11 / 29
11 幼馴染と後輩と先生と 比奈
しおりを挟む
「で、どういった本ですか?」
隣に立つこたろーちゃんを見上げれば、優しげな視線とかち合う。
それは親しみを込めつつも他人を感じるもので、思わず渡された用紙をひったくるようにその手から受け取った。
「三嶋さん?」
先生モードのこたろーちゃんの声は、心臓に悪い。
知らない人みたいで、なんだか嫌。
けれどもっと嫌なのは。
「なんでもないです」
なんでもない行動ができないくせに、隠そうとする自分が一番嫌。
先ほどカウンターの前で腕を組むように立つ二人を思わず呆気にとられて見ていた私は、おずおずとでもいうように隣から聞こえた声に意識を戻した。
「梶原先生、伊藤先生。何か御用ですか?」
それは少し怯えたような、松井くんの問いかけ。
意識せず松井くんを見遣れば、問い掛けたもののその表情はびくびくしていて。
まるで、尻尾を足の間にしまった小型犬!! 決して大型でも中型でもない! チワワ!
萌えるーーっ! かわいい!! もう、何一つとして不可な場所無し!!!
なーんて萌えに悶えていた私は、何やら不機嫌そうな視線に目を向けた。
……こたろーちゃん、松井くんに威嚇してどーしたのさ……
不機嫌な視線の元は、こたろーちゃんだった。
松井くんを表面上にこやかに見ているけれど、目が全く笑ってない。
可愛い可愛い松井くんは意味は分からずとも本能的に恐れを感じるようで、ちらちらと視線を彷徨わせながらこたろーちゃんを伺っているようだった。
あー、なんでこたろーちゃんは、可愛い松井くんを苛めるかな。
あえて言うなら私も物凄く失礼な思考をしているんだけど、それは棚に上げる! めっちゃ高いとこにね!
小さく聞えないように息を吐き出すと、伊藤先生とこたろーちゃんに目を向けた。
「あの、何かありましたか?」
冷静な私の声に、こたろーちゃんが顔を向けてきた。
あれ? 私に対しても、何か怒っていらっしゃる?
少しだけ和らいだ気がするけど、不穏な空気は全くなくなっていない。
首を傾げると、もう一人事情を知っていそうな伊藤先生に目を向けた。
「あの……」
「私は特に用はないわ」
左様ですか。
んじゃ、カウンター前に来るなよ。
イラッときたけれど顔には出さず、松井くんに目配せする。
用がないなら、座っていいよね。
大体、ここで皆が立っていたら借りに来る人に、邪魔だし。
軽く会釈して座ろうとした私に、やっとこたろーちゃんが声を掛けてきた。
「三嶋さんに用があるんだけれど。松井くん、彼女借りていってもいいかな? カウンター、頼める?」
「は?」
「はいっ!」
怪訝そうに聞き返した私と、座ろうとしていた体を再びピンッと伸ばして返事をする松井くん。
こたろーちゃんは穏やかな笑みを浮かべて、私を見ている。
「私、ですか?」
なんの用だよ、学校でー。
思わず胡乱気な視線を向ければ、口端を上げたまま手に持っていた紙を軽く顔の前で振った。
「貸し出し禁止本エリアについて、聞きたい事があるんだ。読書の邪魔をしてしまって、申し訳ないんだけど
」
本当に、申し訳ないと思ってらっしゃいますか。
「あら、それなら私がお手伝いしますよ」
伊藤先生、顔、笑っちゃってますよ。
まぁ、でもこれで私がこたろーちゃんと一緒に行くことはなくなったと。
本読もう♪
そう結論付けて、椅子に座ろうとした時だった。
「伊藤先生。お気持ちは嬉しいんですが、私は三嶋さんの意見を聞きたいんですよ」
「は?」
なんで!?
おもいっきりこたろーちゃんを見た私は、イラついた視線とかち合って座ろうとしていた体を再び戻す。
まぁ、こたろーちゃんだけど一応先生だし。ここであまり反抗しても、仕方ない。
つーか、怖いよ! 顔! 主に目!!
