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第34話 容量オーバー

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 爺さんの遺体を収容した俺達が戦線へと戻ると、カルトさん達だけでなく冒険者達もホッとしていたようだ。俺達が帰ってきた時点で、既に夕方だったため、その日の戦闘は終了となった。
 そして、トラドの町でカルトさん達へと細かな報告を行った。その際、騎士達の死体を放置した事も報告したが、カルトさんは何も言わなかった。カチアさんに至っては、
「良いんじゃない。自分たちで回収させれば。冒険者が依頼されてるのは、アンデッドの討伐だけだからね」
 と、言っていたぐらいだ。
 そして、その場で、爺さんの遺体の件で相談したのだが、予想外なの事に、爺さんには身内がいないらしい。奥さんはいたようだが、大分前に先立たれており、子供もいなかったと言う。現在は家も無く、王城の一角に部屋を貰って生活していたそうだ。
 それを聞いてミミが、
「んなら、私らが葬式出すべ!!」
 と、言ったのだが、カルトさんから止められた。カルトさんが言うには、爺さんの実績と立場なら王国による国葬になる可能性が高いと言う。それを、個人が葬儀を行ったとなれば、問題になると言うのだ。
「ですが、あの騎士団の状況で、浄化師殿の葬儀が執り行えるのでしょうか?」
 シェーラの疑問は、至極当然だ。俺もそう思う。
「……微妙な所ですね。逆に、そのような状況だからこそ、国葬を行って騎士団の失点を塗布しようとするかもしれません。仮に、国葬が行われなかったにせよ、一般人が葬儀を行えば、言いがかりを付けてくるのは間違い無いでしょう。さすがに、王家は…あ、第三王子がいましたね……。貴族、王家共に言って来そうですね……」
「何じゃ、それは!!」
「え~っと、このまま黙って、私達だけでお葬式を上げるのは、駄目?」
「駄目でしょうね。あなた達が浄化師殿のご遺体を回収してきた事は、この方面に居る大半の冒険者が知っています。この町の者達も。ですから無理です」
「おにょれー! クーデター起こしちゃろうーか!!」
 理不尽なるは貴族なり、って事だな。まあ、今回は王族も含むけどな。
 結局、爺さんの遺体は、ギルドに引き渡し、ギルドから王家に話すとの事。その上で、王家側がこちらで葬儀を執り行っても良いと言った場合には、俺達にやらせてくれる事になった。まあ、そうなる可能性は低いが……。
 ギルド側としても、『浄化師』との実質的な関係は深いので、ギルドを上げた葬儀を執り行いたいようだ。だが、王家の顔を潰す、と言う事で実行出来ないと考えているらしい。面倒くさい事だよ。
 何はともあれ、後々問題にならないようにだけはする必要がある。
 爺さんの遺体は、水魔法によって凍らせ、腐敗を防止した状態で俺達の『魔法のウエストポーチ』に入れ直す。そして、この『スケルトン討伐』が完了したあと、王都でギルドへと引き渡す事になる。俺達の『魔法のウエストポーチ』に入れるのは、『時間経過1/5』機能があるためだ。氷の溶ける速度が、その分遅くなるからな。勿論、腐敗も。

 翌日、俺達は早朝から『不浄の泉』探索に出た。
 一応、周辺三町村の情報を基に、現在の状況及び『スケルトン』発見当初の分布が、前線司令部の地図に書かれており、それを参考に地形なども考慮して、大まかな目安は立ててある。そこへ向かって、先ずは一直線に行く。ちなみに、今回は、前回の失敗を糧に、きちんと川と言う要素も考慮に入れている。抜かりはないぞ。ミミ言う所の『ワープロ以下とは、言わせんのだ~!』と言う事だ。意味は分からんが……。
「マップ、なにげに便利じゃん! エエの引いた!!」
 別にくじ引きじゃ無いんだけどな。
 ミミのやつは、昨日爺さんの遺体を回収できた事で、ある程度落ち着いたようだ。
 意外にも、シェーラも昨日よりすっきりした顔をしている。気のせいか?
