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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ
第219話 カチカチ無敵の天使エラ
しおりを挟む指揮者とリュウコちゃんが戦うところにカッコよく乱入。
そして、天使の力をクールに使いあっという間に問題解決!
……っていう筋書だったんですけど。
『マイロード、やはりその姿に大鎌は大きすぎる。先端にお星さまのついたステッキなど、どうだろうか』
どうだろうか、じゃねえよ。
なんで俺の許可なしにロリにしてんだ。
「ね、ねえソルシエラだよね? ……そ、その……なんか縮んだ?」
「ふふっ、星の持つ顔は一つではないのよ」
「そ、そうなんだ」
空から問い掛けて来たリュウコちゃんに、俺はふわっと返答する。
が、正直苦しい。
だって幼女だもん。
なにしても駄目だもん。
小っちゃい子が頑張っているねぇ、で終わりなんだよ。
『頑張りを笑う者など無視しろ。それに、この姿は合理性の上に成り立っている』
んなわけあるか。
ロリコンスポンサーのごり押しじゃねえか。
『マイロードの持つトランスアンカーを使った。浸食を抑えるための魔法式……これ程私の力を使うのに適したものはないだろう』
……なら、お姉さん形態でも良かったんじゃないですかねぇ。
『人類に手を貸すことなど想定外なのだ。私は星詠みの杖により根底を歪められたが、天使であることに変わりはない。今は、その歪みを利用しているに過ぎないのだよマイロード。言うなれば、私は幼き命を守護るという理由でしか天使の力を行使できない』
正直に言って良いよ。
『幼き命以外は助ける価値はない。興味もない』
貴様ァ!
『怒らないといった筈だマイロード。約束は守るものというのが、常識ではないのか』
いけしゃあしゃあとロリコンがァ……。
まあいい、戦えるならこの姿でもやってやらぁ!
「ソルシエラ、貴女はこの舞台には不要です! この場で殺す!」
「あら、アドリブは苦手なのね」
俺は天使の砲撃をひらりひらりとミステリアスに避ける。
そして、敢えて振り向かずにリュウコちゃんへと言った。
「時間を稼いであげる。ソレを早く終わらせなさい」
「本当に!? ありがとう!」
リュウコちゃんが何をしようとしているのかは分からない。
何故ならこんなことは原作にはなかったからだ。
そもそも第四の天使は都市型の天使だった筈。
クローマ全体を侵食した天使が、トウラク君の偽者の幻影を作り出して……みたいな流れだったのだが。
こんなサソリ、俺のデータにはないぞ!
「ちょこまかとォ!」
「品のないステップね」
俺は天使の周りを走り回る。
この姿だと、俺は空を飛べないらしい。
圧倒的に不利すぎる。
てか、鎌が重い!
『マイロードの小さなおててには大きすぎるのだ。それに、私の力と人間の力ではつり合いが取れない。マイロード、最適化処理までもう少しかかる。すまないが愛と希望で頑張ってくれ』
実質なんもねえじゃねえかそれェ!
「これならどうかしら」
俺は砲撃を天使へと放つ。
それは確かに胴体へと直撃したが、焼け焦げた個所へと再び砂が集まりあっという間に修復してしまった。
ズルい!
『成程……模倣だけだと思っていたが侵食が本質か。マイロード、アレは貴女のいう第四の天使ではない。智天使級とは訳が違う。第五の天使、まごう事なき熾天使だ』
ゑ?
『もう、その原作知識とかいうのは捨てたほうが良いのでは?』
う、うるさい!
俺は全知なんだ!
なんでも知ってるんだ!
「その程度の砲撃で、この私が傷つくわけがないでしょう! お返しです!」
「猿真似ばかり。飽きてしまったわ」
天使の周囲に無数の魔法陣が展開され、俺へと砲撃が放たれる。
俺はその間をちょこまかと駆けまわり避けた。
避けるだけなら問題ないのだが、正直決め手がない。
カメ君のおかげで身体能力は向上し砲撃も安定して撃てるようになったが、干渉の力には制限が掛かっている。
砂ごと消し飛ばす収束砲撃も銀の鎖も今の俺は使えないのだ。
カメ君、君の力はまだ俺には適応しないのか!
あんだけカッコよく「力が欲しいか」とかいっておいて時間が掛かりすぎていると思うんだけど!
