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第36話 3年目

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 俺達が成人して二回目の『託宣の儀』が行われた。
 その間、二回『不浄の泉』が発生したのだが、発生間隔が2ヶ月程開いていたので、トトマク領のようにバタバタする事は無かった。俺達以外の冒険者達も、一息付けたようだ。
 
    ロウ  17歳
  盗賊  Lv.26
  MP   203
  力    11
  スタミナ 12
  素早さ  54
  器用さ  54
  精神   8
  運    15
  SP   ─
   スキル
    スティール Lv.13
    気配察知  Lv.20(Max)
    隠密    Lv.19
    サーチ   Lv.5
    マップ   Lv.3

  ティア  17歳
  歌姫   Lv.26
  MP   580
  力    10
  スタミナ 28
  素早さ  18
  器用さ  9
  精神   90
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    歌唱    Lv.9
    スピーカー Lv.10
    エフェクト Lv.4
    ストレージ Lv.3

  ミミ   17歳
  炎魔術師 Lv.26
  MP   790
  力    11
  スタミナ 11
  素早さ  29
  器用さ  9
  精神   83
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    ファイヤーボール  Lv.15
    ファイヤーアロー  Lv.19
    ファイヤーストーム Lv.20(Max)
    エレメント     Lv.7
    デュアル(風)   Lv.4

  シェーラ 17歳
  大剣士  Lv.26
  MP   217
  力    56 +12
  スタミナ 54
  素早さ  18
  器用さ  17
  精神   8
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    強力ごうりき       Lv.20(Max)
    加重       Lv.16
    地裂斬      Lv.20(Max)
    マジックブレード Lv.5
    爆砕断      Lv.4
 
 二回のアンデッド討伐もあって、何とかJOBレベルは1上がった。対象モンスターのレベルが低いので、『巨大アンデッド』の経験値がメンイとなっていると思う。それを感謝すべきかは微妙な話だけど。
 レベルアップ時のSPは、俺は『スタミナ』に、ティアは『精神』に、ミミは『MP』に、シェーラは『器用さ』に振った。
 レベルは1しか上がっていないため、パラメーターの変化は少ないが、その分スキルレベルは上がっている。
 いろいろ上がってはいるが、一番大きいのは、俺の『スティール』とティアの『歌唱』が1上がった事だろう。ティアの場合は『スピーカー』も2上がっているので、対アンデッド戦は、トトマク領と比べれば格段と言える。
 ミミは『ファイヤーストーム』がついにカンストした。全く使用していない『ファイヤーボール』のみ、スキルレベルは上がっていない。
 シェーラは、前回の状態で既に『強力ごうりき』と『地裂斬』がカンストしていたので、他のスキルを確実に鍛えて行ってる。
 俺達は、少しずつではあるが、間違いなく強くなっている。良い感じだ。
 今回、『託宣の儀』があった関係で、家政婦三人娘のメンツが変わった。クルムとサティーが成人して独り立ちしたからだ。メムは一歳年下なので、成人は来年となる。
 クルムとサティーが抜けた穴は、アーシャとランと言う13歳コンビによって埋められた。二人は、先の三人から最低限の料理を学んでおり、『熊々亭』のおばちゃんに掛かる手間は少なくてすむ。
