かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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八章 そるしえらのなつやすみ

第238話 じょうほうあつめ

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 ふえぇ……迷子だよぉ……。

 意気揚々と解散したは良いものの、俺は道に迷っていた。
 那滝家が広すぎたのである。

 旅館を複数個くっつけたかの如きクソデカハウスにいくつも存在する庭。
 星詠みの杖君やカメ君は大丈夫だろうか。

 きっと俺と同じように迷子になっているだろうから、戻ってきたら傷の舐め合いでもしよう。ぺろぺろ。

「……ん?」

 薄暗くて、クソ長い廊下を歩いていると、向こうの方に美少女の輝きを見つけた。
 見れば、角からひょっこりと幼女が顔を出している。
 カメ君が見れば発狂間違いなしだろう。

 黒い髪に、変わった髪飾りを付けた蒼い眼の幼女。
 成程、将来有望な美少女だ。

 こういう子たちがすくすく成長できるように、俺達美少女が頑張らないといけないね。

「どうしたのかな、お嬢さん」

 俺は紳士としてそう問い掛けた。
 笑顔は子供が緊張しない様に、優しく柔らかく、そして屈んで目線を合わせる。

 自分からは近づかずその場で待っていると、幼女は顔を引っ込めてしまった。
 同時に遠ざかっていく足音が聞こえる。

 さぞ名のある美少女とお見受けした!
 是非とも俺と交流をしてくれ!

 必要とあらば、憧れのお姉さんにもなる所存だ!

「あらら、恥ずかしがり屋さんかな?^^」

 俺は後を追うことにした。
 これが男ならば不審者だが、俺は美少女。

 そこにあるのは犯罪ではなくて、おねロリである。
 対戦よろしくお願いします。

「お話しようよ」

 そう言いながら俺は廊下を駆ける。
 そこそこ本気で追っているのだが、どういう訳か追いつけなかった。
 ワープでもしてるのだろうか。

 確かに、幼女の可愛さにより世界が屈折する仕組みを応用したワープ技術は開発されているが、まだ実用段階ではない筈だ。
 
 つまり、シンプルに俺の脚が遅い可能性があった。

「ま、待って。怖くないよ。お姉さんとお話しよう」

 いくら美少女と言えど、ロリを追いかけて良い時間は2分40秒と法で決まっている以上、無理は出来ない。

 そんなこんなで声を掛けると、幼女は足を止めた。

「おねえさん……?」

 不思議そうに首を傾げながら、幼女は振り返る。
 
 やっと止まってくれた。
 大分走ったので、俺は推定迷子から完全な迷子になったが問題ないだろう。

「おねえさん、女のひとなの?」

 こてんと首を傾げて問い掛ける姿は、非常に愛くるしい。
 ミステリアス美少女ではこうはいかない。

 そういう意味なら、幼女は俺にとって美少女の先輩とも言えるだろう。

「そうだよ。こんな恰好だけどね。……あ、これは内緒ね」

 俺はそう言って微笑む。

 トランスアンカーにより美少女になった俺に死角はない。
 幼女の手をにぎにぎしても無罪なのである。

「おねえさん、那滝家の人?」
「うん、そうだよ。……と言っても、少し前まではそうだったんだけど。今は、なんだろうね。わかんないや」

 破門されたので、那滝家ではない。
 ややこしいね。

 これをアイ兄さん達にヘイトが向かない様にフェクトムのメンバーに説明するのはさらに骨が折れそうである。

 俺の事を心配して暴走しそうなのが何人かいるのだ。

「私はケイ。お嬢さん、名前を教えてくれないかな?」

 そう言うと、幼女は抑揚のない声で答えた。

「カヨ」
「そっかカヨちゃんって言うんだね」

 クールロリか。
 成程……この古びた和服といい、キャラ属性も良く練られている。
 これなら、人気投票でも上位は固いだろう。

「ケイおねえさん」
「ん? どうしたの?」

 俺が屈んで目線を合わせてあげると、カヨちゃんは一歩前に踏み出して手を差し出してきた。

 こ、これは握手!?
 オデ、トモダチ……!