 ティアは、昨日のアノ現象以降、時折、うんうんと一人頷いていたりする。表情や雰囲気的に、別段変になった訳ではなさそうなので放置中だ。まあ、大丈夫だろう。
 ある意味、一番スッキリしていないのは俺だったりする。俺は、あの状況ではストッパーにならざるを得ず、感情を爆発させる事が出来なかった。だから、未だに鬱積うっせきやら鬱憤うっぷんが心の奥にある。その負の感情は、全て第三クソ王子にぶつけるつもりだ。そう思う事で、その負の感情をある程度処理している。『隠密』のスキルレベルを上げねば。
 俺達は、草原から森に入り、山を越え川も越える。そして、一応の目的地として『マップ』スキル上にポイントした所に到着した。
 この途中、カーリー型の『巨大スケルトン』が現れたが、騎士団に対する鬱憤うっぷんの捌け口として役立って貰った。15分程で消滅させてやったよ。まあ、大半はティアの力だけどな。
 どうやらティアは、爺さんのために『般若心経』を唄った事で、『般若心経』限定ではあるが、歌というものの一歩深い所へ至れたらしい。漫画的に言えば『開眼』ってやつか? 要は、『般若心経』に込めるべき感情と言うものを本当に理解した、と言う事だ。今までは、前世の漫画や映画のイメージだけで唄っていたのだが、爺さんのために唄った事で、イメージでは無く心から唄えるように成った訳だ。
 『歌唱』と言うスキルは、ティアのイメージをを『付与効果』という形で具現化する。そのイメージが、漠然としたものと、しっかりしたものであれば、その差は如実にょじつに表れる。その結果が、今回は『消滅時間の短縮』と言う形で現れたに過ぎない。
 そして、『スキルの実』も当然手に入っており、それを食べたティアが発現したスキルは『ストレージ』。『魔法袋』のスキル版だ。違いは、内部空間が立方体ではなく、球体である事。スキルレベル1の現状は、直径10㍍の球体だ。そして、ミミ垂涎の『時間経過停止』と言う機能もあった。ミミが、昨日のカチアさん以上に狂喜乱舞して、俺達のMPを吸収しようとしたのは言うまでもない。
「カンガルーよ! 見たか!!」
 意味不明な事も叫んでいた。
 ティアは、前回のスキル『エフェクト』が、役に立たないスキルだと思っていた事もあり、よけいに嬉しそうにしていた。
「次私! 次私!!」
 以前どおりに、欲望丸出しのミミを見ると、元に戻ったなと嬉しく思う反面、あ~またかと溜息を吐きたくもなる。まあ、良いけどさ。

 俺達がそのポイントに着いたのは、午前10時過ぎだった。
 だが残念な事に、そこには『不浄の泉』は存在していなかった。その代わりと言う訳ではないが、『巨大スケルトン』が二匹いる。
「スキルの実、居た────!!」
 既に、ミミの中では『巨大スケルトン』は『スキルの実』が手に入るモノとしてしか認識されていないようだ。二匹同時でもだ。
 実際、今度の戦闘も、戦場に延焼しない空間を作るのが面倒だったぐらいで、二匹まとめて15分と掛からず消滅させている。
 戦闘時間が短いのは、ティアの『般若心経』の効果が上がっているのもだが、今回はシェーラの『爆砕断』の効果が大きい。
 今までは、ミミの炎魔法で少しずつ削って、体躯が2㍍以下に成って初めて通常サイズの『スケルトン』同様のダメージで消滅出来た。それ以外の体躯の時は、焼こうが切ろうが消滅には至らない。
 だが今回、4㍍程の時、足を切断して倒れた『巨大スケルトン』に、シェーラが『爆砕断』を使った所、弾け飛んだまま消滅した。
 もう一匹にも、『爆砕断』を使用したのだが、こちらは消滅はしなかった。その時の『巨体スケルトン』の身長は6㍍程だった事から、その後、炎魔法で削りつつ『爆砕断』を繰り返すと、5㍍を若干切る程の身長の段階で消滅した。
