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♦︎第3章
ピエロの禁書~ラストゲーム~④
しおりを挟む「やぁ。暗黒所へようこそ」
いつも同じ夢を見る。
ここは管理人「ウー」という兎さんが管理している暗黒所。
ここへ来ると、私の心は不思議と落ち着くの。
でも今日はなんだかいつもと雰囲気が違う。
ウーは自分の体が半分以上隠れてしまう本を両手で持って私の足元まで歩いてきた。
そして本を地面に下ろすと、上目遣いで私を見た。
「ナオミ、もうじき君の夢が叶うよ」
二歩足でその場に立ち、小刻みに飛び跳ねる。
そのたびに大きな耳が前後に揺れる。
私はその場にしゃがみこみ、ウーと目線を合わせながら問いかける。
「この本は何の本?」
手を差し伸べ、本の表紙を開く。
表紙には楽しそうに玉乗りをしているピエロ。
お手玉をしているピエロ。
トランプで遊んでいるピエロたちの姿が描かれていた。
ウーは本を重そうに両手で持ち上げ、裏表紙を見せるように置いた。
本の上に手を乗せ、何かを見せ付けるかのように文字をなぞる。
「ほら、ここ見てみて。」
遠くからは見えない、とても小さな文字に本を両手で持ち顔を近づける。
そこに書かれている四文字は私の名前だった。
「青波 直美。これは君が作った本だよ」
赤黒く、血の色で染められた本の裏表紙には確かに私の名前が刻まれている。
でも私には見に覚えがない。
「私、本なんて作ったことないよ」
困った顔をした私をみて、さっきまでは笑顔だったウーの顔は真剣な表情になり青い瞳で私の目を見て説明をしてくれた。
「この本は、君の心が作り出した本なんだ。
君の憎しみは、あまりにも強すぎた。
そして毎日のように心を汚していた。
憎い、殺したい、死んでしまえ。
その怒りのこもった憎しみに応えるかのようにこの本が出来上がった。
人の憎しみは美しい。
でも君の憎しみは人一倍綺麗だった。
生きているものには誰にでも憎しみはある。
その憎しみが偽りのものか、真実のものかは本人には分からない。
人はいつか憎しみを忘れてしまう。
でも君は違う。
本当に殺してやりたい、そう心から毎日のように思っていたね。
何年もかけてようやく出来上がったこの本は
君の願いを叶えてくれる」
ウーの説明は私の想像をはるかに超えていた。
私の憎しみの心がこの本を生んだ・・・?
そんなに私の心って汚れていたの・・・?
そう思うとなんだかとても切なくなった。
私だけが不幸じゃない。
もっと多くの人達が苦しんで、何の罪もない人達が死んでいく。
私だけじゃない。
私だけが悲劇のヒロインじゃないの。
いつもそう思っていた。
でも心は泣いていた。
幸せそうに見せる演技も涙を堪える毎日にもうんざりしていた。
いつか私にも幸せが訪れる。
そう願って生きてきた。
マックンが傍にいてくれたから、私はここまで生きてこられたの。
一人じゃないって思わせてくれたから。
「ほら、君の願いを言ってごらん。
殺したいほど憎い人がいたんだろう?
どうぞ作者さん、願ってください。
君の心から恨んでいる人を」
ウーは楽しそうに私の周りをスキップしながら回る。
ウーの声が頭の中で響き渡り、突然激しい頭痛が私を襲う。
本当に私は心からママと弟を恨んでいたのか。
本当に・・・?
私はウーに問いかけた。
するとウーは青い瞳を赤く染め、私を凝視し睨みつけた。
その目に背筋がぞっと奮え、手足が急に震えだす。
初めて見るウーのその表情はまるで、人の魂を平気で奪う死神のようだった。
「ウー・・・?」
小声でウーに問いかけると、ウーは口元をにやりと尖らせ私に言った。
「まだ迷っているの?
この本は君が作り上げた。君の憎しみの心が作り上げたんだ。
君にはもう殺して欲しい人が決まっているだろう?
ほらはやく言ってごらん。
殺して欲しい人達の名前を。」
せかすようにウーは言う。
でも私にはママと弟を殺すことなんて出来ない。
私にとって二人はこの世で一番大切な家族なんだもの。
それをウーに伝えると、赤い瞳を再び青く染め、全身立てていた毛をおろし、小さくため息を漏らした。
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