上 下
1 / 1

幽霊の行動のゲーマー的考察

しおりを挟む

最近流行りのバトルロワイアル系の某FPSにはまっている。
大人数が物資を集めつつ最後の1チームになるまで銃撃戦を繰り広げるゲームだ。

このゲームをやっている時以外の記憶があやふやになるくらいにははまっている。

さて、ゲーム性はとても良いのだが、どうにもバグが多いのが玉にキズ。

今使っているアカウントは俺のものではない。
あ、誓って言うけど俺はチーターやらの外道ではないし、
アカウント売買もしていない。
ある日ゲームを起動したら全く別人のアカウントになっていたのだ。
ひどいバグである。

そのゲーム内にて自称幽霊と友人になった。

まあ、友人と言っても実際に会ったことはない。
ログインするタイミングが合えばチャットを飛ばしてチームを組むだけの関係だ。

さて、自称とは言えせっかく幽霊の知り合いができたので話を聞いてみようと思う。

「うーす」
VC(ゲーム内の音声通話)をつなぎ、こちらから声をかける。

「やほー」
聞こえてきたのは若い女の声。
ゲーム内の名前はYou-0。

ゆうれい、という音に加えて、ユー、霊というダブルミーニングだ。
霊はあんたじゃないんか、との疑問はおいておく。

最初に彼女の声を聞いた時にはテンションを上げたものだ。
ゲームの性質上、女性プレイヤーはどうしても少なくなりがちだからな。

まあ、残念ながら彼女は幽霊である。
そうでなければ幽霊を自称する地雷女だ。

「You-0さんって幽霊なんすよねー。
何個か質問いいっすか?」

会話とともに試合も開始。

まずはキャラ決め。それぞれが特殊な能力を持っている。
You-0さんは毒ガスをばらまく
デブでデコハゲの死んだ魚の目をしたおっさんを選択。
そして俺は足の速いヤク中を選択。

各チームが無人島の様々な地点に飛行機から飛び降りていく。

「どうぞどうぞ~。
ってか実はわたし生前も2ちゃんで同じことやった。
まさか本当にやることになるとはねぇ。」

荒廃したビル街に着地。
武器や弾薬を慣れた手つきで探す。

未だに人気を誇る「幽霊だけど質問ある?」か。
あれのスレ主、男だった気がするけど。
まあ類似のものもあったしそっちかもしれない。

つーか生前かよ、詐欺師め。

「じゃあひとつめ。幽霊ってなんで一人の時にでてきやすいんすか?」

「そりゃ人数不利を避けるためよ。
君は敵がたくさん籠ってる建物に一人で突っ込んでいくの?
プロゲーマーのクリップ集みたいに。
いや、君は時々やるか。それで死んだ君をわたしがこそこそ救助に行く、と。
ゲームだからいいけどね。現実では気を付けなよー」

考えなしに突っ込んですまん。

「毎度お世話になってます。
あ、狙撃用のスコープここにあるよ」

「ありがとー。まあ、ひとつめの質問への答えはこんなものかな」

そんなゲームみたいな理屈なんだろうか。
あれ?ていうか。

「それって人数不利だと負けるってことか?
あ、敵。多分2人」

You-0さんとは距離があり、援軍は望めない。

「すぐ向かう。ちょっと耐えて。
幽霊も人数不利は負けるね。もう、余裕で負ける。
意外と力の差、ないのよ。わたしたちと生者って。

そもそも一対一でも勝てるか微妙じゃない?
人間が盛り塩やら数珠やら持ってたら即アウトだし、
お笑い番組見て爆笑してる奴も勝てないし。

あとは、あれだ。うん。
頻繁に性的な興奮をしてる相手も勝ちにくいね」

建物内の棚の裏に隠れるも見つかった。

敵の一人に向けてハンドガンの弾を撃ちこむが、2人分の銃弾でハチの巣にされた。
変な事言うから銃の照準がずれたじゃないか。

「すまん。やられた」
「いや、わたしもごめん。離れすぎてたね」

遅れてきたYou-0さんが窓の隙間から毒ガスとグレネードを建物内に投擲する。
ショットガン片手に突撃。
グレネードで分断された敵を視界の悪いガス内で各個撃破する。
彼女の救助により、俺は一命をとりとめる。