 全ての『巨大スケルトン』が同じ条件で消滅出来かはまだ分からないが、この方式によって以前より速く消滅出来るのは間違い無い。
 この事は、嬉しい予定外と成った。……あえて『嬉しい予定外』と言ったと言う事は、『嬉しくない予定外』も当然あったと言う事だ。
 それは、一匹目の『巨大スケルトン』から『スティール』した『スキルの実』をミミが食ったのだが、新たなスキルが発現しなかった事だ。
「なんでじゃ────!! ファンブル!? ファンブルなんかい!?」
 絶叫しているミミを余所に、俺は、もう一匹から取れた『スキルの実』をシェーラに渡した。
 自分に寄こせと騒ぐミミの頭を押さえ、躊躇ためらうシェーラを無理矢理促して食べさせる。だが、彼女も、新たなスキルを発現する事は無かった。
 事、ここに至れば、一つの可能性が浮かんでくる。
「打ち止めかい!!」
 スキルを得られる最大数に限界がある、と言う考えだ。セカンドスキルの数と考えると、ティアが三つのスキルを発現しているので、セカンドスキル限定ではなく、全体の総数としてのスキル数が問題なのではないか、と言う事だ。
 一応、次の『スキルの実』を俺が試してみて、それが駄目なら、ティアが、と言う形で検証する事に成った。
 多分、こけだけの日数が経っているのだから、あと二匹ぐらいは居るはず。検証は容易だろう。
 二匹の『巨大スケルトン』と戦ってから、30分程後に山の斜面に洞窟を発見した。今回の洞窟は、自然に出来たものではなく動物かモンスターが掘った巣穴のようだ。試しに俺が入ってみると、奥行き5㍍程で主はいなかった。
 俺達は一旦その場を離れ、周囲で手頃な岩を見付けて、それをティアの『ストレージ』に格納して再度洞窟へと行く。そして、全員が洞窟に入った状態で『ストレージ』から先ほどの岩を出して、入り口を塞いだ。
「休~憩~!」
 ミミはそう宣言して、洞窟の奥へ向かうと、その場にトイレ用の衝立を置き、シェーラに穴を掘らせる。
「ロウは入り口! 覗いたら死なす!!」
「覗くか! バーカ!」
 そんなアホな事を言いながら休憩開始。
 しばらくは、俺達が洞窟に入ったのを目撃していた『スケルトン』が、入り口を塞いでいる岩をガリガリとやっていたが、それも間もなく聞こえなくなる。いわゆる『ロストした』ってやつだな。
「ストレージ、メッサ便利!!」
 用を足し終えたミミが、入り口を塞ぐ岩を見ながら、そう言ってきた。
「デカい声出すな。洞窟だから響くんだよ!」
 耳のダメージの件はともかく、『ストレージ』に関しては、俺も同意だ。今回使った岩は、直径2メートル程なので、俺達の『魔法のウエストポーチ』には、入るか入らないかギリギリとなる。そして、仮に入ったにしても、容量の大半を取られてしまう。他の物が入れられない。と言うか、既にある程度の物が入っているので、岩を入れる余裕は無い。だが『ストレージ』なら余裕で入る。直径10㍍の容量は大きい。しかも、まだ大きくなる余地がある訳だ。
 今まで俺の『魔法のウエストポーチ』に入っていた、トイレ用衝立も『ストレージ』に入れるようにしよう。これで、俺の『魔法のウエストポーチ』の容量に余裕が出来る。
 冒険者は、自然界から様々な品物を持ち帰り、それを売却する事で益を得る職業だ。持ち帰れる量は、そのまま収益額に反映される。そして、持てる量が多いという事は、多くの物資を持参出来るという事でもある。それは予備の武具であったり、ポーション類であったりする訳で、その量が多い程フィールドでの安全性を高める事に成る。