 この家政婦枠だが、孤児院の女の子達による熾烈な争奪戦があったらしい。成人前からお金が貯められ、美味しい食事も食べられる。更にお風呂もだ。着の身着のままで成人の日に放り出される孤児としては、垂涎の的だろう。
 そのため、10歳以下の女の子までもが、院の料理を手伝い、料理の腕を上げようとしているとか。そんな中で、この枠を獲得したアーシャとランは、孤児院的には料理の腕前はかなりの者だという事に成る。あくまでも、孤児院内では、と言う事では有るが。
 今回は、前もって先の三人が買い物の仕方等を教えていたので、俺達の手間も省けた。
 ところで、クルムとサティーだが、成人前から仕事が決まっていた。クルムは『熊々亭』のおばちゃんの親戚がやっている食堂。サティーは、『熊々亭』近くの仕立屋だ。成人前の段階で、JOB未定にも係わらず雇ってくれる事になっていた。そして、『託宣の儀』によって得たJOBは、サティーが『料理人』、クルムは『裁縫士』と、正にその職業に適したものだった。
 これは、JOBは本人が最も適している職業を、『神的なヤツ』が選択してものなので、成人前から料理や裁縫の腕前を見込まれた二人であれば、そう成る確率は高かった訳だ。
 この就職の件もあって、更に家政婦枠争奪戦は激化したようだ。
 クルムとサテー以外の今期成人者には、前回同様の支援を行った。
 今回は、攻撃系のJOBが『長槍士』しか居らず、残り四人は全て生産職だった。魔法職が居ないのは痛いが、頑張ってもらうしかない。ティアがいろいろ準備しているようなので、それまでの間、何とか頑張れ。
 
 クソロムン第三王子とクソ騎士団に付いても語っておこう。
 クソロムンは、その後のアンデッド戦には一度も出向いていない。地に落ちた評判は、完全に地面に潜っている。程なくマントル層へと到達するだろう。
 壊滅した騎士団は、白竜騎士団の団員を分散させる形で騎士団長、副団長とし、騎士団見習だった者で埋める形で、4騎士団全てを作り直した。
 新生、と言えば聞こえは良いが、ほぼ全員が実戦経験無しの素人集団だ。取り纏める団長クラスも、白竜騎士団と言う近衛だった事から、こちらも対モンスター戦に関しては、パワーレベリング時にしか参加していない有り様。本当の実戦経験は無いに等しい。
 以前の騎士団より劣化している、と考えれば、ほぼ役に立たない存在としか言えない。最悪だ。
 この新生騎士団も、クソロムン同様アンデッド戦には一度も出向いていない。まあ、来ない方が良いんだけどな。俺達としては。多分、一般の者達も、既に誰も期待していないと思う。クソロムン同様、その評判は地盤沈下状態だ。
 
 『浄化師』の爺さんの葬儀に関しては、やはり国による国葬となった。そのため、遺体はギルド経由で城に渡され、一週間後城前広場で国葬が行われた。
 その国葬は、大々的に行われ、『英雄の死』というてい喧伝けんでんされた。と言うより、その喧伝けんでんが目的だろう。
 爺さんの死は、『騎士団と共に、住民を守ろうとした結果である』と言う形で、騎士団の壊滅を、さらっと塗布するような事が言われたため、住民の反感を買ったのは言うまでもない。
 俺達の心情とは全く乖離かいりした葬儀だったが、俺達は爺さんの冥福を祈った。それは、他の住民達も同じだったようで、最後の黙祷では、広場に集まった全員が、真摯に祈っていた。
 爺さんの墓は、畑地の一角にある墓地に作られた。嫁さんの墓の横だ。塀によって囲まれた閉鎖都市で、塀の中に墓を持てる者は少ない。そう言った意味では、城側もある程度対応した事になる。本来は、貴族達の墓地に準貴族扱いで埋葬すべきなのだが、そこまではする気は無かったようだ。俺達的にも、墓参りの出来ない貴族エリアの墓地よりも、その方が良いので、その点については文句は無い。
 俺達は、その墓を訪れ、献花を行い、その場でティアの『般若心経』も唄った。この時ばかりは、ミミもおちゃらける事は無い。
 俺達は、爺さんの事を胸に刻みつつ、思いに一区切りを付けた。
 