「ないすー」
「いえーい」

倒した敵の弾薬や武器を漁りながら会話に戻る。

「ちなみにどんな相手になら勝ちやすいんだ?」

「一番わかりやすいのは精神が弱っている人。
わかるでしょう?勝負って意外と精神論なの」

たしかに。
敵と撃ち合っている時、
『やばい、負ける』と思うときはほぼ負けるものだ。

「あとは、部屋が汚い人もねらい目かも。
物の位置が変わっても気が付かれないから、
ベストのタイミングで奇襲をかけられるのよね。
あと、こういう人は精神も弱っていることが多いし」

少し怖くなってゲーム画面から目を離す。
散らかった部屋。
机の上のゴミは昨日もあの位置にあっただろうか?自信がない。

というか、俺の部屋ってこんな感じだったっけ?
自信がなくなってくるな。怖い怖い。

「それに、優しすぎる人も危ないかな。
情けをかけちゃいけない相手、状況ってのはある。
どんなに綺麗ごとを言ってもね。
…この点では君も心配かな」

最後の一言だけトーンを落として言う。

「俺、なんかしてたっけ?」
このゲームやってて優しいところなんかわかるか?

「この前、最後の敵とボクシングして負けてたじゃん」

このゲーム内の一種の文化だ。
勝ち目のないときに武装を完全放棄して降伏する人がいる。
とはいえ、バトルロワイアルである以上は敵を全滅させないといけない。

その結果はこうだ。
降伏を受け入れた場合、こちらも武器を放棄。
素手による殴り合いで戦うことで降伏した側に勝利のチャンスを与える。

「あれは優しい…のか?」

楽しいからやってるだけのつもりだったが、
確かに同情が一切ないとは言いにくいな。

「と思うよ。わたしなら問答無用で撃ち殺すかな。
あれ、ランクマッチだったし。
ま、もう大丈夫だと思うけどね」

戦利品の収集を終え、移動を始める。
バトルロワイアルゲームにおいては『安全地帯』という概念がある。
ゲームの硬直化を防ぐため、
プレイヤーが生存できる場所が時間とともにゆっくりと狭くなっていくのだ。