 しかも、この『ストレージ』は時間経過が無いと言うとんでもない特性もあり、採取した植物や果物も『ストレージ』内に入れている限り何日経っても傷む事も劣化する事も無い。
 冒険者にとっては、夢のスキルだろう。と言うか、ティアの場合、このスキルを得た段階で、商人などで生活が十分に出来るんだよ。各村々を廻って、安い野菜等を買いあさり、それを王都など売れば良い。仮に売れ残ったとしても、『ストレージ』に入れている限り購入時の新鮮なままなので、翌日以降もそのまま売れる。ティアの将来は安泰だな。まあ、仮にティアがそうしようと考えたとしても、現状の『不浄の泉』多発問題が解決しない限り、ギルドが…と言うか国が手放さないだろうが……。
 洞窟での休憩は、一時間ほど取った。一番負担の掛かっているティアも、十分に休めたようだ。
「うん、もう大丈夫。早く、泉を探して消そう」
 そう言ってガッツポーズを見せる。最近では朝から夕方まで連続で、と言う事も多いので、途中一時間でも休めれば十分かもしれない。前世でも、3時間、4時間の単独ライブはよくやってたしな。レベルアップして、身体自体の耐久力も増してるし、定期的に『低級回復薬』も使っているので、喉を痛める事もないはず。と、言う事で頑張ってもらおう。ティアに頑張ってもらう以外方法が無いんだよな。俺達には……。

 探索再開から3時間後、やっと『不浄の泉』を発見出来た。
 当初予測していた地点から、大きく離れた地点で、山の斜面にそれはあった。斜面という足場の問題はあったが、それ以外は特段の問題も無く消滅に至る。
 今回は、ティアの『般若心経』がパワーアップしていた事もあって、35分程で消滅出来た。あと、当然のように『巨大スケルトン』が一匹湧き出してきて、それから『スキルの実』を入手出来たのだが、俺が食っても、やはり新たなスキルを得る事は出来なかった。次に、ティアが食べれば検証は終了だな。
「おにれ~! ロウ! サードスキルの実を盗れ!!」
 ミミのやつが、例のごとく無茶な事を言い出す。『サードスキル』なんてモノが存在するか自体が疑問だ。多分、無い。元々『セカンドスキル』と言う名称も、初回に身に付けているスキル以降に、と言う意味で『セカンドスキル』と呼称されるように成ったモノで、別段ステータス等に記載されている表記ではない。つまり、『神言』ではないと言う事だ。
 2があれば3があるはず、と言う事には成らない訳だ。
 元々、セカンドスキルを発現した者が、更なるスキルを発現したと言う話は聞いた事がない。それで言えば、二つ以上のスキルを発現している俺達は、ある意味、サードスキル及びフォーススキルを得ている事に成る。まあ、あくまでも言葉遊にすぎないが。
 取りあえず、ミミに言いたい事は、『欲張るな、諦めろ』と言う事。

 『不浄の泉』消滅後は、一直線に前線司令部を目指す。『マップ』が有るので、本当に無駄なくいける。さすがに、山や谷もあるので、完全に一直線という訳には行かない。
 俺達が出来るだけ急いで帰るのは、戦線で戦っている冒険者達を安心させるためだ。今回は、途中で『浄化師』の爺さんが亡くなるなどのトラブルもあり、この戦闘自体が長期化している。冒険者達の精神状態も余り良くない。だから、一刻も早く帰り、『不浄の泉』消滅という良い話題を提供する事で、彼らの精神状態を安定させ、士気を高めようという事だ。
 戦争だろうが戦闘だろうが、士気は大事だ。士気が低ければ、寡兵かへいにも負ける。特に集団戦では一ヶ所が瓦解すると、戦線自体が壊滅する事も多い。だからこそ、急ぐ訳だ。