 トマスさんの店に関しては、以前同様にヒグラシが鳴いている。なぜなら『昇華』スキルの事を秘密にしているからだ。
 アリさん的にはいろいろと思う所もあるようだが、トマスさんの決定に従っている。
 トマスさんは、自分の実力以外の所で評価されるのが、我慢出来ないらしい。
 それでも、俺達の装備に関しては『昇華』はやってくれている。
 この『昇華』というスキルは、対象とする武具によって必要な『魔石』の数が違う。ハイグレードの物ほど多くが必要になる。そして、『魔石値』の特性である、1~20、21~40、41~60…と言う段階的なエネルギー量の問題もそのまま影響する。25ポイントの魔石1個必要な時に、1ポイント魔石25個では駄目だという事だ。
 低グレードの物であれば、1~20ポイントの『魔石』が使用出来るので、先ずは、アンデッド戦で大量確保した1ポイント『魔石』を大量に持ち込み、低グレード品を『昇華』させる事でスキルレベルを上げて貰った。
 一回のアンデッド戦につき、10万ポイント分は確保しているので、提供は余裕だ。
「市場もだぶつかんし、ギルドの職員も統合作業に追われんですむ! ぜ~んぶ、使い込んだれ!!」
 そんなミミの宣言によって、トマスさんの『昇華』スキルレベルアップ作戦は強行された。
 この際、『痩せ狼』と『オーク』から『スティール』しまくった『牙狼ナイフ』と『鉄の剣』を50本程持ち込んでいる。この『スティール』は、新成人の支援時と、クルムとサティーのパワーレベリング時に行ったので、無駄は無い。
 トマスさんは、これらの剣を『昇華』し、結果が良くなければ、それを鋳つぶして作り直し、それを再度『昇華』するという流れで、スキルレベル上げを行った。
 鋳つぶす作業にも、当然コストが掛かるのだが、これは、魔法炉を使っているため、燃料として『魔石』を供給すればすむ。1ポイント『魔石』でOKだ。そのため、それに伴う損失は少ない。
 そんな作業もあってか、トマスさんの『昇華』はスキルレベル3まで上がっていた。
 俺達としては、もう少しスキルレベルを上げておきたい所だったのだが、アリさんの頭に角が見えだしたので、この辺りで断念する事とした。
 それらを経て、俺達の装備の『昇華』をして貰った。別途21ポイント以上の『魔石』を購入し、それを使ってだ。俺達の装備だと、20ポイント以下の『魔石』は使用出来なかった。
 この際、トマスさんは「依頼料は要らん」と言ってきたが、アリさんの顔が引きつっていたので、無理矢理に支払っている。
 この『昇華』スキルだが、どうやら、『超レア品』は『昇華』出来ないらしい。『バリアーシールド』は勿論『双魔掌』も『昇華』出来なかった。
 一応念のためだが、『双魔掌』とは、『ゾンビ』から『スティール』した、あのガントレットの事だ。現在俺の両腕に装備されている。
 この『双魔掌』に関しては、やはりミミのやつが騒いだ。
「私の! 私が使う!!」
 そう言い張ったのだが、サイズ自体がミミに合っておらず、ブカブカで簡単に抜け落ちてしまう。サイズ自動調整機能は無かった。そのため、泣く泣く諦めた。
「おにょれ~! このプリチーな身体が恨めしい!!」
 そう言いながら、ダムダムダムと地団駄を踏む姿が、微妙~にデジャブ。
 この『昇華』作業によって、俺達の装備は、一気に、とは行かないものの、多少なりとアップグレードした。
 ここで言うアップグレードとは、パラメーター上の数値の上昇だ。『昇華』を行うと、そのスキルレベルに応じて、対象武具の元々のパラメーター、『斬』『刺』『耐衝』『耐魔法・炎』などと言った値が増加する。武具自体が変化する訳では無い。ゲーム的に言えば、武具に『○○+3』とか付いている、あれだと思えば良い。
 『闇の双剣』も『昇華』によって『斬』の値が更に上がっており、シェーラの『マジックブレード』と同等の切れ味を見せている。その上で『MP吸収率』も上がり今までの5ポイントから7ポイントとなって、戦闘力だけでなく戦闘維持能力も上がった事になる。
 シェーラの、トマスさん製大剣も、『魔力伝導率』が上がっているので、『マジックブレード』の掛かりが良くなり、消費MPが減り、伸ばせる距離も伸びている。