そして今回の場合、俺たちがいる廃ビル街は安全地帯の外になってしまう。
故に、俺たちは敵を倒して安全になった現在地からわざわざ移動しなくてはいけないのだ。

列車の線路沿いに廃ビル街を出た。
北側のトンネルを目指して平野を走る。

「じゃあ、質問ふたつめ。
幽霊ってなんで暗い所に出るんだ?うわっ」

岩陰に迷彩柄の忍者が潜んでいた。

姿を消そうとした敵を2人がかりで倒す。
敵チーム壊滅のログが流れる。
味方を失って隠れていたのだろう。

「心細いからだよ。今の敵と同じ」
返答の内容の割には淡々としている。

「You-0さんはそうは見えないけど」

「そう?ま、こうしてゲームしてる間は気がまぎれるからね。
というか君は寂しくなったりしないの?」

「俺?あんまり寂しさとかは感じないな」

トンネルに到着。列車の残骸やコンテナが随所に転がっている。
コンテナの一つに身を隠しつつ索敵。

うん、先客はいないかな。

You-0さんがあちこちに毒ガストラップを設置しながらトンネルの奥へ。
「次の安全地帯までここの防衛でー」

彼女の指示はだいたい的確なので従っておく。
「おっけー」

暗がりでじっと敵を待つ。

敵は来なかった。
生存すれば勝ちのゲームなのでこれはこれで良し。

次の安全地帯はトンネルを抜けた先の雪原地帯。
移動を開始。

トンネルの出口周辺から銃声が聞こえる。
どうやら他のチーム同士が戦闘しているらしい。
漁夫の利を狙うため、俺たちはあえて手を出さない。

「幽霊に限らないけどさ、
助かったと思わせといて不意を突かれるのも定番だよな」

「あー。確かにあるね。
ゾンビとか化け物のホラーで多いけどわたしたち幽霊もやるかも。
消えたと見せかけて後ろ~みたいな。」

戦闘が終了する。
勝利したチームの一人が味方を助け起こしている…
ところをYou-0さんの狙撃が頭に。
どこから撃たれたかもわからないまま、彼らはゲームを退場した。

鼻歌交じりにYou-0さんが言葉を続ける。

「人間が一番油断する瞬間なんだよね、危険が去ったと思った時って。
だから創作のホラーもそこを突いてくるし、
わたしたち幽霊もその瞬間を生み出せるように工夫するのが大事」

2チーム分の敵が持っていた物資を漁る。
十分な装備が整った。移動を開始。

雪原の岩にはいくつか巨大なものが存在する。
そのうちの一つに俺たちはよじ登った。

You-0さんは狙撃銃で、
俺はさっき拾ったお気に入りの軽機関銃でそれぞれ周囲を警戒する。

しばらく待つと遠くの廃村で戦闘音。
安全地帯が狭くなってきたのもあり、戦闘が頻繁に起きる。
銃声の数や方向から考えると、廃村に3チームはいそうだ。

廃村の戦闘に横やりを入れる。
この遠距離を軽機関銃で攻撃するのはやや無理があり、
俺の弾は2、3発が敵をかすめたくらい。

一方でYou-0さんの狙撃は敵の体力を確実に削っていく。
あ、今一人仕留めた。

今いる場所を手放したくないので、
さっきのように戦闘の終了を待って攻撃を仕掛けることはしない。

今回はあえてこちらの存在をアピールする。

敵がこちらに逃げてきて戦闘になった場合、
逃げてきた敵と追いかけてきた敵との連戦になってしまうからだ。

今の状況から思いついたことを口にする。

「そういえばさ、大した害がない霊現象ってあるじゃん。
ポルターガイストとかラップ音とか。
ああいうのって人間に気が付いてもらうためにやってる?」

「お、いい線いってるね。
だんだんわたしたちの事わかってきた?
純粋に気が付いてほしいだけの構ってちゃんタイプがやるね。
そういう子は引き際がわからないからすぐに除霊されちゃう」

「まあ成仏だし良いことなんじゃないか?」
それなら本人てか本霊のためにもなるよな。

「まあそうかもね。成仏したことないからわかんない。
あ、あと別のパターンもいる。
人間の精神を揺さぶって弱らせる目的。
攻撃するときに有利な状況を作るため、だね。こっちは質が悪いよ。
除霊師を呼んだ時に限って別のところに退避したり、
人間が疲れてるときに集中砲火したり」

