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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ
第218話 ピカピカJK大選挙
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悲鳴と悲劇が支配する街を見下ろしながら、指揮者は感動に打ち震えていた。
「なんという悲しい舞台。今日という幸福にあふれた祭日が、ただ一人の邪知暴虐たるこの悪役によって破壊されてしまった。……許される事ではないッ! 悪は必ず打ち砕かれなければならないッ! 正義による鉄槌は、今まさに始まろうとしているッ!」
両腕を広げ、その場でグルグルと回りながら指揮者は高らかに笑う。
「……滑稽、ですわ」
「は? なんですか? もう、貴女の台詞はないのですが。役割りは終えたでしょう踏み台」
吊るされたダイヤへと近づいた指揮者は、忌々し気に吐き捨てる。
しかし、ダイヤの瞳の奥の光はいまだ消えることは無かった。
「なんとなく、貴女の心の輪郭が掴めましたわ。可哀そうに、誰も貴女の隣に居なかったのでしょう」
「ハッ、知った風な口を。悪に心情はいらない。敵にも悲しき過去なんて、寒いウザイテンポが悪い! ……でしょう? 私は、悪。そして、それを倒すのは――」
顔を近付けると、指揮者はニタリと笑った。
「英雄であるネイ様です」
「確かにあの方は英雄でした。けれど、今は先生です。貴女のくだらない妄想の通りにはなりませんわ」
「なるのです。何故なら、世界があの人を望んでいるのだから。あの人でなければ、アレには勝てない……! 早く、アレが来る前にネイ様に英雄の自覚を持ってもらわないと……!」
何かを幻視しているのか、焦燥感に駆られた様子の指揮者はそのままダイヤの元を離れると、ミユメの元へと移動する。
ミユメは依然として意識を失ったままであった。
「貴女も、早く救われることを望んでいるでしょう? 今度こそ救われて、そして姉妹揃って、ネイ様の舞台を見る。そう約束していましたよね? 私、貴方達の為に沢山の曲を作ったんです。跳ねるような陽気な曲が好きと聞きましたから。ね?」
まるで幼い子供に話しかけるような優しい声色で指揮者は語り掛ける。
その姿を見て、ダイヤは悟った。
指揮者は、とうの昔に壊れているのだ。
「ああ、そうだ。このまま眠り姫の役を続けるのも大変でしょう。だから、ここからはアドリブです。貴女を救うために、塔へと向かう英雄。その前に立ちはだかる魔物たち! 華麗に倒していく様を、一緒に楽しみましょう!」
指揮者はそう言って、ウィンドウを展開する。
そして、すぐにその眼を見開いた。
「……何ですか、これはッ!」
■
絶望に支配された街を、一陣の風が舞う。
何よりも速く、眩く、力強く。
空を駆けるソレを見て、真っ先に気が付いたのはやはりクローマの生徒達だった。
「バルティウス、もっと高くそして目立つ位置に!」
クローマ音楽院にて、最強の少女。
全校生徒から少し捻くれた愛情を一身に受ける彼女は、今空へと高く高く飛んでいく。
指揮者の暗黒領域により暗雲に覆われた空の中を、バルティウスは矢のように真っ直ぐに昇っていた。
「作戦は理解したよ。……でも本当にいいの?」
バルティウスの背にしがみついたネイは、教師としてそう問い掛ける。
ロイヤル作戦第一号、そう名付けられたそれは理にかなった最強のカウンターであった。
これならば、指揮者の野望を食い止められるだろう。
リュウコの意思を無視しているという点さえ除けば。
「大丈夫です。私、あの椅子に座ってみたかったんで。ふかふかそうだし。それに、バルティウスぬいぐるみの予算を勝手に増やせるし」
「いや別にあそこってそういう組織じゃないんだけど……」
「あー、風が急に強くなってきたなー! 何も聞こえないなー!」
大きな声で都合の悪い真実をかき消しながら、リュウコは耳をふさぐ。
そんな彼女の腰をレイがちょんちょんと突いた。
「そろそろ良いだろう。この辺りなら、よく目立つ。それにワタシ様の射程圏内だ」
「よーし」