 『ブラッディーソード』に関しても、『MP吸収率』が上がった。この剣に関しては、ほぼ使用しない能力である『血刃』の威力も上がっている。
「おにょれ~……」
 未だに、『ブラッディーソード』を諦めきれないミミが、自身のミニマムボディーを恨めしげに見ていた。その上で、また変な事を言い出す。
「ロウ! 指輪タイプの血刃が出るヤツ、盗れ!!」
 アホか。指輪型で、ど~やってモンスターから血液を吸収するんだよ。抜き手出もするのか? あ、あれか? 漫画なんかで良くある、自分の血液を使う、あれ。実際に、あんな事やったら、確実に貧血起こすぞ。って言うか、死ぬって。
 ミミの戯言たわごとはともかく、防具類は全般的に防御力、耐性が上がっている。+2程度の値ではあるが、十分な値だと思う。その値が生死を分ける事もあるだろう。
 俺のアマルガン綱製のブレストプレートも耐性中心ではあるが、能力は上昇した。……念のため言っておくが、分割では無く、一括で買ったぞ。トマスさんが『昇華』を秘密にしていた事もあって、アマルガン綱は無事(?)売れ残っていた。
 
 『託宣の儀』から50日程は平穏無事に過ごせた。おかげで、新成人がらみの諸々を余裕を持って行えた。
 だが、また『不浄の泉』が出現する。今度も『スケルトン』だ。
 発生場所が、隣国との国境沿いで、移動に時間が掛かったものの、泉消滅と『スケルトン』殲滅は問題無く終了した。
 往路は昼夜強行軍だったが、復路はゆっくり帰った。それでも、馬車での長距離移動は疲れる。ギルドに報告を終えたら、とっとと自宅に帰って休みたかったのだが、それは出来なかった。
 ロミナスさんに指示されて、以前二回使用している、ギルド内にある応接室に連れて行かれる。
 応接室のテーブルには、既に一人の少女が座っていた。ミミ程ではないが小柄で、身長は165センチ程だろう。年齢は、多分新成人前後。黒いストレートヘアーで、瞳の色も黒く、顔立ちは小動物的なかわいさがある。
 彼女が身につけているのは、孤児ルックでは無いが、以前のミミ同様な貧乏村人ルックだった。そのため、この場には全く合っておらず、完全に浮いている。
 俺達がその少女をいぶかしんでいるのを余所に、ロミナスさんは着席を求めた。
「さて、早く帰ってゆっくりしたいだろうけど、少しお願いがあるのさね。すまないね」
「ホヘ? お願い? 実の事じゃないん?」
 ミミは、ギルド側に預けてある『スキルの実』の事だと思っていたようだ。だが、それだと、この子がここにいる意味が分からない。『スキルの実』は副ギルドマスター以上にしか教えない秘密なのだから。……まさか、この子がカチアさんみたいに副ギルマス候補って事は無いよな。さすがに……。
「違うさね。実については、もう少し待って貰う事になるね。今回のお願いというのは、この子の事さね。ネムって言うんだけど、この子をあんた達のパーティーに入れて欲しいのさね」
「「はぁ~?」」
「えっ?」
「……?」
 ロミナスさんの話に、俺達全員はクエスチョン状態だ。言葉の意味は分かるが、意図が分からん。
「どのような意図でしょうか?」
「なして? 貴族どもからのごり押しって感じでもなさそう~やし」
 俺達もクエスチョン状態だったが、ネムという少女も初めて聞く話のようで、オロオロ、キョロキョロと落ち着きが無い。
「ほぇ~~~」
 俺達と、ロミナスさんを交互に見やりながら、そんな変な声を上げている。
 そんな様子を見ながら、ロミナスさんが語ったのは、俺達を驚かせると共に、納得出来る話だった。
「この子はね、今年の新成人さね。そして、JOBが浄化師だったのさね」
「マジか────!!」
「ですが、確か、今期の新成人に浄化師はいなかったと、発表があった記憶しているのですが」
「それはね、この子がJOBを司書と偽ったからさね。浄化師だと知られると、貴族の元に送られてアンデッドと戦わされたあげく殺されると思ったらしいね。まあ、あの件があった後だからね。仕方がない事さね」
「あ、そゆこと」