うわ、それは確かに質が悪い。

などと話しているうちに戦闘が終わった。
1チームが全滅し、1チームは廃村に残る。
そして残り1チームは廃村から逃げ出していった。

2人のうち1人は俺たちの弾に当たらないように遮蔽を上手く使っていたが、
もう片方はルート選びが甘い。こちらに脇腹を見せた状態で雪原を走る。

You-0さんの狙撃と俺の機関銃に倒れる。

「あの距離なら狙撃でカバーできるし漁ってきてもいいよー」
「お、サンキュー」

俺のキャラが薬をキメながら走り出す。
あっという間に到着し、倒した敵から弾と回復アイテムを補充。

岩陰に隠れていたもう一人に撃たれる。
「ふぉいっ!」

驚きで変な声がでた。
まだこの場にいたのか、こいつ。

「あははっ。まあいるよねー」

俺を追おうとした敵にYou-0さんの狙撃が命中。
倒せはしないものの、俺への追撃を止めるには十分だった。

敵が岩陰に戻る間にダッシュとジャンプで岩の上に帰還。

「…予想してたんすか?」
通話中に不機嫌な声を出すのはマナー違反だが、
抑えきれずに低い声がでる。

「ごめん、ごめん。ちょっと退屈しちゃって」
対照的に彼女は楽しそうだ。

「ええ…」

「それはそうとさ、囮の表現も面白いよね。
わたしたち幽霊はあんまり使わないけど」

「ああ、あれか。物陰で音がして、びくびくしながら確認すると犬やら猫。
油断した瞬間にうわーってやつね」

「そう、それ。その場では何事もなくてその後に
『またどうせ犬か猫だろ』って油断してやられるパターンもわたしは好き」

「あ、俺はそっちの方が好きかも。
伏線がちゃんと張られてる感がある」

いったん戦局が落ち着いたので
こんな調子でのんびりと会話をしていた。

俺たちがいる岩場や廃村の反対側で戦闘音が聞こえる。
向こうは巨塔やら峰やら高低差のある戦場だ。

現在地からは狙撃しにくいので放置。今の位置を守る。

安全地帯が狭くなっていく。
俺たちがいる巨岩は最終局面までいられる位置…のはずだ。

安全地帯の位置はだいたいの傾向はあるものの
結局はランダムなので確信はもてない。

この辺りの緊迫感はバトルロワイアルならではの楽しみだと思う。
戦闘をしていないときの緊張感も良いものだ。

そういえば、何もいない道をすすむときの方が怖い、
というのもホラーあるあるだよなぁ。

反対側の戦闘音が止んだ。決着がついたらしい。
ほどなくして、狙撃を受けた。

慌てて一段下がって身を隠す。

反対側のチームがもう雪原側に来たらしい。
俺たちがいるのと似たような岩に上り、こちらを狙っている。

安全地帯の位置を考慮すればこちらが有利だが、
撃ち合いに関してはほぼ対等の立ち位置。

「よし、あのチームはつぶさないとだね。
無理に当てようとせずに被弾を抑えて。
注意を引いてくれればわたしが仕留めるから」

わお、かっこいい。
「おっけー。任せる」

段差から顔を出して、軽機関銃の弾をばらまき、隠れる。
岩から落ちない範囲で移動し、また顔を出す。
その繰り返し。

俺の動きに腹を立てたのか、グレネードが飛んできた。
しかし、丸いグレネードは岩を転がり落ちて爆発。
俺たちは無傷だ。

せまい高所で戦うのはこういうメリットもある。
グレネード類も含めて狙われにくいのだ。

そうこうしているうちに迂闊に頭を出した一人をYou-0さんが撃ち抜いた。