「もしも、私が助けて欲しいって言ったら、助けてくれる?」
「勿論」

 差し出された手と共に投げかけられた言葉に、俺は食い気味にそう答えた。
 美少女のSOSに応じないとか、そんなの人間じゃねえ!

「そっか、ありがとう」

 カヨちゃんはそう言って微笑んだ。
 俺は微笑み返して、手を伸ばす。

 そうして、カヨちゃんの白いおててをにぎにぎしようとした瞬間だった。

「っ!?」
「いてっ」

 俺とカヨちゃんの手の間で、紫電が走った。
 バチリと音を立てて、何かが弾かれた感触。
 そして、魔力が少しだけ抜けた感覚があった。

 まるで魔法を使った時のようなその感覚に内心で首を傾げながら、俺はカヨちゃんを見る。
 すると、そこには明らかにブチギレたカヨちゃんの姿があった。

「ご、ごめん! 大丈夫!?」
「……」

 カヨちゃんは答えない。
 彼女は俺をまるで仇でも見るかのように睨みつけると、そのまま再び駆け出してしまった。
 幼女を怒らせるなんて、俺は大馬鹿野郎だ!

 急いで謝らないと……!

「ま、待って!」

 俺は急いでカヨちゃんを追いかける。
 そして追いかけて追いかけて追いかけて――。

「……いない」

 脚力で普通に負けた。

 追っても追っても距離が縮まらないのである。
 という訳で、健脚カヨちゃんに敗北した俺は再び一人になってしまった。

「ふえぇ……><」

 突き当りにあった古い廊下の先には、扉が一つだけ。
 カヨちゃんがいる可能性に賭けて、俺はその扉をそっと開く。

「か、カヨちゃん、さっきはごめんね……」

 古びた扉が軋みながら開いた先、そこは誰かの部屋であった。
 長年使われていないのか生活感はないが、机や姿見、化粧台など、見るにどうやら女性の部屋のようだ。

 掃除もされていないのか、一歩踏み入れた瞬間に埃が舞う。
 俺は、明かりを探したがそれらしいものは外されて、存在しなかった。
 
「失礼します」

 長年使われていないとしてもレディの部屋。
 俺は礼をして進む。

 そして気が付いた。
 机の下に、明らかに何かありそうな金庫が置いてある。
 それも、魔法式などが刻まれたゴリゴリにロックされている金庫だ。

「これは……」

 俺の美少女センサーが告げている。
 ここに何かがあると。

 どうせ星詠みの杖君とカメ君は美少女があーだこーだ言って大した収穫もないだろうから、ここは俺が頑張らないといけないだろう。

 そして、主人としての凄さを思い知らせてあげるのだ!

「金目の物なら戻そう」

 俺は泥棒ではない。
 なので、この中にあるのが普通に金銀財宝ならお返しする。

 もしもそれが祠についての何かなら、情報を頂こう。
 今の俺はミステリアス美少女スパイわよ!

 という事で、俺は拡張領域からとある物を取り出した。

「使わせて貰うぞ、ミユメちゃん」

 それは一本のクソデカ鍵である。
 一リットルのペットボトル程のサイズの鍵は、その名も『森羅万象! ドガチャンコ』。

 ダンジョンで見つけた開かない扉に対して、魔法と物理の両方からアプローチが可能な開錠率脅威の100パーセントのスーパーアイテムである。
 なお、一度使うとわたあめみたいに消える。