「知ってのとおり、司書は農村では、死にJOBだからね、バレないと思ったったらしいんだけどね、親戚の冒険者が気を利かせて、スキルレベルアップさせようと、紙と本を持ってきたらしいのさね。そして、バレたという事さね。
 それで発覚して、両親が城へ売ろうとした所を、村の冒険者ギルドの職員が止めて、最終的にはギルドが買い取る形になったのさね」
「おにょれ~! うちのかーちゃんと同類か────!!」
「そういう訳で、この子を育てなくちゃ成らないのさね」
「ほんで、それを、私らにやれと?」
「そうさね、浄化師のスキルを育てるには、アンデッドと戦う意外ないからね。歌姫の嬢ちゃんの、はんにゃしんぎょうバリアーとかって言うのの中からなら安全にスキルレベル上げが出来るだろ。あんた達ならいろいろ安心だからね。ギルド側も、出来るだけサポートするから、頼むさね」
 確かに、アンデッド討伐に確実にかり出される俺達と共にいるのが、彼女のスキルレベル上げには一番良いだろう。『般若心経バリアー』もだが、俺達には『スケルトン』から『スティール』した大量の『低級MP回復薬』が有る。MPを気にせず、ガンガン『浄化』スキルを使用可能だ。
 多分、現在この国で最高戦力たる2級冒険者達に預けるより、俺達に預けた方が効率的に、そして安全にレベル、スキルレベルを上げる事が出来るだろう。
 そう言う事が理解出るので、俺達は、ロミナスさんのお願いを拒む事は出来なかった。
「ネムちゃん、今日から、うちの子になるんだね。よろしくね」
 ティアが、ネムの頭を右手で軽くポンポンしながら、笑いかけている。
「えっと、ネムです。よろしくお願いします」
 若干おどおど気味ではあるが、ティアの笑顔で大分安心したようで、ネムの顔にも笑顔が戻っていた。
「ネムやん!、売られたんか!」
「はい、ネム売られたんです」
 そして、流れ出すドナドナ……。ティア……。
「ほぇ~、なんだか悲しいです」
 一応、ティアと共に唄っているミミの頭も、ペチッと叩いておく。
「なんでじゃ──!! 何で私の方が強めなんじゃ──!! 差別じゃ──!!」
 騒ぐミミを軽くあしらう。そんないつものカオスな状況を見て、ネムは気が抜けたのか、リラックス出来ているようだ。
 一応、この場で『売られた』という事に関して、補足しておく。これは、人身売買そのものでは無く、いわゆる丁稚奉公契約に近い。一定期間務める給金を前もって親が受け取るシステムだ。子供からすれば、『売られた』以外の何ものでもない。ミミの場合も同じだが、彼女の場合は、商家に丁稚奉公というていの妾として売られそうに成ったので、逃げた訳だ。閑話休題。
 そんなネムの様子を見て取ったミミが、行動する。
「ほんじゃ、ネムやんのパーティー加入を祝ってって事で、ティア、サイダー、サイダー!」
 ティアは、ミミの要請に素直に従って『ストレージ』から冷えたままのサイダーとコップを取り出し、全員に注ぐ。このサイダーは、あの後、『熊々亭』のおばちゃんが更に改良した一品である。最近大量に出回っているコピー品とは、一線を画す品だ。
 そんなサイダーを目の前に注がれたネムは、「シュワシュワです」と言いながら、サイダーに見入っていた。
「ネムやん、サイダー初めてか?」
「はいです。話だけは聞いた事があるです」
「よし、んじゃ、存分に飲むのじゃ~。乾杯~!」
 ミミの乾杯の合図と共に、サイダを一口飲んだネムはの目は見開かれた。
「シュワシャワで、甘々です!」
 そして、二口目は一気に流し込む。
「美味しいです!」
 そう言ってテーブルに戻した空のコップに、残念そうな顔をしている。そんな様子を見て、ティアがもう一杯注いでやった。
「いいですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとう、です」
 今度は、味わいながらゆっくりと飲むネム。貧しい農家だと、甘い物はめったに食べられない。だから、相当嬉しいようだ。俺達もそうだったから、その気持ちはよく分かる。幸せそうなネムを見守る人。残る一人であるミミは、にやけ顔で行動に移す。