『今やっているところだ。しかし、安定させるにはまだ時間が……む、これは――』
どうしたの?
問題があるなら早く言ってね。
こっちにもミステリアス美少女をやる都合ってもんあるから。
『なぜ調律の天使が拡張領域に……? それも、衣装にまみれる形でこんなに雑に放り投げられているんだ?』
調律……?
あ、第二の天使の事?
それね、新武器で作ってもらったやつなんだ。
かっこいいでしょ。
まあ、結局この大鎌に慣れ過ぎて使う機会はないんだけどね。
『この天使の力があるならば……いけるぞマイロード、待たせたな』
お、いけるんだね?
本当だね?
新形態可能なんだね?
『任せてくれ。私は嘘をつかない。この第三の天使が貴女の力となることをここに誓おう』
そこまで仰々しいものではないんだけど……。
まあ、分かった。
それじゃあ今からわざとあの砲撃に当たりに行くからね、そこでお披露目するから。
『待て、なぜわざわざ当たるのだ。危ない事は止せマイロード!』
行きまーす。
■
天使とソルシエラの戦いは、激しさを増していた。
「あと少しで生徒会長になれる……そしたらっ」
現状、リュウコ達は聖域へのアクセス権を得るための選挙中である。
この状態のまま戦う事も覚悟していたリュウコだったが、指揮者は一人の少女が相手取っていた。
「ネームレスはどうしたのですか! まさか、やられたのか!?」
「さて、どうかしらね」
体はどういう訳か小さくなっているが、その戦闘センスは健在。
大鎌の遠心力を上手く使って移動を繰り返し、ただ一人で自分の何十倍もある巨大な天使相手に渡り合っていた。
「……凄い」
「だが、不安定だ。ワタシ様には、攻めあぐねているようにも見えるぞ」
レイはそう言ってソルシエラを見る。
回避ばかり繰り返すソルシエラは、確かに天使への攻撃を考えている風には見えなかった。
何か、待っているかのような時間稼ぎをしているかのような行動。
「もしかして、私を待っていてくれているの?」
「奴に協調性があるようには見えん」
きっぱりとそう断言するレイ。
その言葉に、リュウコは反論することができずに苦笑いするしかなかった。
ならば、果たしてソルシエラは何を待っているのだろうか。
その答えをリュウコは間もなく理解することなった。
「っ!? 危ないっ!」
今まで上手く回避を続けていたソルシエラだったが、退路を一つ、また一つと潰されていき最後には周囲を砲撃陣により囲まれてしまっていた。
「捕えた……。せめてもの情けです。華々しく散らして上げましょう!」
指揮者はそう叫ぶと、一斉に砲撃をソルシエラへと向けて放った。
回避は不可能な全方位からの砲撃に、ソルシエラは足を止める。
そして、そのまま爆炎に飲まれていった。
「ソルシエラっ!?」
立ち昇る黒煙が、あっという間に周囲を見えなくする。
煙の中聞こえるのは、指揮者の笑い声だけであった。
「ハハハハハハハ! 身の程を弁えないからです! さあ、次はお前だ渡雷リュウコ!」
喜び勇んでそう叫ぶ指揮者。
しかし、リュウコ達の視線はそこにはなかった。
ただ一点、今までソルシエラがいた場所に注がれている。
「……ねえ、これって」
「ああ、この感覚間違いないぞ」
「え、何? 若い子にしか分からない感じの奴? モスキート音的な?」
ネイだけは今一つ分からず、とりあえず煙の中へと自分の異能を行使した。
二人の会話から、煙の向こうのソルシエラが健在なのは理解できたからだ。
「――ッ!?」
異能によりソルシエラを捉えたネイは咄嗟に異能の発動を停止させた。
その顔は、真っ青になっており呼吸も荒くなっている。
「どうしたんですかネイ先生!」
「……奪われるところだった」
「え?」
「私の異能が、アレに奪われるところだった……ッ! 二人とも、アレに異能を使っちゃ駄目だ」
直感を信じてそう告げるネイを見て、二人は頷くしかない。
そんな三人の背後、飛んでいた飛行船のモニターに一瞬ノイズが走った。
「?」
妙な感覚を背後から感じて、リュウコは振り返る。
モニターの中を、巨大な影が横切った気がしたのだ。
次に異変が生じたのは、クローマにある全てのモニターであった。
