまま手に持っていた紙を軽く顔の前で振った。
「貸し出し禁止本エリアについて、聞きたい事があるんだ。読書の邪魔をしてしまって、申し訳ないんだけど

 本当に、申し訳ないと思ってらっしゃいますか。

「あら、それなら私がお手伝いしますよ」
 伊藤先生、顔、笑っちゃってますよ。
 まぁ、でもこれで私がこたろーちゃんと一緒に行くことはなくなったと。
 本読もう♪

 そう結論付けて、椅子に座ろうとした時だった。
「伊藤先生。お気持ちは嬉しいんですが、私は三嶋さんの意見を聞きたいんですよ」
「は?」
 なんで!?
 おもいっきりこたろーちゃんを見た私は、イラついた視線とかち合って座ろうとしていた体を再び戻す。
 まぁ、こたろーちゃんだけど一応先生だし。ここであまり反抗しても、仕方ない。
 つーか、怖いよ! 顔! 主に目!!

「分かりました」

 そう伝えれば、満足そうに頷くこたろーちゃん。
 この方は優しそうに見せかけて、自己中&思い込みの激しい御仁であった。
 怒らせると、面倒くさい。ひっじょーに、面倒くさい。

 松井くんにお願いねという意味で軽く手を上げれば、彼はしっかりと頷いてくれました。
 ……お留守番わんこ!!
 

 くぅっ、と拳を握り締めつつこたろーちゃんの前に立つ。
「三嶋さん、ごめんね?」
 思ってないだろー。
「イイエ」
 これも、図書委員長のお仕事ですから。
 そう言外に含めれば、少しだけ苦笑するこたろーちゃん。
 こんなアイコンタクトとかとってると、伊藤先生に文句言われ……
 目線をそのまま下ろせば、がっつりこっちを見つめる伊藤先生がおりました。

 こわっ

 思わず目を見張った私に気がついたのか、こたろーちゃんが顔を動かさず視線のみで伊藤先生を見た。
「……」
 ナイスどん引き。
 こたろーちゃんは伊藤先生に掴まれている腕を少し揺らして、申し訳なさそうに首を傾げる。
「そろそろ、離して頂いても?」
「あ、すみません」
 恥ずかしそうに頬を赤らめて腕を離したけど、あなた一瞬目を細めましたよね?
 エア舌打ちが見えたような気がしますよっ!

 こたろーちゃんは掴まれた部分を軽く払うと、斜めに体を引いた。
「向こうで」
「……ハイ」
 なんか、罪人にでもなった気分だ。

 歩き出せば、なぜか伊藤先生もついてきて。
 不思議そうなこたろーちゃんに、満面の笑みを彼女は向けた。
「私も司書ですから。変更箇所についてのお話し合いなら、把握させて頂きたいですわ」
 にっこり。

 こたろーちゃんは「えぇ、分かりました」と頷いたけれど、今見えないところで舌打ちしたよね?
 しかも、エアじゃなくてリアルで!
 ほら、伊藤先生が不機嫌そうに私を見てるじゃないか!!
 やめてよー、八つ当たりは私に来るんだからぁぁ。


 そして、このページの冒頭に戻るわけです。



 こたろーちゃんは、穏やかで親切で優しいけれど。
 自己中で思い込みが激しくて、何よりも今は建前のオブラートに綺麗に包んでいるけれど好き嫌いのハッキリしている御仁でありましたよ……

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