「ネムやん、ほり、おやつ。はい、あーん」
 素直なネムは、ひな鳥のように口を開ける。そこにミミが、それを二つ放り込む。
「コリコリで、ほんのり甘いです」
 一息遅れて。それ、にロミナスさんが気付き、息をのむが、もう遅い。
「ネムちゃんも仲間だね。ロウ、ネムちゃんの分の指輪、お願いね」
 ティアの言う『仲間』は、『スキルの実』を食べた仲間という意味だ。……ところで、『パーティーメンバーの証としての指輪』を、何故俺が買わなくちゃ成らないんだろう? まあ、いいけどさ。買うよ。
「小っこい嬢ちゃん……」
「ほへ? どったの? ロミナスさんも、その気だったっしょ? だから、私達に任せたんちゃうん?」
「……追々とは考えてはいたさね。それを、まさか、今日とは……。そう言えば、今回の討伐分を貰っていなかったね。二個で終わりかい?」
「うんにゃ、残り四個。ほり、今回は、トトマク領並みに時間が経ってたかんね~、6匹も出よったんよ。あ、私らがやった以外に、地元の冒険者達が2匹やってるから、合計8匹ってか? 大杉にも程があるっちゅうねん」
 確かに多かった。『不浄の泉』発生から、10日近く経っていたから仕方がない。その分、『低級MP回復薬』が大量に手に入ったので良しとしている。だいぶ地元冒険者達に渡したが、それでも十分な量が残っている。現在の在庫は、千を超えてる。それを売るだけで一財産だろう。勿論売らないけどな。で、それだけの数を『スティール』して尚、『スティール』のスキルレベルは上がっていない。……段々、『歌唱』並みに遅くなってきてないか?。
 『スティール』のスキルレベルが上がりすぎて、『一般品』が引けなくなったら、それはそれで困る事になるので、現状でいい気もしなくは無い。複雑な所だ。
 ミミがロミナスさんに手渡した『スキルの実』を、ネムが物欲しそうに見ている。勿論、『スキルの実』としてでは無く、食べ物、としてだが。
 しかし、あの実、味は無いはずなんだがな。あの味でさえ、『美味い』と感じるような物しか、今まで食べてこなかったという事なのか? それは、さすがに無いと思いたい。
 それはともかく、本題に戻ろう。
「ネムやん、ステータス見てみ」
「はひ?」
 急にミミから言われたネムは、首を傾げながらもステータスを開いたようだ。本人しか見えない、ステータスを目で追うネムの首が、こてっと右に傾く。
「ほえ? スキルが二つ増えてるです。浄化しか無かったはずなのです」
 ミミが、「よっしゃ!!」と言いつつ右拳を握ったのが見えた。
 『浄化師』と言うJOBにセカンドスキルが存在しない可能性も有ったので、二つ共得られた事は確かに嬉しい事だ。
「ほいで! ほいで! その増えたスキルを言ったんさい!!」
 ミミが急かすと、ネムは、独特の口調で訥々とつとつと話し始める。彼女のしゃべり方で、字が読めない事が分かる。このステータス画面は、文字が読める者には普通に文字で書かれているのだが、読めない者にはイメージとして伝わるようになっているらしい。この辺りは、字が読める俺達は経験していないので分からない。そんなイメージを言葉にするため、ネムの説明は非常に分かりずらかった。
 ネムの説明を簡単にまとめると、以下の通りだ。増えたスキルは『聖域』と『聖光』。
 『聖域』は位置固定型の『般若心経バリアー』のようなもので、『不浄なる者の侵入及び攻撃を防ぐ』と言う。
 『聖光』は対アンデッド用のレーザー光線のようなものだ。
「よし、ネム、聖光を使ってみろ。ミミに向かって」
「なして、私にじゃ──!!」
「ミミの邪悪なカルマが消滅すれば、真っ当な一般人に成れると思ってな」
「なんですと────!!」
 ゲシゲシゲシと、机越しに俺の足を蹴ってくるミミ。街に入った時点で防具を脱いでいるので、地味に痛い。
「駄目だよ、ロウ。ミミちゃんからオタク成分を消したら、ミミちゃん自体が消えちゃうよ」
「お、おにょれ~、ティアまでもが…… ネムやん! もう一個喰っちゃれ!!」
 ミミが、俺の足を蹴り続けながら、ロミナスさんの前にまだ置いてあった『スキルの実』の一個を取り、ネムの口へと放り込む。
