上 下
34 / 50

第33話 じじい

しおりを挟む
 王都を中心にすると、カレザール領は東、トトマク領は南西となる。道の良さや広さで考えれば、王都へ通じる道を帰るのが格段に良い。だが、今回は距離、つまり時間を優先して王都を経由せずに行く道が選ばれた。
 村と村を結ぶ悪路すら駆ける。
 日中はティアが『ヒールソング』や『競馬ソング』を唄い、早朝から夜遅くまで駆け続けた。ティアの『歌唱』があったとは言え、ある程度レベルアップしたギルドの馬だったからこそ、出来た事だろう。
 さすがに、今回は夜間も、と言う訳にはいかない。日数が倍近く掛かるからだ。この馬達でさえ、そこまでは持たない。それでも馬達は、かなり頑張ってくれた。夜間、普通であれば立ったまま寝る馬達が、毎回横になって眠る程にだ。
 俺達なりに、できるだけ早く成る努力はしたのだが、いかんせん距離の問題は解決のしようがない。そのため、トトマク領の目的の場所に到着したのは、カレザール領を出立して五日後の事だった。
 さすがに、五日もあれば、悲しみは癒やされないまでも、落ち着くことは落ち着く。約一名については、憎しみを募らせる結果となってはいるが……。
「ティア! ヤツらに山田君の不運ソング、スピーカー付きで!! ロウ! 『隠密』でヤツらのメシにホワイトスパイダーの毒!! シェーラ! マジックブレードで鎧ごと斬り殺せ!! ど~せ、何の役にも立たないクズどもなんだから!! 許可する!!」
 などと言って、勝手に許可を出している。まあ、半分は冗談なんだとは思う。つまり、半分は本気だという事でも有るんだが……。
 そんなミミではあるが、移動一日目から三日目に比べれば、かなり立ち直っている。あの間は、ミミのやつが全く喋らず、お通夜状態だったからな。ただ、立ち直って尚この状態と言う事ではある。悲しみを騎士団達への憎しみに転化したという事だろう。
 この地点は、トトマク領領都から、更に南側で、一つの村と二つの街のほぼ中間の位置だ。一番近いトラドの町が6キロ、他の町と村までは8キロと言う位置関係となる。
 この場所は、カルスト台地のように、草原地帯に小規模な岩が飛び出しているような地形だ。土地に栄養が無いのか、木々はほとんど見当たらない。とは言え、20~30センチ程の草は生えているので、無作為の炎魔法だと山火事ならぬ草原火事になる。一般の炎魔法使い達は苦労しているだろう。水魔法使い達とセットであたっているはず。
 この地は、起伏にも富んでおり、立ち並ぶ奇岩も有って視界はかなり悪そうだ。森程では無いが、『不浄の泉』発見に手間取ることが考えられる。
 戦場へと向かいつつ、俺はそんな事を考察しているのだが、ミミは「殲滅!!」とか「絶滅!!」とか「汚物は消毒!!」などと息巻いている。その言葉の対象が、アンデッドでは無く、生き残った(と思われる)騎士団達に向けられているのは、言うまでもない。
 ただ、後半に、ネタが入ってきている当たりは、ミミらしさが戻ってきていると言える。良くも悪くも、凄く悪くも、ミミは俺達のパーティーのムードメーカーだ。元気(?)が有るに越したことはない。
 トラドの町の門番に聞いたとおりに移動すると、戦線及び前線司令部を確認することが出来た。そして、戦線確認用の物見台、『不浄の泉』探索用の可動型物見台も見えている。
 俺達は、まず前線司令部へと向かった。とは言え、地形が地形なので、真っ直ぐ行く事はできず、今回の戦いのために自然と踏み固められた道に沿って行くしかない。結構回り込んでいるので、もどかしい。
 だとりついた前線司令部には、カルトさんとカチアさんがいた。俺達を確認したカチアさんが、変な踊りを踊っているように見える程に喜んでいる。小躍りなんてものじゃ無い、大躍りと言った方が正しい位の変な踊りだ。狂喜乱舞に近いか?。
「おによれ~、カチアさんめ、私らのMPを吸い取るつもりか~!」
 ミミの戯れ言に、ティアの頬が緩んでいる。シェーラだけは元ネタが分からないためもあって、未だに表情は険しい。彼女の騎士団に対する思いが現在どのようになっているかは不明だが、騎士団の事となれば思う所は当然有るはずだ。彼女の目的としての騎士団はともかく、父親の思い出としての騎士団像は、彼女の思い出の多くを占めているはず。複雑な思いが胸中を駆け巡っているのだろう。
 いろいろ普通とは違う状態の俺達は、前線司令部に到着した。昼を大分過ぎた時間だ。
 『不思議な踊り』を踊ってティアに抱きつくカチアさんを余所に、カルトさんは静かに迎えてくれた。ただ、その顔に安堵の表情を隠すことは出来ていない。そして、二人の目の下には、濃い隈が出来ていた。相当疲れているのだろう。
「良く来てくれ…」
「じじいが、何で死んだ!!」
 カルトさんの言葉を遮ってミミが叫ぶ。
「騎士団がいくらクズでも、あんだけ居って、どうして爺を死なす!!