倒れた相手にそのまま狙撃をつづけ、とどめを刺す。

もう一人は体を出してこなくなった。

「ナイス狙撃―。You-0さんうますぎん?」

「へっへー。そうでしょ。君のハートも撃ち抜いちゃうぞっ?」

「え?」

「うん、ごめん。言った直後に死にたくなった」

「もう死んでるでしょうに」

「たしかにー」

そしてまたも戦場は硬直する。

ゲームも終盤。

安全地帯が狭くなっていくのを待つ。
僕たちがいる地点は当分安全地帯の中なので、
他のチームの移動の隙をねらう魂胆だ。

安全地帯が狭くなっていくのに合わせて、廃村のチームが移動してきた。
俺たちは狙撃を試みる。
何発か命中するも、倒すには至らない。

廃村チームは小さめの岩に身を隠した。

程なくしてその岩で戦闘音が発生するも、すぐに止む。
位置から考えて、さっきYou-0さんに囮にされたときの敵と接触したのだろう。

このゲームは人数差があって勝てるほど甘くない。

2人とも生存している廃村チームがあっさりと勝利。
横やりを入れる間もなかった。

「ところでYou-0さんはどうやってこのゲームやってるんだ?」

「生きてる人の体を借りてやってるよ。
あ、もちろんそこまで害のない範囲でね」

全く害がないわけではないようだ。
それはそれとして。

「他人のアカウントでプレイするのって規約違反じゃ?」

「んー。でも身体的にはこの人がやってるわけだからセーフじゃない?」

「そうなるんすかねぇ」
微妙に納得がいかないがまあいいか。

あれ?それなら…。
「声帯もその人のなのか?」

「ううん。本来の声を再現してヘッドホンの回路に直接入力してる。
正真正銘わたしの声だよ」
なぜかはわからないが少し安心した。

さて、いよいよ最終局面だ。

残るは俺たち2人と別の岩の上の1人、そして廃村チームの2人。
どのチームも待ちの構えだ。
可能であれば他2チームがやりあって消耗したところを叩きたいからな。

しかし、安全地帯の収縮が均衡を崩す。

別の岩の上の1人が岩をおり、移動を始める。
俺の機関銃掃射を潜り抜け、俺たちの岩の真下へ。

真下は俺たちからは死角であり、廃村チームからも狙われにくい位置である。
ただし。

「ぽぽいのぽーい♪」
You-0さんが楽しそうに毒ガストラップを放り込む。
銃に関しては死角だが、範囲攻撃である毒ガスはそうではない。

「楽しそうっすね、You-0さん」

「毒ガスを一方的に降らすときが一番生を実感する~」
操作キャラのセリフを引用しての返事。

「いや、だからあなた生きてないんだって」

毒ガスを食らいつつもその場を維持する敵。
他の位置では銃撃を食らうのでそうせざるを得ないのだ。

そうこうしているうちに廃村チームが隠れていた岩も安全地帯の外になった。

廃村チームが次の遮蔽物を目指してこちらに走ってくる。
俺たちの狙撃を避けるため、スモークグレネードを使用して姿をくらます。

ダメ元でグレネードを投げ込むが、ヒットはなし。
どこかの遮蔽物に隠れたようだ。

と思ったがすぐに居場所は分かった。
ショットガン同士の戦闘音が手前の岩付近に。

俺たちの下にいた1人チームがスモークグレネードに便乗して移動するも、
運悪く同じ遮蔽物に移動したようだ。

結構な猛者だったらしく、