 俺達がかなり無理をして、大急ぎで帰った甲斐はあったようで、その知らせが戦線の冒険者達に伝えられると、戦線自体が震える程の喚声が上がった。その喚声は、両サイドに広がるようにして戦線を伝播していく。
 カチアさんは『不浄の泉』消滅の件を、他の二ヶ所の町側の戦線へと知らせるべく『鳥便』を放った。
 忙しく立ち回るギルド職員達の顔にも、久しぶりの笑顔が見えている。目の下に巨大な熊を飼う、カルトさんの表情も明るい。これでいい。無理を押して急いだ甲斐はあった。
 その後、俺達は、軽い休憩を取った後、討伐作業に参加していった。俺達の位置は、最右翼だ。その位置から広範囲の『スケルトン』を消滅させていく。
 そのなか、俺は一人、ティア達から離れて『隠密』を起動しながら『スケルトン』の群れの中に入り、『スティール』を繰り返す。『隠密』起動中は、『スケルトン』は完全に俺を認識出来ない。ある意味、ティアの『般若心経バリアー』に似ている気もする。スキルが維持されていさえすれば安全という意味で。
この『スティール』作業中には、勿論、途中途中ティア達の様子は確認している。もし『巨大スケルトン』出現等の異常があれば、即座に帰れる位置もキープしている。それ以外の状況であれば、今の彼女達なら問題は無いだろう。と言うか、ティアに問題が発生しない限り、アンデッド戦に関しては大丈夫なんだよ。正に、ミミ言う所の『般若心経無双』って事だな。ミミとシェーラまで入れれば、完全に過剰戦力だ。本来は、ミミだけでも別の所に派遣する方が、全体の戦力として考えるなら正しいと思う。しないけどな。
 このポジションは、翌日以降も続けられ、『低級MP回復薬』を大量入手する事と成った。
 あと、ミミの要請で、ティアが消滅させた『スケルトン』の『魔石 』の回収もさせられたよ。おかげで『サーチ』のスキルレベルが3に成って、サーチ範囲が広がった。ただ、その分走り回ったので、無茶苦茶疲れたけどね。俺、『スタミナ』の補正値少ないんだぞ。
 今回の『スケルトン』だが、『不浄の泉』出現から消滅までに多くの日にちが掛かった事から、出現していた『スケルトン』の数が膨大な数に成っており、その存在範囲も広大となってしまった。
 俺達がいるトラドの町側の戦線以外にも、他の町と村側にも戦線が構築されている。そのため、俺達は、『不浄の泉』消滅後4日間トラドの町の戦線で活動し、その後アラサ村で5日間、クラシャの町に5日間滞在して、その街の戦線で討伐作業を行った。
 その間、3匹の『巨大スケルトン』に遭遇し、三つの『スキルの実』を入手した。その一つを、予定どおりティアが食べたのだが、彼女も新たなスキルを発現する事は無かった。
 この事によって、俺達にとっての『スキルの実』の価値が一気に下落した。
 ティアのスキル数が全部で四つなのに、新たなスキルを得られなかった事については、ミミが一つの推論を立てた。それは、『歌唱』スキルが他のスキルより多くの容積が有るため、スキルの収まる所(魂的な所?)に四つしか入りきれなかった、と言うものだ。
 元々成人した時、俺達は三つのスキルを得たのに、ティアは一つだけだった。この一つだけで、俺達の三つ分に近い容積有ったと考えれば、いろいろ納得出来る。
「ま、いいじゃん! 数が少なくっても、歌唱とストレージが有れば、元は取れたってもん、しょ!!」
 ミミのやつは、そんな事を言っていたが、『元は取れた』ってどんな『元』だよ。
 俺達は、今回も討伐最終日まで残った。その間に、『サーチ』に続き『隠密』と『スピーカー』、『ファイヤーストーム』、『エレメント』、『地裂斬』のスキルレベルが上がっている。上がる時には一気だな。