 じじいを守るための騎士団なんやないんかい!!
 あんだけゴリゴリの装備で、何でじじい一人守れん!!
 おかしいっしょ!! じじいを…」
「黙れ」
 俺は、ミミの頭を強めに叩いて、彼女の言葉を中断させた。
「カルトさんに怒ってどうする。まず、話を聞くぞ。……すみません、カルトさん。爺さんが亡くなった経緯いきさつと、現状を教えてください。一応、クソ王子とクソ騎士団の現状も」
 ミミのやつが、「ガルルルー」とか言ってて、俺の足をゲシゲシと蹴ってくる。なぜだ?。
 ミミの件はともかく、カルトさんが言うには、爺さんが亡くなった状況は不明だという。爺さんが騎士団に連れられて来た翌日、『不浄の泉』が発見されていないにも係わらず、60人程の騎士団で爺さんを連れたまま『スケルトン』の中に突っ込んでいったらしい。しかも、クソ王子付きでだ。
「何でそんな事を許した!!」
 ミミがそう叫ぶが、ギルドが騎士団に命令どころか指示すら出せるわけも無い。『浄化師』は、騎士団管轄なので、その事にも、何ら言う権利が無い訳だ。つまり、何も出来ないという事。
 だが、それでも反対したそうだ。かなり強固に。危険すぎるから、と。それを一蹴したのが、我らの偉大なるクソ第三王子ロムン殿下だったそうだ。
 そして、早朝から突っ込んで行き、その一部が帰ってきたのが昼直前だったとの事。帰ってきたのはクソ第三王子と騎士8名。全員が血まみれで、装備も傷だらけだったと言う。
 52名の騎士と、爺さん及び輿こしを担いでいた4名、計57名が帰ってこなかったと言う事だ。
 冒険者ギルド側では、一応周囲の町や村に逃げ帰った者がいなかったか、確認はしたが、一人として逃げ帰えれた者はいなかったと言う。つまり、57名の安否は絶望的だという事。
 ギルドとしては、権利は無いのだが、何が起こったのか知りたかったため、生き残った騎士達に聞いて回り、概要だけはつかんだようだ。
 どうやら、一匹の『巨大スケルトン』に対峙している時、もう一匹『巨大スケルトン』に襲われ、一気に壊滅状態になったらしい。
 それを聞いたミミが、
「アホか!! 60人も居って、周囲の確認も出来んのんかい!! 幼稚園児からやり直せ!!」
 などと言っていたが、幼稚園児云々は別にして、俺も同意だ。
 以前のアンデッド戦で、騎士団の戦闘は見ている。装備やレベルに応じた強さは間違い無くあった。強さによるごり押し戦法では有ったが、あの装備とあの強さであれば当然の戦法だろう、と思っていたのだが、あえてそのような戦法を取っていたのでは無く、あのような戦法しか取れなかったという事なのだろうか……。
 そんな戦法しか出来ない程バカだったから、索敵すら出来ずに、壊滅した。そう言う事か? 今回の結果だけで決めつけるのは良くないが、取りあえず、ヤツらがクズなのだけは間違い無い。
「カス騎士団はどこにおるん!?」
 ミミのやつが、カルトさんに掴み掛かるようにして尋ねた。そして、その瞬間、カルトさんの目が伏され、カルトさんの口から語られた言葉を聞いて、唖然とすると共に、なるほどね、と納得も出来ていた。
「騎士団及び、第三王子殿下は、王都へ帰りました……」
 そして、当然のように響き渡るミミの絶叫。
「クソがぁ────────!!」
 そして、そんに絶叫の中でも分かる程の歯ぎしりが、俺の横から聞こえてくる。シェーラからだ。ティアは、口を引き結んで黙している。
 その後、ミミによる騎士団とクソ第三最悪王子ロムンに対する罵詈雑言が、前線司令部周囲に響き渡るが、それを不敬だととがめる者など誰一人いない。冒険者は勿論、ギルド職員、現地の一般人の協力者達も、だ。
 それでも、このままでは意味が無いと、ミミのヤツをいさめようとしたのだが、ティアが先に動いていた。ティアは、今も尚罵詈雑言を吐き出し続けるミミを、後ろから抱きしめる。そして、耳元で呟いた。
「ミミちゃん、お爺さん捜しに行こ。このままじゃ可哀相だよ。お墓、作ろ。お葬式も出さなきゃ。般若心経唄うよ。心を込めて。ね、ミミちゃん……」
 ティアの言葉は効果があったようで、ミミの罵詈雑言は停止した。そして、ミミは、今までとは違った種類の力が込められた目を戦場へと向ける。
「行くよ!! じじいを回収に!!」
 そう言って走り出そうとする。そんなミミの襟首をつかんで引き留める。
「ウゲッ! あにすっかー!!」
 相変わらず、女の子らしくない声を出すミミ。俺は、ミミをそのまま襟首を持って持ち上げた状態のまま、カルトさんに尋ねる。
「カルトさん、クソ騎士団達が行ったルートは分かりますか? 大体のルートで良いです」
「子猫扱いすんな────!!」
 ミミのヤツがぶら下がったまま、俺のももをゲシゲシ蹴ってくるが、顔はカルトさんに向いている。ミミも、ヤツらが移動したルートの情報が必要な事は理解しているようだ。
 ヤツらが移動したルートが分からないと、この広大なフィールドを無作為に探索するしか無い。『不浄の泉』発生から10日以上経って、広範囲に『スケルトン』が広がっている現状では、尚更だ。
 と言うか、理解しているなら、俺の足を蹴るなよな、全く……。
「お~ろ~せ~!!」
 あ、そっちね。ポイ。
「イデッ! 放すんなら、放すって言え──!!」
 ゲシゲシゲシとまた蹴られた。まったく、放しても放さなくても、結局蹴るのかよ。
 そんな俺達の様子を、若干苦笑気味に見ていたカルトさんから、騎士団が進んだと思われるコースを地図を使って説明された。その説明は、あくまでも、当時の状況と、騎士団が突っ込んで行った地点、そして地形からカルトさん達が予測したコースだ、
「彼らが出発した時間、逃げ帰ってきた時間からして、この範囲を超える事は無いと思います。
 あと、問題のポイントが、森では無く草原だった事は聞き出せていますので、ここから、ここまでの森と岩石地帯は除外出来ます。ですから、この範囲に限定出来るかと。
 ただ、限定出来るとは言え、ご覧のとおり非常に広大な範囲になりますので……」
無問題もうまんたい!! 殲滅しながら探せばすむ事!!」
 カルトさんの説明を聞いたあと、ミミはそう言うとティア達をせっついて戦線方向へと走っていく。
 俺は、そんな様子を横目に、カルトさんに謝る。
「すみません、本当は不浄の泉発見を優先させるべきだと思うんですが、今の俺達の精神状態だと、いろいろ問題があるので、浄化師の爺さんの遺体探索を先にさせて貰います。
 今日じゅうに見付けて、明日からは不浄の泉探索に切り替えますから」
 俺がそう言うと、カルトさんだけで無く、周囲のギルド職員や冒険者達も、とがめる事無く、笑顔で頷いてくれた。
「分かってますよ。歌姫の歌唱スキルは、本人の精神状態に大きく影響を受けますからね。
 それに…私達としても、唯一となった浄化能力を有する者を失うわけにはいきませんから、ティアさんの精神状態の安定を優先して貰って結構です。
 元々、皆さんが到着するのは、明日か、明後日を予定していましたから。
 とにかく、絶対に帰ってきてください。全員が、ですよ。シェーラ君も普段と若干違うようですし、あなたが頼りです。
 冷静に判断して、引き際を絶対に間違わないようにしてください」
 こういう時に、知り合いなのは有り難い。これがカレザール領の責任者なら、話はこうも簡単にはいかなかっただろう。
「ロウ! はよ来いや──!!」
 ミミのそれは『出て来いや──!!』のイントネーションだ。ネタが放り込めるという事は、ある程度調子が戻ってきている証拠だ。取りあえずは、大丈夫だろう。
「行ってきます」
 カルトさんとカチアさんに、そう言ってミミ達の元へと駆け出していく。
 
 俺達は、クソ騎士団が進んだと思われるルートを突き進んでいた。今回は『魔石』の回収も無い。ミミもシェーラも攻撃スキルは使用せず、ティアの『般若心経』+『スピーカー』だけで進んで行く。
 その間、俺達は、全員でエリアを分けて、『ゾンビ』の隙間に『浄化師』の爺さんの遺体や、それに係わる痕跡を探している。
 全周囲に『ゾンビ』が溢れている状況では、足下に倒れているであろう遺体は、よほどよく見ないと発見出来ない。ティアの『般若心経バリアー』によって消え去った所以外は、場合によっては50センチ先でも見逃す可能性が有る。
 あと、攻撃スキルを使用しないのは、その攻撃スキルの範囲内に爺さんの遺体が有ったら困るからだ。火炎魔法なら消し炭、『地裂斬』ならバラバラになってしまう。だから、攻撃魔法は使えない。それは、仮に『巨大スケルトン』が出てきた時も同じだ。確実に遺体が存在しない事が確定したエリア以外は、地面に影響する攻撃スキルは使わないことにしている。勿論、俺達に危険が及ばない限り、だが。
 移動は、騎士団の予測経路を基本としながら、蛇行して進んでいる。出来るだけ、見逃しが無いようにだ。ただ、カルスト地形似にた地形だけに、死角が多い。2D・RPGのように見渡せない。
 俺は、『気配察知』だけは実行している。飛行系のモンスターもいるし、地面の下に逃げ込んでいるモンスターに襲われる可能性もゼロではない。また、林立する奇岩の裏に『ゾンビ』が残っている可能性も考えてだ。ティアの『歌唱』は音だ。音が遮られれば、その有効範囲は狭められる。『スピースー』を使っても同じだ。だから、林立する奇岩が多いと、意外に近い位置に生き残った『スケルトン』がいるケースがある。その対策として『気配察知』は必須となっている。
 近い位置にいても、こちらを攻撃可能な位置に来れば、『般若心経』で消え去るのだが、投剣が怖い。あれは、単体だと『般若心経』で消えないんだよ。本体が消えて、やっと消える。岩陰から剣を投げられないように、注意が必要って事だ。
 そんな探索を実行していると、ティアが何かを発見したようで、右斜め前方を指さす。そして、彼女はそちらに『スピーカー』を向け、進んでいった。
 ティアが指さす方向にあったのは、爺さんの遺体ではなく、『巨大スケルトン』だった。地面の起伏の間に、巨大な頭部が見え隠れしている。
「大スケ!! じじいのかたき!! ぶち殺す!! 突貫!!」
 第二次世界大戦中の日本軍将校のようなことを言い出すミミの頭を、ペチッと叩いてやる。
「突貫すんな! 貫いてど~する! アホ!」
「うがぁ? ……ウガァ──!!」
 勢いで言って、言葉の意味を理解していなかった事に気がついたらしい。だが、なぜに、俺の足を蹴る?。
「騎士団の二の舞を舞わないように、周囲の警戒も忘れないようにするぞ」
 シェーラがそう言うのに、若干被せ気味に、ミミが吠える。
「クズどものような失敗はせん!!」
「周囲の警戒は全員で、な。俺はバリアーシールドを使うから、専属は出来ないぞ。と、言う事で、いつもどおりやるぞ! いつもどおりだ!」
 今の俺達なら、油断やミスをしない限り問題は無い。ミミのヤツが、若干気負い気味だが、問題となる程ではなかった。
「弔い合戦をしようってんだよぉ!」
 何だが、若干脈絡に外れるような事を叫んでいたする位だ。
 そんなわけで、他の『巨体スケルトン』による横殴りも無く、20分程で消滅まで持って行けた。周囲に遺体が無い事を確認しなくてすんだのなら、もう少し早く出来ただろう。
 『スティール』も当然実行している。そして、今度は俺の番だった。手に入れたスキルは『マップ』。このスキルは、RPGの『オートマップ』のような物で、俺が移動した場所の一定範囲が記録され、随時閲覧出来ると言うものだ。ゲームの『オートマップ』と違うのは、エネミー表示が無い所だ。モンスターや動物、そして人間も表示されない。
 ただ、このスキルは、3Dであり、タブレットと同じような使い方で、ぐりぐりと拡大、回転が可能だ。拡大に関しては、木の形がある程度分かるまでにしか拡大は出来ないが、それが認識出来るだけでも十分だろう。
 このスキル、俺が成人後移動した場所全てもマッピングされているようで、このスキルを入手した時点で、既に広大なマップ画面が閲覧可能となっていた。この当たりの『仕様』もゲーム的だな。
 現時点でのマップ記録範囲は、俺を中心にした半径10メートル。多分、スキルレベルが上がれば、この範囲が大きくなっていくと思う。
 戦闘そのものには役立つスキルでは無いが、森での探索などでは便利なスキルだと言える。そして、今回の爺さんの遺体捜しに関しては、正に打って付けの能力だ。現在のマップ記録範囲と、ティアの『般若心経』によって消滅するエリアが近い事から、マップ内の未探査エリアを探索する事で、重複を防ぎ、探査効率を上げられるはず。
 俺は、スキルレベル上げも兼ねて、この『マップ』スキルも常時使用する。

 『マップ』のおかげで、完全なローラー探索が可能になったためか、30分後、その死体を発見する事が出来た。
「紅竜騎士団だ……」
 シェーラが言うように、赤く意匠された防具を身に纏っている。色から見て、間違い無く紅竜騎士団だろう。ただ、全身が血まみれで、血の赤なのか鎧の赤なのか分かりづらい。それ位ボロボロになっている。
「意匠からして、百騎長だ」
 シェーラいわく、騎士団には、平、十騎、百騎、副団長、団長と言う階級があるそうだ。この死体はそれなりの地位だという事に成る。どんな地位にあったにせよ、クズなのは間違い無いけどな。
「放置!!」
 ミミのヤツが声高に宣言した。これに関しては、シェーラも反対しない。……以前のシェーラなら、多分、多少なりとも躊躇うはずだが、その気配は微塵も無い。
 俺は『マップ』の機能の一つである、『ポイント』を打っておく。これは、カーナビなどにある機能と同じで、任意の場所にポイントを打って、その場所を記録出来るという物だ。備考のような書き込みまで出来る。『紅百1』と入力しておく。……このスキル、思った以上に便利だ。
「このクズは、多分逃げてる最中に殺されたはず! つー事で、じじいは近い!!」
 ミミは、そう言って、騎士の周辺を調べ、血痕の痕跡を探していく。
 他のモンスターと違い『スケルトン』は血を流さない。故に、現場に血の痕跡があれば、それは騎士達の物である可能性が高い。俺達は、その痕跡をたどって移動していく。
 血の痕跡は、途切れ途切れになりながらも続いていた。その血を、目を皿のようにして追跡していく。だが、200メートル程で、完全に途絶えてしまった。
 状況から考えると、この地点まで無傷、ないし軽傷でたどり着き、ここで大きなダメージを受けた、と言う事だろう。あるいは、それまではポーションによって傷を治せていたが、それが尽きたのが、ここだという可能性も有る。
 何はともあれ、例の壊滅ポイントに近づいているのは間違いない。
 俺達は、大きく蛇行しながら探索を続けていく。俺は『低級MP回復薬』を時折飲みながら、『マップ』によって指示を出す。
 そして、現れる騎士達の死体。
 騎士団の種別に関係なく、点々と列を成すようにして転がっている。こんなクズどもに『遺体』だの『倒れている』だのと言った言い方は不要だ。『死体』『転がっている』で十分。
「大半が逃げ傷だと…… どれ程までに……」