ほぼ同時にノイズが走り、画面が一瞬にして深海のような場所に切り替わる。
モニターを窓として海の中を覗いているのではないかと錯覚してしまう異常な光景だった。
変わらず、モニターの中を何かが泳ぎ続けている。
それに気が付いた指揮者もまた、眉をひそめて周囲を見渡した。
「なんだ、これは……。この妙なざわつき……私の中の天使が反応している……!?」
自分の理解の及ばない所で何かが起きていることは明白だった。
指揮者は、迷わずモニターを破壊することに決める。
そして巨大な脚を動かしたその時だった。
ぴちゃんという澄んだ音と共に、自分を中心として波紋が広がっていく。
波が生まれ、反射した天使の姿が歪んで写っていた。
「水?」
まるで、地に水を満たしたかのように広がる青い世界。
その奥を、何かが泳いでいた。
「っ、なんですかこれは!」
指揮者は逃れようと、巨躯を引き摺り後ずさる。
しかし、水の中の影は変わらず向こう側を泳ぎ続けていた。
「第一術式壊除」
幼い声が聞こえる。
まるで気に入った歌でも口ずさむように可愛らしい声だ。
「第二詠唱壊離」
指揮者ではなく天使としての感覚で、これから何が起きるのか悟る。
そしてようやく、自分が恐ろしい者に目を付けられたのだと理解した。
しかし、もう遅い。
「第三機構壊放」
舞台の幕は上がってしまったのだ。
「星詠みはここに反転する」
地を満たす水の中から、何かが飛び出す。
それはあっという間に黒煙を散らし、その姿を露にした。
流線型の胴に、鋭利なヒレ。
機械的な体を持ったウミガメの怪物。
同種である指揮者には、それが何かすぐに理解できた。
「天使……!?」
人に仇なす筈の厄災の怪物は、まるで付き従うかのように一人の幼い少女の周囲を旋回する。
黒と銀色の混じったワンピースのような簡素な服を身に纏ったソルシエラは、何も持たず、空の両手を迎え入れる様に前へと差し出した。
「来て、私の愛しい星よ」
胸の中に飛び込むように、巨大なウミガメがソルシエラへと向かう。
その過程で、その四肢は外れ、甲羅は細かく分割されていった。
ワンピースの上から、ウミガメだったものが装甲となり装着されていく。
分割された甲羅の中でも取り分け強固な四つの破片が、まるで衛星のようにソルシエラの周りを周回している。
ソルシエラが少し動けば、それだけで身に纏う鎧からガチャリと重厚な音が鳴った。
「これが私の新たな輝き。あるいは、もう一つの星」
それは、姫であり騎士。
あるいは、戦場を駆ける美しい戦乙女。
ソルシエラ――鎧星形態。
普段の彼女ではたどり着くことはないだろう、最強に対する一つの解であった。
「姿が変わった所で……!」
指揮者はハッとして砲撃を再び放つ。
なぜか大鎌すら手放した今のソルシエラには、回避はおろか防御の手段すらない。
仕留めるには絶好のチャンスであった。
銀色の砲撃は、真っ直ぐにソルシエラへと向かう。
砲撃の直撃コース。
それを見てソルシエラは、顔色一つ変えずに一歩踏み出した。
瞬間、ソルシエラへと砲撃が真正面からぶつかる。
「ははは、こけおどしですか」
指揮者は笑う。
が、その耳に届いた鎧の音を聞いて息をのんだ。
「な、何でまだ生きている……!?」
砲撃に当たった筈のソルシエラ。
しかし、まるで何もされていないかのように前へとその歩みを続けていた。
「そんな攻撃では、星は傷つかない」
輝く銀の鎧と、旋回する四つの欠片。
しかし、それだけではないと指揮者と融合した天使が告げていた。
「この舞台には奏者がいないのね」
そう言って、ソルシエラは魔法陣を頭上へと展開する。
そしてその中へと手を伸ばすと、一つのボウガンを取り出した。
「そ、それもまさか――」
紫色を基調とした銀色のボウガンは、妙な存在感を放っている。
ソルシエラは魔力で作り出した矢をつがえると、指揮者へと向けて笑った。
「よければ、その役目は私が務めるわ。指揮者だけでは、成り立たないでしょう?」
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