「やっぱり、ほんのり甘いです」
 事の重要性を全く理解していないネムはのんきなものだ。そして、ロミナスさんは、机に突っ伏している。
「まあ、いいんだけどね……」
 机に突っ伏したまま、何か言っていた。そんなロミナスさんを無視して、ネムに新たなスキルを確認すると、更に新たなスキルが発現しており、その名は『聖鎧』。その名のとおり、個人に付与する『聖属性の防御魔法』で、個人版『聖域』だ。『不浄なる者の攻撃を防ぐ』となっているらしい。
 『浄化師』も『歌姫』と同様に、初期スキルが一つだったためか、三つのセカンドスキルを得られている。ミミのヤツは、四つ目も可能か検証しようとしたが、今度はいち早く気付いたロミナスさんから『スキルの実』を回収され、実行出来なかった。まあ、どうせ、追々アンデッド戦で『スキルの実』を入手ししだい、その場で検証する事に成るから、遅いか早いかだけの違いしか無いと思うんだけどな。
 それはともかく、そろそろ、俺の足を蹴るのを止めてくれないか? ミミ。少しして、シェーラが止めてくれたよ。やっぱり、シェーラはこのパーティーの良心だ。
 そんな攻防が終わった後、かいた汗を拭ったミミが言う。
「つー事で、決定なんでないかい? スキルの実は隣国の浄化師にやるって事で!」
 ミミが言うのは、俺達が預けている『スキルの実』の処遇についてだ。ギルド内でもいろいろと揉めているようで、現在に至っても棚上げ状態に成っている。ギルド内の案の一つには、「『浄化師』に使わせて現在の『不浄の泉』多発に対処すべし」、と言うのがある。だが、国内に(実質的に)対象と成る『浄化師』がいない状態では、全ての『スキルの実』を外国へと渡す事に成るからと言って、その案に反対する者がいたようだ。彼らの言い分としては、「仮に『浄化師』に使用させたとしても、有用なスキルを得られるとは限らない」と言う事も、事実であり、この案の提案元である西ギルドは劣勢だった。
「そんなん、喰わせて確認すれば、それですむ事じゃん!!」
 その件を以前聞いた時のミミの発現がこれだ。その意見には、俺達は全員同意した。その時、その場にいたロミナスさんと、カルトさんもだ。だが、それが実行出来ないのが、巨大な組織と言うものらしい。ギルドにもいろいろな人間がいるって事だ。
 そんな経緯があったのだが、今回、ネムという『浄化師』が発見され、しかも実際に『スキルの実』を使用して、有用なスキルが得られた事が分かっている。ならば、問題は無いだろう、と言う事だ。
 ロミナスさん的には、当初、ネムを俺達に育てさせている間に、他のギルド幹部を説き伏せ、保管中の『スキルの実』を使用して…と言う計画だったらしい。
 ギルド側には、この御時世に、ギルド幹部でありながら、アンデッド問題より対貴族目的に『実』を使用しようと言う者が結構な数いるとか。中には、「騎士団にやって、恩を売って…」などと言う者もいると言う。アホか。あのクズどもが、『恩』など感じる訳が無い。「我々に提出するのは、当然の事だ!」と考えるのが目に見えている。『恩』なんてものは、それを感じる者がいて初めて成立するものなんだよ。受けた気のない者には、全く意味の無いものさ。
 そう言ったロミナスさんの計画だったが、悪魔ミミの手によって覆された訳だ。まあ、前倒しされた、と言う言い方もある。強制的無断前倒しだが……。
 このミミの行為自体は、別段違法でも無いし、約束違反ですら無い。なにせ、ギルド側に渡る前の『スキルの実』の所有権は俺達にあるのだから、それをどう使おうが、誰に咎められる筋合いは無い。それを理解しているから、ロミナスさんは、頭を抱えて机に突っ伏しても、ミミに文句を言わなかった訳だ。
 そもそも、『スキルの実』をギルドに預ける行為からして、俺達が任意で行っている事で、「やっぱ、や~めた!」と言って、預けない事も可能だ。それどころか、預けてある分の『スキルの実』を返せ、と返却を求める事も出来る。まあ、しないけどね。
「ほり、ネムやんが今回見つかった事で、対外的にはこの国には三人の浄化能力者が居る事に成るやん。これってまずくね?