さんざん毒を吸っていた彼は廃村チームのうち1人を倒し、
もう1人も瀕死に追いやった。

You-0さんがグレネード式の毒ガスを彼らの戦場に放り込む。
それを合図に俺たちは岩から飛び降り、参戦。

廃村チームの生き残りを俺が機関銃で倒し、
You-0さんがショットガン勝負を1人チームの猛者と繰り広げる。

敵が消耗していたこともあり、勝利。

画面に大きく『You are the Champion』の表示。

「やりましたねー、You-0さん。ggっす」
「やったねー。gg」

“Good game”の略だ。良い試合でしたね、という意味合いの言葉である。

画面はリザルト画面へ。

「あ、1ダメ足りない。恨めしや~」
You-0さんお得意の幽霊ジョークである。

「皿が一枚足りない、見たいに言われても。
てかダメージ数の実績狙いだったのか?
今回は別にダメージ稼ぐ動きはしなかったような」

「ううん。その実績は一番上やつ持ってるし。
ほら、見て。あと一ダメで666ダメージだったのに」

「なんで日本人の幽霊が西洋の悪魔の数字にこだわるんだよ。
世界観は統一してください」

「あははー」

そして沈黙。
リザルト画面が終了し、待機画面に戻る。

ふと時計を見るともう朝の5時だ。
「じゃあ、時間も時間なんでこの辺にしますか」
と提案。

妙な沈黙。
普段のYou-0さんなら一瞬で
「え、まだできるでしょ?」か「おけー。またね~(ブツッ)」
のどちらかの答えが返ってくるのだが。

「あのさ」
今までになく静かな声。

「はい」
彼女らしかぬ真剣さに気圧され、
これ以上の返事はできなかった。

「そろそろ成仏しようかなって。
君と遊ぶのが楽しかったからそれで満足できたみたい」

冗談を言っている雰囲気ではない。
彼女は本当に―――少なくとも彼女の中では本当に、
幽霊であるのだろう。

「そうですか。
それは良かった、でいいんだよな。
俺としては寂しくなるけど」

「そういってくれるのは嬉しいね。
それでさ、あの…一度会わない?」

やったぁ。女の子とオフ会だー。
っていうテンションでもないな。
ほんとに幽霊っぽいし。

「会ってみたい気持ちはあるけどなぁ。
祟られないか不安」

というのが正直なところだ。

「えー。ひどいな。これだけ一緒に遊んだのに。
わたしがそういう感じじゃないってこと、わからない?
どうしても不安なら、君の害になるようなことはしないって約束する」

確かにこれまでのやり取りではそんなに悪い霊とは思えなかった。

「分かったよ。会う。いつ?」
まあこれでダメだったら俺の見る目がなかったってことで。

「いえい。じゃあ今から行くね」

「ん?今?」

「この子の体から離脱して、ここの回線を通って、と。よし」
なにかぼそぼそと言っている。

「来たよー」
ヘッドホン越しではない声。

後ろを振り返ると半透明の女が立っている。
反射的に体がびくっとした。

驚きはしたが、不思議と恐怖はない。

「あー、もしかしなくてもYou-0さん?」

「うん。君がそれをわかるってことは場所を間違えないで来れたか。
良かった良かった」
と満足気に頷く彼女。

一般的な幽霊のイメージと異なり、彼女は短髪で活発そうな雰囲気を漂わせている。
陰気な雰囲気などもない。
半透明であることを除けばクラスの中心で騒いでいそうな普通の女の子だ。