「分かりました」
そう伝えれば、満足そうに頷くこたろーちゃん。
この方は優しそうに見せかけて、自己中&思い込みの激しい御仁であった。
怒らせると、面倒くさい。ひっじょーに、面倒くさい。
松井くんにお願いねという意味で軽く手を上げれば、彼はしっかりと頷いてくれました。
……お留守番わんこ!!
くぅっ、と拳を握り締めつつこたろーちゃんの前に立つ。
「三嶋さん、ごめんね?」
思ってないだろー。
「イイエ」
これも、図書委員長のお仕事ですから。
そう言外に含めれば、少しだけ苦笑するこたろーちゃん。
こんなアイコンタクトとかとってると、伊藤先生に文句言われ……
目線をそのまま下ろせば、がっつりこっちを見つめる伊藤先生がおりました。
こわっ
思わず目を見張った私に気がついたのか、こたろーちゃんが顔を動かさず視線のみで伊藤先生を見た。
「……」
ナイスどん引き。
こたろーちゃんは伊藤先生に掴まれている腕を少し揺らして、申し訳なさそうに首を傾げる。
「そろそろ、離して頂いても?」
「あ、すみません」
恥ずかしそうに頬を赤らめて腕を離したけど、あなた一瞬目を細めましたよね?
エア舌打ちが見えたような気がしますよっ!
こたろーちゃんは掴まれた部分を軽く払うと、斜めに体を引いた。
「向こうで」
「……ハイ」
なんか、罪人にでもなった気分だ。
歩き出せば、なぜか伊藤先生もついてきて。
不思議そうなこたろーちゃんに、満面の笑みを彼女は向けた。
「私も司書ですから。変更箇所についてのお話し合いなら、把握させて頂きたいですわ」
にっこり。
こたろーちゃんは「えぇ、分かりました」と頷いたけれど、今見えないところで舌打ちしたよね?
しかも、エアじゃなくてリアルで!
ほら、伊藤先生が不機嫌そうに私を見てるじゃないか!!
やめてよー、八つ当たりは私に来るんだからぁぁ。
そして、このページの冒頭に戻るわけです。
こたろーちゃんは、穏やかで親切で優しいけれど。
自己中で思い込みが激しくて、何よりも今は建前のオブラートに綺麗に包んでいるけれど好き嫌いのハッキリしている御仁でありましたよ……
隣に立つこたろーちゃんを見上げれば、優しげな視線とかち合う。
それは親しみを込めつつも他人を感じるもので、思わず渡された用紙をひったくるようにその手から受け取った。
「三嶋さん?」
先生モードのこたろーちゃんの声は、心臓に悪い。
知らない人みたいで、なんだか嫌。
けれどもっと嫌なのは。
「なんでもないです」
なんでもない行動ができないくせに、隠そうとする自分が一番嫌。
先ほどカウンターの前で腕を組むように立つ二人を思わず呆気にとられて見ていた私は、おずおずとでもいうように隣から聞こえた声に意識を戻した。
「梶原先生、伊藤先生。何か御用ですか?」
それは少し怯えたような、松井くんの問いかけ。
意識せず松井くんを見遣れば、問い掛けたもののその表情はびくびくしていて。
まるで、尻尾を足の間にしまった小型犬!! 決して大型でも中型でもない! チワワ!
萌えるーーっ! かわいい!! もう、何一つとして不可な場所無し!!!
なーんて萌えに悶えていた私は、何やら不機嫌そうな視線に目を向けた。
……こたろーちゃん、松井くんに威嚇してどーしたのさ……
不機嫌な視線の元は、こたろーちゃんだった。
松井くんを表面上にこやかに見ているけれど、目が全く笑ってない。
可愛い可愛い松井くんは意味は分からずとも本能的に恐れを感じるようで、ちらちらと視線を彷徨わせながらこたろーちゃんを伺っているようだった。
あー、なんでこたろーちゃんは、可愛い松井くんを苛めるかな。
あえて言うなら私も物凄く失礼な思考をしているんだけど、それは棚に上げる! めっちゃ高いとこにね!
小さく聞えないように息を吐き出すと、伊藤先生とこたろーちゃんに目を向けた。
「あの、何かありましたか?」
冷静な私の声に、こたろーちゃんが顔を向けてきた。
あれ? 私に対しても、何か怒っていらっしゃる?
