幼馴染と図書室。

篠宮 楓

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7 寝たふり 比奈

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 その声に、ぎくりと肩が跳ねる。

 思わずドアを凝視すれば、再び鳴るノック。
「比奈? お前、寝てるのかー?」
 怪訝そうな声が、それに続いて。
 ドアノブが押し下げられるのが、ゆっくりと感じられた。

「……比奈?」

 視界は、真っ暗。
 つい、目を瞑ってしまった。

「寝てんのー?」

 寝てます!
 返事できないけど、絶賛睡眠中です!
 無表情は大得意。とにかく今は、寝たふりで切り抜けましょう!

「……」

 真っ暗な視界に何も見えないけれど、雰囲気で分かるのは。

 ……こたろーちゃんが、部屋の中に侵入(!)してきやがったぁぁっ!

 うっわ、目、開けてたら殴りたい!
 叫びたい!
 蹴り飛ばしたい!
 何、寝てたら勝手に入っていいと思ってるのか、この変態め!

 脳内で悪口雑言叫び倒していたら、ぎしり、とベッドの端が重みで音を上げた。
 そっち側に、身体が少し傾ぐ。

 ……、何この状況。

 雰囲気的に……、あくまで雰囲気的に私の横に座ってませんかね!?
 しかも、こっち見てるよね!?

 やばい、ちょっと緊張してきた。
 寝たふりばれたら、ウザそう……。


「……比奈」

 思わず、鼓動が跳ねた。
 ……いや、跳ねたらやばいけど。
 こたろーちゃんの、そんな声、初めて聞いた。
 なに、この伊藤先生みたいな声。
 あっ、甘っ!

「比奈」

 再び呼ばれる自分の名前に、ばくばくと鼓動が早まる。
 やばい、顔だけは……顔面真っ赤になるのだけはなんとか阻止せねば……!

 そっと、私の前髪を指先で梳いていく感触にぴくりと表情筋を動かしてしまった。
 こたろーちゃんは一瞬指先を離したけれど、私の様子が変わらない事に安堵したのか、再び指先を髪に通していく。

 
 ……あれ……。気持ち、いいかも。



 昔、まだ小学生だった頃。
 こたろーちゃんもまだ小学生で。
 お父さんが単身赴任で奈津さんも働いていたから、よくこたろーちゃんはうちに預けられていた。
 私は小学校二年生で。
 こたろーちゃんは、六年生。よく、本を読む人だった。あ、今も変わってないけど。でも私はまだ駆けずり回って遊びたい年頃で、こたろーちゃんに付きまとってたっけ。
 今にして思えば、随分我侭な幼馴染。
 けれどこたろーちゃんは諦めていたのかあきれていたのか、私に付き合って遊んでくれた。そのうち私が疲れて寝てしまうと、よくこうやって髪を手で梳いていてくれていたのだ。

 安心できて、落ち着けて。
 そのまま眠りに落ちてしまう事が、多々あった。


 本当に、いい思い出。
 今、こたろーちゃんに対して、そんな気持ちは全く無い。
 安心なんて、まったく出来ない。


 ……でも

 その指は、変わらず気持ちいい――
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