「さて、まずはお礼を言いたくてさ。
本当に、ありがとね。遊んでくれて」
律儀にお辞儀をするYou-0さん。

「こちらこそ。楽しかった」
礼を言うのはこちらの方だ。

「良かった。
実は怨念に近い感情が色々あって幽霊になったんだけどさ、
遊んでるうちにどうでもよくなっちゃって」

「そっか」
幽霊になるほどの感情。
わざわざ聞いて掘り返すものでもないだろう。

「それで、本題だけど。
…一緒に来ない?」

一瞬意味がわからなかった。
その言葉が意味するのは…。

「二人であの世への旅に行こうって事なんだけど。嫌?
まだ未練とかあったりする?」

身の危険を感じて後ずさる。パソコン机にぶつかる。
モニターがガタガタと音を立てて揺れる。

「だ、だましたのかよ。害はなさない、って言ったじゃないか」
虚勢を張って言う。声が震えているのが自分でもわかった。

一方、彼女は予想外とでもいうような顔をしている。
少し考えこんだのち、はっとしたような表情に変わった。

「そっか。もしかして、気が付いてない?」

「何にだよ」
半分機械的に聞き返す。

「何ってそれは…」
視線をさまよわせてから言葉を続けた。

「君も幽霊だよ、てこと」

え?だって俺は…。

「ねえ、この部屋って本当に君の部屋?
何か違和感あったりしない?」

改めて見回す。自信がない。
そもそも自信がないこと自体が異常なのだと気が付く。

「あとは、そうだ。このアカウントさ、君のものじゃなかったりしない?」

…。

「さすがの運営もこのレベルのバグは放置しないよ。
君もわたしと同じように他の人の体を借りてプレイしてたってわけ。
無意識のうちにね」

「じゃあ俺は」

「わたしと同じ幽霊。
自分が死んでいたことに気が付いていないタイプの、ね」

感じていた微妙な違和感の数々。それらに納得がいってしまう。

「そうだったのか…」

「うん。なんかごめんね。
気づいてないと思ってなくてさ。
てっきり幽霊の先輩として色々聞かれてるものかと」

彼女が時々言っていた『わたしたち』は幽霊一般の事だけではなく、
『彼女と俺』の意味も含まれていたことに気が付いた。

「ああ、そういうことだったか」

「わかってくれたかな。それでね。
さっき言った通り、1人だと心細いからさ。
その、一緒に成仏しに行かない?
君にとっても悪い提案じゃないと思うんだけど…」

幽霊になって尚ゲームしかしていないことからもわかる通り、
この世に大した未練はない。

俺は黙って頷いた。

彼女は安心したのか柔らかく微笑む。
「えへへ、ありがと。じゃあ行こうか」

彼女に手を引かれて体が宙に浮く。
そのまま天井をすり抜けて空へ。

「ねえねえ、来世があるならまた友達になれるといいね。
君さえよければ恋人とかもありだよ?」

「それは光栄だ。その言葉、忘れないでくれよ」

かくして黄泉の国への二人旅は始まった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

たとえ私がいなくても

葉方萌生
ライト文芸
「今日から一ヶ月間、家事をストライキします」  いつもの月曜日の朝、花村美智子の宣言により花村家の平穏な日常は終わりを告げた。  サラリーマンの父、大学生の姉、高校生の弟は、それぞれ家事を覚えは始めるが——。  果たして美智子の思惑は?

隠し事は卒業する

ばってんがー森
ライト文芸
卒業式後の教室での先生の最後の授業が始まる……?

40歳を過ぎても女性の手を繋いだことのない男性を私が守るのですか!?

鈴木トモヒロ
ライト文芸
実際にTVに出た人を見て、小説を書こうと思いました。 60代の男性。 愛した人は、若く病で亡くなったそうだ。 それ以降、その1人の女性だけを愛して時を過ごす。 その姿に少し感動し、光を当てたかった。 純粋に1人の女性を愛し続ける男性を少なからず私は知っています。 また、結婚したくても出来なかった男性の話も聞いたことがあります。 フィクションとして 「40歳を過ぎても女性の手を繋いだことのない男性を私が守るのですか!?」を書いてみたいと思いました。 若い女性を主人公に、男性とは違う視点を想像しながら文章を書いてみたいと思います。 どんなストーリーになるかは... わたしも楽しみなところです。

ことりの台所

如月つばさ
ライト文芸
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 オフィスビル街に佇む昔ながらの弁当屋に勤める森野ことりは、母の住む津久茂島に引っ越すことになる。 そして、ある出来事から古民家を改修し、店を始めるのだが――。 店の名は「ことりの台所」 目印は、大きなケヤキの木と、青い鳥が羽ばたく看板。 悩みや様々な思いを抱きながらも、ことりはこの島でやっていけるのだろうか。 ※実在の島をモデルにしたフィクションです。 人物・建物・名称・詳細等は事実と異なります

朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】

桜月真澄
ライト文芸
朧咲夜最終話 +++ 愛してる。誰よりもーー でも、だからこそ…… さようなら。 2022.5.7~5.31 Sakuragi presents

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
ライト文芸
「一緒の高校に行こうね」 恋人である幼馴染と交わした約束。 だが、それを裏切って適当な高校に入学した主人公、高原翔也は科学部に所属し、なんとも言えない高校生活を送る。 孤独を誇示するような科学部部長女の子、屋上で隠し事をする生徒会長、兄に対して頑なに敬語で接する妹、主人公をあきらめない幼馴染。そんな人たちに囲まれた生活の中で、いろいろな後ろめたさに向き合い、行動することに理由を見出すお話。

猫と幼なじみ

鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。 ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。 ※小説家になろうでも公開中※

処理中です...