 近隣の国でも、不浄の泉発生、確実に多いんちゃう? 『存在価値なしロムン』でも、余所から見れば立派な浄化師様じゃん。ぜ~ったい、言うてくるとおもうんよ。
 『生きる価値無しロムン』を送りつけるのが、いっちゃんこっちとしては良い事なんやけんど、それって無理っしょ。ま、向こうも迷惑やしね~。
 と言う訳で、『スキルの実』の提供で、って手で行くきゃないんちゃう?」
 『浄化師』と言うJOBはレアJOBだ。その上で、『不浄の泉』対策に欠かせないJOBでもある。故に、国家間で人員を融通し合う事に成る。実際、この国も過去何度となく、近隣の国から『浄化師』を派遣して貰った経緯がある。
 現時点において、この国の周囲の国に、『浄化師 』の居ない国は無いようだが、この『不浄の泉』異常発生が続く状況では、一人では足りないのは間違い無い。
 だから、現実はともかく、三人の『浄化能力者』がいる国があれば、確実に派遣を要請されるのは間違い無い。そして、それを拒否すれば、その後、周辺各国がこの国に『浄化師』を派遣してくれる事は絶対に無い。この辺りは前世と違って確実にそうなる。国家間の約束を破るような国には、確実な報いが与えられる。それ程までに余裕の無い世界だとも言える。
 ちなみに、隣国の『浄化師』保有数は、二人が一国で、残る五カ国が一人しかいない。以前の状態であれば問題の無い人員だが、現在は……。
 少し前の爺さんがいた時も、実質的に三人がいたのだが、あの時は、ティアは完全な『浄化能力者』としては対外的には認識されて居らず、爺さんも70代後半で、もう一人に至っては、ドロドロに腐ってはいても第三王子、と言う内容だったので、一人しか保有していない隣国からも話は来なかったらしい。
 現在は、ティアの 『般若心経』は、実績と共に完全に『浄化能力』と見なされており、『浄化師』同等と見なされている。そして、新たな浄化師ネムが登場した訳だ。
 ほんと、『死んでもいいぞロムン』を送りつけるのが一番簡単なんだがな。
 ミミは、そんな状況に対処するべく、『浄化師』の派遣ではなく、『スキルの実』を提供する事で、その代わりにしようという訳だ。
 実際、派遣出来るとしたら一人だけで、派遣出来る国は一国だけと成る。『スキルの実』の提供であれば、全ての国の『浄化師』を強化する事が出来る訳で、派遣から漏れる可能性のある国から考えれば、そちらの方が良いに決まっている。
 隣国としても、スキルレベル1の成り立て『浄化師』や、スキルレベル3程度な上に扱いづらい『どうか死んでくれロムン』などを派遣されるより、その方が良いに決まっている。
 それを理解しているロミナスさんは、ミミの提案に頷いた。
「そうする以外に無いだろうね。……前から言っている事さね。分からず屋が多いのさね」
 溜息交じりだ。
「仮に、隣国へ提供するとしても、どのような形を取るのでしょうか?」
 尋ねたシェーラの顔には、若干の険しさがある。
「でっかい嬢ちゃんの心配は、スキルの実が実際に浄化師に届くかって、事だね。その事については、私らに限定すれば、どうでも良いのさね。
 我が国は送った、と言う事でこちらの問題は解決した事に成るのさね。送られた国が、その実を誰に使おうとも、ね。
 ああ、怒るでないよ。分かってるさね。そうならないように、スキルの実の提供は国では無くギルド間で行うつもりさね。
 まあ、ギルドと言っても、知ってのとおりだからね。絶対に、と言えない所が残念さね。それでも、国を介するよりは10倍はましさね」
 ロミナスさんの話を聞いても、シェーラの顔には険しさが残ったままだった。それでも、一応は納得はしたようだ。
 それを見て、ロミナスさんは立ち上がる。
「さて、いろいろ忙しく成るね。分からず屋どもを、説き伏せなくっちゃ成らないからね。あんた達も、その子を頼んだよ」
「はい!」
「モチのロンよ」
「無論です」
「了解」
「ほぇ?」
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