 落とした時のための防犯プログラムらしい。

「いけ、森羅万象! ドガチャンコ」

 俺は鍵を金庫へと向ける。
 すると、鍵の至る所から細い触手のようなものが出てきて、金庫を開け始めた。
 気持ち悪い……。

 ミユメちゃんはたまに変な物を作る。
 この鍵も便利だがキモイので、トアちゃんとかは持ちたがらなかった。

 ちなみに鍵から触手が出てくる様を見て、クラムちゃんはなぜか考える仕草と共に俺を見ている。

 あの子はたぶんフェクトムでも指折りのムッツリさんだ。
 
「お、開いた」

 五秒程で、金庫はすんなりと開いた。
 見た目がキモくとも優秀である。

 手の中でじわぁっと消えていったが、優秀ったら優秀なのだ。

「さてさて……お、何かあるねえ」

 金庫の中には、紙の束だけがあった。

 金や宝石の類はなく、これを保存するためだけに魔法式まで使ったようである。
 つまり、めっちゃ怪しい。

「なにこの……なに?」

 難しい字が使われていて、一部読めない。
 どうやら『赫夜牟収容に対する計画案』と書かれているようだ。

 とりあえず、当たりっぽいので俺はダイブギアを使って大急ぎで紙のデータをコピーしていく。
 最新技術があれば、わざわざ本体を盗まなくても大丈夫というわけだ。

 が、見られたら普通にマズいので、急がなくてはならない。

「急げ急げー………………はい! おしまい!」

 行動は迅速に。
 この場でこれを読んで「そうか……そういうことだったのか!」とかやるとフラグになるのでやらない。

 俺はミステリアス美少女。
 馬鹿な真似はせず、安全な場所で皆で読むのだ。

「お返しします」

 俺はそっと金庫に戻す。
 そして、鍵をかけ直してヨシ! と指さし確認をした。

 魔法による施錠は出来ないけど、物理的な鍵は掛けたからヨシ!
 ずらかるぞ!

 俺は部屋を後にして、もと来た道を戻る。
 まあ、戻るというか、迷子続行なんですけどねハハッ。

 適当に曲がって進んで、また曲がって、そうして俺は少しずつだが前に進んでいた。
 まるで人生みたいだね。

 情報は手に入れたので、迷子だったとしてもチャラだろう。
 むしろ尊敬されるはずだ。

「――ケイ? なぜここに貴方が?」
「っ!? アイ兄さん……!?」

 突然声をかけられて俺は驚いてしまった。
 見れば、アイ兄さんが怪訝そうな顔で俺を見ている。

「ど、どうしたのですか?」
「それはこちらのセリフです。なぜ、旧館の方に……」

 あ、ここ旧館なんだ。
 道理で古臭いと思ったぜ。

 アイ兄さんは怪しんでいるが、俺はこの程度の事は何度も乗り越えてきたミステリアス美少女。
 けむに巻くのは得意である。

「この家にもう戻れないと思うと、何故だが妙に過去の事を思い出しまして。こうして、最後に周っていたところです」
「……そうですか」
「はい。では、俺はこれで失礼します」
「っ、待っ――」

 そう言って俺は速足でその場から離れる。
 その背後で、アイ兄さんが俺の名を呼んだのが聞こえたが、無視した。

 さっさと帰るぞ!
 この情報を持ち帰るんだ!







「なぜ旧館に一人で……」
「さっき本人が言っていたじゃないですか♥ お別れですから、名残惜しいんですよ♥」

 シヤクの言葉を聞いても、アイは納得できなかった。
 が、そんな自分を客観的に見て、アイは疲れたように息を吐く。 

「赫夜牟の事で、少し神経質になっているのかも知れませんね。ここには父様の書斎も、母様の部屋もある」

 突然破門されたケイからすれば、この家を最後に巡る理由は充分に存在するだろう。
 故に、何も疑問に思うことは無い。

「きっとそうですよ♥」
「ちなみに、貴女。私に隠し事はしていませんよね? たまに、私の困った顔が見たいとか言って大事なことを黙っていることあるじゃないですか」
「大丈夫ですよ♥ 私はアイに嘘をついたことはありません♥」
「その言葉が嘘では?」

 アイの言葉に、シヤクは笑顔で見下ろすだけだった。
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