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しおりを挟むキスフレになって、変わらない事。
放課後、穏やかに流れる時間。座る場所。カウンター越しの、絶妙な距離感。静けさ。
キスフレになって、変わった事。
キスをする上で、合意を求められるようになった、こと。
「太一、キス」
俺がキスフレになろうと言って以降、隆太はキスをする前に、俺の意思を確認するようになった。
小説を読んでいた筈の隆太が徐に立ったと思ったら、そのままカウンターの中に入って来て。俺の真横に立って、ぶっきらぼうに”キス”とだけ言った。
俺は眼鏡を外して、そっと瞼を閉じる。これがキスの合図。
隆太の手が俺の首元に添えられて、目を瞑っていた俺は突然訪れたそれにびくりと身体を反応させた。
そのまま顎を持ち上げられて、多分親指だろう、ゆっくりと丁寧に下唇をなぞられて。
隆太の吐息も、熱も、直ぐそばに感じるのに、キスをされるまでの間、待ってるこの数秒がもどかしくて。
早く、って思った。
「……んっ……」
ふわふわとした、優しいキス。
それは直ぐに離れていったけど、触れた部分に、小さな余韻が残る。
今まで唐突に奪われてばかりだったのに、こんな風に聞かれてからするのは、なんか変な感じだ。
今からされるってわかってると、妙に緊張する。身体に、変な力が入る。
でもそれより問題なのは、待つという行為に内心、ほんの少しの焦ったさを感じているって事で。
キスしていいかって、聞いてくる時間すら勿体ないっていうか。
早くしろとか、思ってしまうのが恥ずかしいし、俺だけ焦ってる気がしてなんか悔しいし。
……のも、嫌いじゃないのに。
考え事をしているのが表情に出てしまったのか、俺の表情を見て隆太が眉を寄せる。それから不貞腐れたように、むすっとした表情を見せた。
「なんだよ」
「いや、今までする前に言われる事なかったから、変な感じだなって思ってさ」
「なに、許可とんなくてもいいの?」
「……いいよ。許可取られると、逆に恥ずかしいし……ん、ぅっ……!」
隆太は俺の返答を最後まで聞かなかった。さっきより力強くて、強引。合意を求めない、荒っぽいキス。
鋭い視線が、胸を刺す。目を合わせていられなくて視線を逸らしたけど、逸らしても尚、その視線は俺の胸を貫いてきた。
あー、うん。これだ。いつものやつ。
やっぱり、強引なのも、嫌いじゃない。
長かった夏休みが終わり、秋の訪れと共に高校二度目の二学期が始まった
少しずつ下がる気温
再び、第二図書室に通う日々が訪れる
開けた窓から
カーテンを少しだけ揺らす程穏やかな風が部屋に届く
変わらない景色
静けさの中にひっそりとある、小説のページをめくる音
オレンジ色に染まるこの場所で
俺達は緩やかに、緩やかに
距離を縮めていく
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