かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

文字の大きさ
上 下
230 / 255
八章 そるしえらのなつやすみ

第225話 いれぎゅらぁ

しおりを挟む
 かつて、世界の秩序を崩壊させた災害があった。
 世界各地で同時に活性化した複数の次元深層領域とそこから生み出される怪物達。
 後にダンジョンと名付けるその穴から這い出た怪物達は人々を蹂躙し、世界を崩壊へと導こうとしていた。

 日本も例外ではない。
 本州に現れた六つのダンジョン。
 そこから生み出される怪物は、独自の原理法則に基づき、通常兵器による攻撃を物ともしなかった。

 世界の危機である状況で、わざわざ極東の小さな島国に構っていられる訳が無い。
 日本が滅びるのは時間の問題であった。

 その時である。
 とある村で神として祀られていたダンジョン主が、一人の人間と共に怪物達を殺し始めたのだ。
 六体のダンジョン主と、たった一体のダンジョン主による一ヶ月間の殺し合い。
 
 それこそが、ダンジョン時代の礎となった始まりの戦い、幻獣大戦である。

 その爪痕は百年経った今でも消えることは無い。

 かつて栄えた都市は、地の底まで抉り取られ巨大な湖になった。
 日本でも有数の山々は削られ、何もない荒野と化している。
 本土は、辺り一帯に次元深層領域の残滓が漂い、人が長期間滞在すれば怪物になってしまう死の世界へと変化した。

 地形は変わり、人類の生存圏は劇的に減少し、日本は未だ一部の土地でしか生きることを許されていない。 
 
 那滝が乗るバスが走るのは、そんな死の荒野の中心だった。
 どんな荒れ道でも走行可能であり、万が一に備えて簡易的な魔力砲を備えた特注の装甲バスは、日本において飛行機の他に唯一の長距離移動手段である。 

「元気そうで何よりだ」

 カイの言葉に、隣の席に座った青年は静かに頷いた。
 何を考えているのか分からない物静かな横顔は、過去にカイが知っているあの我儘っぷりを一切感じさせない。

 ただ、窓の外を物憂げに眺める姿は、何故だか自分よりも大人びて見えた。

「おい、ケイ。お腹減ってないか。僕、おにぎり握ってきたんだよ。食え」
「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げて、ケイはおにぎりを両手で持つと遠慮がちに食べ始めた。
 どこか他人行儀のその姿に、カイは察する。

「……大丈夫だ。もわかってくれる。そうすれば、また正式に那滝家の人間になれる。ってか、僕としてはあれだけで那滝家から追放は可哀そうだと思うんだ。だって、相手も牙塔の落ちこぼれで、爪弾きにされた奴なんだろう? なら、別にそんな奴――」
「トウラクはそんな人じゃありません」

 今まで感情をあまり露にしなかったケイだったが、確かにその時だけは怒りの表情を見せた。

 カイを睨み、そして静かに首を横に振る。

「あの人は、俺には持っていない物を持っている。気高く強く、優しい。掛け値なしに素晴らしいと言える人間です。それに」

 ケイは優しい笑みと共に言葉を続けた。

「カイ兄さんにトウラクの事を悪く言って欲しくはないです」
「……そうか、悪い」
「もしかして、まだトウラクと会ったことは無いのですか?」
「ない。御景学園の奴だろ? 用事がねえよ」
「ですが、彼は一度千界学園を訪れているはずです。その時に会っていると思ったのですが」

 ケイは不思議そうに首を傾げる。
 その姿は、やはりどこか不思議なオーラを纏っていた。

(ケイ……なんか変わったな。高校デビューって奴なのか……?)

 牙塔家の青年との因縁も想像とは違ったし、何よりも彼に対するフェクトム総合学園の人間の評価が想像以上に良かった。

 那滝家に一度帰省するというだけなのに、生徒会長はやたらと渋り、その話を聞きつけた副生徒会長や、やたら言葉に棘のある紫髪の女子生徒まで出てきたのである。

 全員が、ケイの身を案じて本気で心配していたのだ。
 アレだけ好き放題する男だったケイを、である。

(というか、なんであんなに可愛い子ばっかりなんだよ! 羨ましいなぁ! オイ!)

 少なくとも、カイが見た生徒は全員が美少女であった。
 男として、ケイに負けた気持ちになる。

 そして何よりも、その美少女達に対してライバル心のようなものがあった。
 
(僕の方がまだ可愛い……筈! こちとら家の都合でゼロ歳から美少女になること決められてんだ!)

 那滝家のしきたりにより、その半生を己の美少女化に捧げたカイにとって多くの美少女は、リング上で相対する敵に等しい。

(ケイの奴……! やっぱ一度アイ兄さんに叱ってもらうか……?)

 カイの考えなど知らないであろうケイは、おにぎりを一つ食べ終えてまた窓の外を見ている。
 何を考えているのか分からない蒼の瞳は、前の彼よりもずっと綺麗に見えた。







 ヤバいって、完全に知らないイベント始まったって!

『今までもそうじゃない?』
『はじめてがいっぱいだな、マイロード』

 呑気だね君たちは!
 いいかい? 今までは学園都市で完結していた。
 けれど今回は違うんだぞ?

 原作において、学園都市外でのイベントは牙塔家での次期当主を決めるトーナメントだけだ。
 それだってミハヤちゃんとトウラク君のイチャラブがメインだったから、牙塔家の描写なんてまともにされていないのに。
 なんだ、これは。

 那滝家って実在したんだね。バスに乗せられた辺りで実感したわ。

 というかこのバスなんだよ、ほぼ装甲車じゃねえか!

 風呂敷からミカン取り出すおばあちゃんとかが普通にこのバス乗ってるの見ると頭おかしくなりそう。
 それと、俺達が那滝家だって知った人たちの中で拝む人がいるのもやめて欲しい。
 恥ずかしいから。

『マイロード、この辺りは随分と荒れているのだな。魔力の流れが滅茶苦茶だ』
『過去に大きな争いがあったらしいからね』

 幻獣大戦ね。

 それは、原作では一ページで説明された大昔の戦いだった。
 確か、那滝家の凄いダンジョン主で他のダンジョン主を倒した、とかだった気がする。

 スピンオフで幻獣大戦の小説が出ているが、俺は買っていないのだ。
 くそ、ここにきてまとめ買いの癖が裏目に出るとは……!
 全3巻予定と聞いて、全てが出そろってから読もうと思ったのに……!

「ケイ、もうすぐ着く。準備しろ」
「はい、カイ兄さん」

 それと、問題はもう一つ。
 那滝ケイの兄こと那滝カイなのだが、この人が大問題であった。

 千界学園の生徒会に所属するエリートなお兄さんだが、本来ならここではなく牙塔家にトウラク君達と一緒にいるはずなのである。
 
 そう、何を隠そうこの人は一応トウラク君のヒロイン枠のような人物なのだ。

 男の娘ではなく、女装男子としてこの人は一部界隈から恐ろしい支持を得ている。
 全員が口をそろえて「ある方がお得」としか言わない恐ろしい界隈だ。

『つまり、この人も広義の意味での美少女……?』

 そういう事になるだろうね。 
 原作だと、ケイを倒した牙塔家の出来損ないが気になってちょっかいを掛けにいったのだ。
 そこで、ミハヤちゃんやルトラちゃんと一緒にいる所を見て、普通に男として嫉妬。
 
 嫌がらせをしようと、女装をして揶揄ってみるがトウラク君が反応せず、そこからすったもんだあってのヒロイン入りである。
 だが、正直ヒロインというよりはトウラク君の男としての悩みを聞くポジションでもあるので、あんまりヒロイン感はない。

「どうした、僕の顔を見て」
「いえ」
「……まさか、肌荒れか!? くそっ、スキンケアは怠っていないし、食生活も気を使っているのに……!」

 この人は自分の美貌に自信を持っている。
 そうして自分に絶対の自信がある姿がトウラク君には好ましく映っていたのだが、この世界では違うようだ。

 どこで狂ったのだろう。
 千界学園に行ったというので、会っているとは思ってたのだが。

『だが、おかげでこうして新たな美少女に会えたじゃないか』

 うーん、美少女判定でいいのか? 

 だが、原作ヒロイン様である以上、美少女であることに変わりはない筈だ。
 それに、魂は美少女として輝いている。

『よし。ならそんな美少女の手で握られたおにぎりを男の状態で食べた君はギルティだね。裁判長』
『まってくれ、マイロードにも更生の余地が――』

 卑劣な司法の罠にかかっちまった。

 というか、俺達は今から那滝家に行くんだぞ。
 そうなると、俺の原作知識が役に立たない。

 クソっ!

『マイロード……また見栄を張って……』

 これじゃあ、那滝家で右往左往して終わっちゃうよぉ!
 はわわ~!

 なんて言うと思ったか!

『来たわね^^』

 俺は骨の髄までミステリアス美少女になるのだ。
 その為には、過去の情報を改ざんする必要があった。

 美少女になった、ではない。
 最初から美少女で在る。

 その事実を作り出すのだ。

 と、いう訳で予定よりもずっと早いがアレを始めるぞ星詠みの杖君!

『っしゃ! やったろうねぇ!』

 これより「お前、妹だったのか!?」作戦を実行する!
 時は来た!
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...