少しだけ和らいだ気がするけど、不穏な空気は全くなくなっていない。
首を傾げると、もう一人事情を知っていそうな伊藤先生に目を向けた。
「あの……」
「私は特に用はないわ」
左様ですか。
んじゃ、カウンター前に来るなよ。
イラッときたけれど顔には出さず、松井くんに目配せする。
用がないなら、座っていいよね。
大体、ここで皆が立っていたら借りに来る人に、邪魔だし。
軽く会釈して座ろうとした私に、やっとこたろーちゃんが声を掛けてきた。
「三嶋さんに用があるんだけれど。松井くん、彼女借りていってもいいかな? カウンター、頼める?」
「は?」
「はいっ!」
怪訝そうに聞き返した私と、座ろうとしていた体を再びピンッと伸ばして返事をする松井くん。
こたろーちゃんは穏やかな笑みを浮かべて、私を見ている。
「私、ですか?」
なんの用だよ、学校でー。
思わず胡乱気な視線を向ければ、口端を上げたまま手に持っていた紙を軽く顔の前で振った。
「貸し出し禁止本エリアについて、聞きたい事があるんだ。読書の邪魔をしてしまって、申し訳ないんだけど
」
本当に、申し訳ないと思ってらっしゃいますか。
「あら、それなら私がお手伝いしますよ」
伊藤先生、顔、笑っちゃってますよ。
まぁ、でもこれで私がこたろーちゃんと一緒に行くことはなくなったと。
本読もう♪
そう結論付けて、椅子に座ろうとした時だった。
「伊藤先生。お気持ちは嬉しいんですが、私は三嶋さんの意見を聞きたいんですよ」
「は?」
なんで!?
おもいっきりこたろーちゃんを見た私は、イラついた視線とかち合って座ろうとしていた体を再び戻す。
まぁ、こたろーちゃんだけど一応先生だし。ここであまり反抗しても、仕方ない。
つーか、怖いよ! 顔! 主に目!!
「分かりました」
そう伝えれば、満足そうに頷くこたろーちゃん。
この方は優しそうに見せかけて、自己中&思い込みの激しい御仁であった。
怒らせると、面倒くさい。ひっじょーに、面倒くさい。
松井くんにお願いねという意味で軽く手を上げれば、彼はしっかりと頷いてくれました。
……お留守番わんこ!!
くぅっ、と拳を握り締めつつこたろーちゃんの前に立つ。
「三嶋さん、ごめんね?」
思ってないだろー。
「イイエ」
これも、図書委員長のお仕事ですから。
そう言外に含めれば、少しだけ苦笑するこたろーちゃん。
こんなアイコンタクトとかとってると、伊藤先生に文句言われ……
目線をそのまま下ろせば、がっつりこっちを見つめる伊藤先生がおりました。
こわっ
思わず目を見張った私に気がついたのか、こたろーちゃんが顔を動かさず視線のみで伊藤先生を見た。
「……」
ナイスどん引き。
こたろーちゃんは伊藤先生に掴まれている腕を少し揺らして、申し訳なさそうに首を傾げる。
「そろそろ、離して頂いても?」
「あ、すみません」
恥ずかしそうに頬を赤らめて腕を離したけど、あなた一瞬目を細めましたよね?
エア舌打ちが見えたような気がしますよっ!
こたろーちゃんは掴まれた部分を軽く払うと、斜めに体を引いた。
「向こうで」
「……ハイ」
なんか、罪人にでもなった気分だ。
歩き出せば、なぜか伊藤先生もついてきて。
不思議そうなこたろーちゃんに、満面の笑みを彼女は向けた。
「私も司書ですから。変更箇所についてのお話し合いなら、把握させて頂きたいですわ」
にっこり。
こたろーちゃんは「えぇ、分かりました」と頷いたけれど、今見えないところで舌打ちしたよね?
しかも、エアじゃなくてリアルで!
ほら、伊藤先生が不機嫌そうに私を見てるじゃないか!!
やめてよー、八つ当たりは私に来るんだからぁぁ。
そして、このページの冒頭に戻るわけです。
こたろーちゃんは、穏やかで親切で優しいけれど。
自己中で思い込みが激しくて、何よりも今は建前のオブラートに綺麗に包んでいるけれど好き嫌いのハッキリしている御仁でありましたよ……
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる