キス×フレンド

あお

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「……ねえ」



「なに」



「隆太の好きな人って、どんな人」



「どんな、って」



「例えば、容姿とか、性格とか」



それをもし、知る事が出来たなら。


俺の中にある何かが、変わる気がした。


それが俺の背中を、押してくれる気がした。



「……知りたいんだ」






一つでいい。


たった一つでいいから。


隆太の好きな人の特徴に、俺の容姿が、性格が、一つでも当て嵌まるのならば。


男の俺にも、少しは可能性があるだろうか。


隆太と、キスフレ以上の関係になれるだろうか。


この想いを言葉にしても、いいだろうか。










隆太の好きな人ってどんな人と聞くと、隆太は少しだけ考える素振りを見せた。


静かに隆太が喋り出すのを待っていると、そんな俺の頭をポンポンッと叩いて、隆太が朗らかに笑った。



「姿勢が」



一音一音を大事にするように、隆太がゆっくりと語り始める。



「姿勢がいいんだ。立ってる時も、座ってる時も。後ろ姿がすっげえ綺麗で」



驚く程に優しい声音が、俺の鼓膜を揺らす。それが、心地よくて。



「物の扱いが丁寧で」



一つずつ、大切に、それこそ丁寧に、言葉が紡がれていく。



馳せた想いが、音になっていく。



「性格は、真面目つーより頑固で」



想いが隠しきれないのか、それとも隠すつもりがないのか。



言葉の端々が好きって気持ちで溢れてて。



「普段物静かなのに、好きな事に夢中になるとすっげえ無邪気になる。それが、なんか可愛くて」



聞いてるこっちが、その熱に、溶かされそう。






それは、甘い、甘い温度だった。






隆太は言った。


そいつはちょっと、変わった奴なんだと。


でも、周りに流されない強い意志を持ってる奴なんだと。



「そいつは、普通じゃない俺を、普通で居させてくれる」



最後に隆太が、とびっきりの笑顔を見せた。


愛おしいと言わんばかりに、はにかんだ笑顔を。



「そういうとこが、すっげえ、好きなんだ」



その表情に、俺はまた、恋をした。





想い人へ、たった一人へ、真っ直ぐに注がれる。


隆太の愛は、純粋で、誠実で、とても綺麗だ。



「なあ、太一。お前はもう、気付いてんだろ」



その言葉が心の琴線に触れた瞬間、一筋の涙が俺の頬を伝った。


ポタリ、ポタリと頬を伝う水滴が床へと吸い込まれていく。


その水滴はどんどん零れ落ち、ものの数秒で小さな水溜りを作ってしまう程に止めどなく俺の目から溢れ出す。


一気に溢れ出すのは、涙だけじゃない。抑えていた感情が、今にも制御出来なくなりそうだった。


焼かれた胸を、痛いくらいに鷲掴みにする。尋常じゃない程鳴り響く音が、一瞬で俺の鼓膜を支配した。



「太一、何で泣くんだよ」


「……っ、ごめ、俺……っ……」



眼鏡を外して手の甲で目を擦る。でも拭っても拭っても、涙が止まらない。


色んな感情が心の中でひしめき合ってて、もうこれが何の涙なのかもわかんない。


俺は、頑固だ。それに、誰も寄り付かないこの辺鄙な場所に好き好んで通ってる時点で、変わってもいるんだろう。


でも確信に触れたのは、容赦や特徴が似ていたからとかではなくて。


話している時、隆太が、真っ直ぐに俺を見てくるから。その瞳に、俺を映して笑うから。


視線で、声で、言葉で、行動で……好きだと言われた気がした。俺の事が、好きなんだと。


その熱量を感じてしまえば、もう、自分の思い違いだとは思えなかった。


これが本当なら、俺は、もう言っていいんだろうか。この想いを伝えていいんだろうか。


そう思うのに、隆太に早く伝えたいのに、口が上手く動かない。俺はもう、自分が笑ってるのかそれとも泣いてるのかも全然理解出来てなくて。


足に全然力が入らなくて、立ってるのがやっと。呼吸すらもままならない。



「困らせた、か?」



悲しげに呟かれたその言葉に、首を何度も横に振った。



「首、横に振るなよ。勘違い、しそうになるからっ……」



切迫した声が耳に届く。


隆太を、不安にさせたくない。勘違いじゃないと言いたいのに、嗚咽で言葉にならない。


あんなに言いたかったのに、やっと言えるのに、声にならない。


俺は必死に、隆太へと手を伸ばす。隆太の制服をギュッと握り締めて、ただ震える事しか出来なかった。



「……太一が俺を特別だと思ってくれてるのは、理解してる。でもそれが、友情か恋愛感情かは、俺にはわかんねえ」



隆太の人差し指が、俺の涙を拭う。それが優しくて、余計に、涙が止まらなくなった。



「お前のそれ、本当に、恋愛感情か。もう一度よく考えてみろよ」


それは、俺が首を横に振った真意を、確かめるように紡がれた言葉だった。






「……っそれ、なら、隆太が確かめるといい……」






これが友情を抱く相手に対する、鼓動の速さなのかを。


俺の感情が今、友情と恋愛感情の境界線の、どちら側に居るのかを。


声を振り絞って、それだけ言った。


俺は隆太の手を取り、自分の胸に押し付ける。そこには、尋常じゃない程に早鐘を打つ、心臓が存在した。



「…………っ、俺と、同じ……なのか」



そう呟いた隆太の方が、泣いてる俺よりも、泣きそうな顔してた。


俺は隆太の手を強く握り締めて、互いの熱を共有する。



「わかって、もらえた……かな」


「こんだけ速けりゃ、な」



けど、理解したという言葉とは裏腹に、隆太は困惑の表情を浮かべてる。目を左右に泳がせて、正に信じられないといった様子だ。



「俺のこれは、隆太に対するこの感情は、友情じゃない」



もう一度、大きく涙を拭った。


もう、大丈夫。ちゃんと自分の想いを言葉に出来る。



「この感情を抱いてから俺は、隆太とどうなりたいかを考えた」



友達は嫌だ。キスフレでも、満足出来ない。


もっと、今より特別な関係はないのかって、考えてた。



「俺は隆太とキスフレ以上になりたい。今以上に、俺を、特別にしてよ。隆太の中で、誰も代わりが居ない唯一人の存在にして」



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