 シェーラが、騎士達の死体を睨み付けるようにして、何か呟いていた。
 俺は、『マップ』への記入は、もうポイントのみとし、移動を優先する。
 そして、それから10分程で、とうとう爺さんの遺体を発見出来た。その瞬間、一瞬ではあるが、ティアの『般若心経』が途絶えてしまった。
「じじい!!」
 ミミが駆け出していく。『スピーカー』圏内ギリギリであるため、投剣の範囲内なのだが、全く気にしていない。俺は、急いで追いかけ、周囲から投げられる剣を『闇の双剣』で弾いてミミを守る。ティアが駆け寄ってくる3秒程の間だけではあるが。
 ティアが来て、『般若心経バリアー』内に入れば、あとは余裕がある。『巨体スケルトン』の来襲さえなければ問題無い。
 余裕を持って、その場を見ると、爺さん以外にも20人の死体があった。その中には、騎士では無く爺さんの輿こしを担いでいた四名もいる。つまり、この場に有る騎士の死体は16体だけだという事だ。60人中の16人だ。16人が死んだ、もしくは大きな傷を負っただけで、他の46人は逃げ散ったと言う事に成る。無論、実際に戦闘を見たわけではないので、そう言い切れる訳ではないが、この現場だけを見て言えば、そう言う事に成る。
 そんな俺の考えを余所に、ミミ達は爺さんの遺体の横でしゃがみ込んでいた。そして、ティアの『般若心経』の雰囲気が変わった。
 爺さんは、右肩から袈裟懸けに切られて、内蔵も飛び出している。そんな、血まみれの遺体がほのかに青い光に包まれた。その光は、ティアの唄う『般若心経』の抑揚に同調するように光の強さが変わっている。
 息をのむ俺達三人を余所に、ティアの唄う『般若心経』が更に変化していく。その変化は、言葉にすれば陳腐に、『荘厳に』としか言いようがないが、感覚的には、全く別の段階になっているようだ。
 ティア自身は、そんな事は考えてはいないと思う、ただ、心を込めて、爺さんの冥福を祈り唄っているのだろう。元々、歌を唄う時は、常に全力のティアだが、今は、それを超えた領域に達している。
 そして、ほのかだった爺さんを包む光が、徐々に強くなり、それが限界に達した瞬間、大きくはじけた。
 その光は、周囲を囲んでいる俺達を貫いている。そして、その瞬間、俺は爺さんの声を聞いたような気がした。
「ありがとう、じゃね~よ。借り、返させずに行くな……」
 ……どうやら、ミミにも同じように聞こえたらしい。シェーラを見ると、彼女も頷いていた。彼女も聞いたのだろう。
 そしてもティアは、上空を見て微笑んでいた。
 今起こった現象が現実だったのか、スキルによる錯覚だったのかは分からない。ただ間違いなく言えるのは、発見直後の爺さんの遺体は苦悶の表情だったが、現在の顔には柔和な微笑みが見えると言う事だ。
 爺さん、お疲れ様。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと
ファンタジー
ただいま、【3章・魔獣激戦】を書いてます。【簡単な粗筋】レベルがない世界で武器のレベルをあげて強くなって、国を救う物語【ちゃんとした粗筋】その世界には【レベル】の概念がなく、能力の全ては個々の基礎能力に依存するものだった。刀鍛冶師兼冒険者である青年は、基礎能力も低く魔法も使えない弱者。──仲間に裏切られ、魔獣の餌になる寸前までは。「刀の峰に数字が?」数字が上がる度に威力を増す武器。進化したユニークスキルは、使えば使うだけレベルがあがるものだった。これは、少しお人好しの青年が全てをうしない──再起……リスタートする物語である。小説家になろうにも投稿してます

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...