幼馴染と図書室。

篠宮 楓

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9 カウンターと後輩 比奈

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 目が覚めたら、朝でした。
 って、私! 駄目じゃんっ!




「頭痛い……」
 がんがんと痛みを訴える頭を片手で押さえながら、私は憩いの図書室のドアを開けた。
 今日は当番だから、いつもの安息の地に赴くことはできない。けれどカウンターにいても本は読めるから、まぁいいとする。
「お疲れ様です、委員長」
 カウンターに歩み寄れば、可愛らしい男の子。
 顔の作りがじゃなくて、もうなんていうか仕草が!
 しっぽふってご飯待ってる小型犬って感じで。
 お手!!←……は、違うか!

「お疲れ様、松井くん」
 なんとか口端を上げて笑みを作ると、彼の後ろを回って空いていた席に腰掛けた。
 松井くんは、一年生の男の子。
 特に何の理由もなく委員会を選ぶ人が多い中で、彼は本好きが高じて図書委員になったある意味同士!
 友人知人には、読書をおっさん趣味と一刀両断されているもので。
 なにやら、嬉しい。
 彼と一緒のカウンター当番は、本当に楽。
 気を使って何か話さなければならないわけじゃないし、お互い本を読んで時間を過ごすだけ。
 最高です! 素敵です!
 お手! ←どうしてもやりたい(笑

 さて、今日は久しぶりに源氏物語持ってきたんだよね。
 たまに読破したくなる。

 自宅から持ってきた源氏物語を開くと、いつもなら幸せな細かい文字の羅列にずきりと頭が痛んでこめかみを指先で押した。
 昨日寝たふりして切り抜けようとしたら、すっかり眠りに入っちゃったんだよね。
 久しぶりに髪を梳かれたその感覚が、とても気持ちよくて。
 目、覚めたら昨日のまんまの体勢で流石に焦りましたよ。
 思わず着衣の乱れを確認した私、間違ってないと思う。


 なんとか痛みが散らないだろうかとぐりぐりとこめかみを押していたら、心配そうな松井くんの声に顔を上げた。
「頭、痛いんですか?」
 読んでいたのだろう本を机に伏せて身体ごと私の方に向けている彼は、とても心配そうな顔。
 思わず、胸にキュンとくる。

 かーわーいーいー

 決して現実には口にしない言葉を脳内雄叫び発動して、内心悶える。
 何、この如何にも心配です、どうしたんですかご主人様! 的な雰囲気!! 的な態度! 頭撫でさせて!!



 ――比奈の読書の範囲は、ラノベから乙女小説からはては古典文学・俳諧等々雑食多岐に渡る。
 故に、萌えにものっていけるのだ!――←書き手の雄叫び



 けれど……と、私は内心自嘲する。
 心配してもらうような理由で頭が痛いわけじゃないのが、何やら大変申し訳ない。

 私はこめかみに当てていた指を外すと、極力笑みに見えるように口端を上げた。
「大丈夫よ、少し寝不足なだけだから」

 嘘だけど! 逆だけど!
 まだこっちの方がいい!
 寝すぎて頭痛いより、寝不足の方がなんとなく図書委員長的には正解のはず!


 よく分からない言い訳をひたすら脳内で繰り返しながら松井くんを見ると、がたりと椅子から立ち上がった。
「寝不足は辛いですよ! 僕がカウンターにいますから、いつもの場所で寝てきてください!」
 おっと、声が大きいよ松井くん! ちょっと頭に響くね! ……って。
 いやまぁ、確かにいつもの場所なら寝ててもばれないけど……。


 脳裏に浮かぶのは、昨日の伊藤先生の言葉。


 ”委員長なのに、皆に迷惑掛けちゃダメよ?”


 どくり……と、不快な鼓動に身体を震わせる。

 嫌味のような、けれどしごく正論であるその言葉に反論する余地はなかった。
 確かに伊藤先生の態度が最近顕著すぎて生徒達が引いているのは確かだけれど、私があの時間まで読書にふけっていなければ避けられた事態だった。
 少なくとも図書室を閉めるべきその時間に、私の読書の邪魔をしないでくれたのは下心もあるだろうけれど佳苗の優しさもほんの少し入っているはず。

 自分のダメさ加減に落ち込みながらも、松井くんに気付かれないように両手を振って彼の言葉に遠慮を示した。

「大丈夫よ、松井くん。心配してくれてありがとうね」
 そう言ってこの話はおしまいとばかりに、視線を手元に落とそうとした時だった。


「委員長、体調悪いの?」

 声を掛けられて、顔を上げる。
 カウンターの前には伊藤先生と、その彼女に腕を掴まれているこたろーちゃんの姿があった。
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