 ティアは、ついに『歌唱』と『スピーカー』が同じスキルレベルと成った。一応、『歌唱』はもうじき上がりそうなのだが、もう少し掛かるようだ。
 シェーラは、『強力ごうりき』に次いで『地裂斬』もスキルレベル20と成ってカンストした。彼女は、今後は『爆砕断』を中心に育てていくつもりらしい。
 俺は、本格的に『隠密』を育てる。当然、クソロムンとクズ騎士団にむくいを与えるためだ。クソロムンに関しては、桜場達との約束もあるしな。ただ、もう股間だけプチッと、じゃ済ますつもりはない。
 
 王都への帰りは、カルトさん達と一緒だ。と言っても、馬車は別々で、俺達は乗ってきた馬車でそのまま帰る。二台の馬車と言う事も有って、今回ティアは『ヒールソング』を休憩中に使う以外は『歌唱』は使用しなかった。のんびりと帰る。
 この帰り道、宿屋でカルトさん達に『スキルの実』の事に付いて話した。カチアさんも一緒だったのだが、一応サブマス候補と言う事でこの情報は開示しても問題無かったようだ。
「つー事で、私らもう要らんのよ。カルトさん食べる?」
 一通り、『スキルの実』を使用しても新たなスキルが得られなかった事、その考察を話したあと、ミミが、そう提案したのだが、速攻で断られた。
「冗談はやめてください! そんな物、私が使用したら、どんな問題に成るか!」
「それなら私が……」
 横から、チョロッと貰おうとしたカチアさんの頭には、カルトさんの本気のゲンコツが喰らわされた。
 その後、この『実』に関して話し合ったのだが、物が物だけに、カルトさんも軽々しく言えないようで、終始口を濁していた。最低限、ギルドマスタークラスと相談する必要があるとの事。
 そんな御大層な物を、俺達はパクパクパクパクと食い続けていた訳だ。13個も……。
 国王買い上げ物件とまで言われるであろう物を、検証と称して三つもパーにした。
「別に気にせんでいくね? ど~せ、まだまだ大スケとか出てくるんやし、10個やそこら、す~ぐ手にはいるっしよ!!」
 今までなら、ティアが『不吉な事いうの禁止!』とか『フラグ会話禁止!』と言うのだが、ティアですらこの『不浄の泉』乱発状態が続く事は既定事項だと思っているようで、口を挟む事はなかった。
「私としては、ミミ君のような炎魔法使いに使用して貰って、アンデッド戦の戦力を引き上げたい所なのですが……」
 仮に、カルトさんが言うようにしようとしたとしても、では、誰に使うのか?と言う問題がある。今後もある程度の量は手に入る予定ではあるが、それでも数は限られている。この国の『炎魔法使い』の数で考えれば、とてもではないが比較にすらならない。桁が違う。仮に、4級以上に限定したとしても、だ。当然、他の属性の魔法使いも黙ってはいないだろう。勿論、他のJOBの者もだ。と言う事で、大混乱必至。
 爺さんの遺体の件もあるので、カルトさん的には、
「これ以上、厄介事は勘弁してください」
 と、なる訳だ。お疲れ様です。頑張ってください(他人事……)。
 それと、他の騎士達の死体だが、あれは、戦線がその地点に達した段階で拾われ、爺さんの遺体同様に冷凍して、箱詰めで先に王都へと送り出してある。あんな物を『魔法の袋』などの中とは言え、身近においておきたくなかったからだ。
 爺さんの遺体は、街の者が作った棺に納めて、現在はティアの『ストレージ』に入れてある。
 騎士団の死体に棺? 必要ないよ。野菜輸送用の木箱で十分。凍らせた身体も、入れた氷も途中で溶けるだろうけど、知った事か。
 馬車は、それぞれの思いを乗せて、王都へと向かう。
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