リュウコは腕をグルグルと回し、意気揚々と口を開いた。
「それじゃあ始めようか! 龍位継承――ホルス!」
主の命により、龍はその姿を変える。
赤い鱗がより赤くなり、皮膜で覆われていた翼に深紅の羽が生え始める。
その形状はトカゲからハヤブサへと変わっていった。
「マイクよーし! いつもの可愛い笑顔よーし! 愛嬌よーし!」
リュウコはバルティウスの上でいくつものウィンドウを開く。
そして最後にカメラを見つめて、自分の頬を両手で叩いた。
「バルティウス、始めて!」
その言葉に、バルティウスが発光を始める。
それは瞬く間にクローマ中を照らし出した。
■
ソルシエラ達との戦いに疲弊しきった生徒達の頭上を突然眩い光が覆った。
戦いを忘れ、何事かとその先を見れば一匹の龍がいる。
ハヤブサのような形をしているが、それが何であるかなどクローマの生徒にとっては常識だった。
「リュウコだ……」
それは誰の言葉だっただろうか。
絶望に抗う為に必死だった人々の心に、確かな希望が生まれる。
気が付けば、全員が予感していた。
これから始まる逆転劇を。
『皆さーん! 元気に戦ってますかー! ……あ、別にこっちに声は届かないんだった』
カメラに向かって耳を向けるリュウコの姿が、突然街中のモニターへと映し出された。
「な、何やってんだリュウコ……って、今はそれどころじゃ――」
一瞬、リュウコに気を取られた生徒は思いだす。
すぐ近くにソルシエラが迫っていることを。
しかし、武器を構えて振り返った先で見たものは氷漬けにされたソルシエラであった。
『今、レイちゃんが滅茶苦茶頑張って街中全てのソルシエラを……いや、ややこしいな。うーん、そう、偽シエラ! 偽シエラを氷漬けにしています。なので、ちょっとだけ時間を下さい。一分でいいんで』
『ワタシ様は三分はいけるぞリュウコ』
『なら三分。……えー、ではでは皆に質問! ――あの指揮者とかいう奴、メッチャむかつかない!? どこの誰だか知らないけど、イキってこんなことしてさ! しかもたぶんいい歳だよ、あれ。私のプルプルお肌とは違うもん!』
モニターに写るリュウコは、いつもの雑談のような調子で言葉を紡いでいく。
あまりにも日常なその様子に、人々は気が付けば冷静さを取り戻していた。
それどころか、口元には笑みすら浮かんでいる。
『私、クローマのお祭りが好きなんだよね。何でもアリで、皆が笑顔で。本当に幸せがいっぱいで。だから、アイツはマージで許せない。あんな奴のせいで、誰かの涙は見たくないんだ。今日から五日間は、皆が笑顔になるべきハッピーの日。そして、私が人気投票で一位になる日!』
そう言うと、リュウコはビシッと指を指して言った。
『だから、皆でアイツの計画をぶっ壊してやろうぜ!』
その言葉と共に、クローマの生徒達の前にそれぞれウィンドウが立ち上がる。
絶望など忘れて、生徒達はそのウィンドウを見て呆れていた。
【わくわくっ! 可愛いリュウコちゃんの生徒会長選挙】
「なんだこれ」
「えぇ……」
「またなんかやってる」
「自己顕示欲Sランク」
「ぬいぐるみで爆死して懲りたはずじゃ……!?」
生徒達が様々な言葉を口にする。
が、全員その表情は明るいものだった。
『今、皆の前には選挙の投票ページが現れたはず。それに清き一票をお願いしたいんだ』
一人、また一人とウィンドウへと手を伸ばす。
答えなど最初から決まっているのだ。
リュウコへの信頼など、今さら言葉にする必要すらない。
『私一人じゃどーにもなんないけど、皆となら絶対にどーにかなる! だから、私の全てを託すから、皆の全てを私に頂戴!』
悲劇の舞台が、一瞬にして書き換わる。
ここから始まるのは、陳腐で、ありきたりで、脈絡も葛藤も何もない。
ただ、正義の凱歌を奏でる物語。
人はそれを英雄譚と呼んだ。
『……あ、もうダイヤ生徒会長から許可は貰ってるから! 後、ネイ先生の許可も!』
『いえーい! 夕方の舞台は17時から再開予定でーす!』
カメラに顔を近付けて、リュウコと共にネイはピースサインを作る。
完全に、いつものおちゃらけ師弟コンビの姿であった。
でも、だからこそクローマの人々は立ち上がる。
非力である者は自分にできる最大限を探し、抗う者は前を向いた。
「……ははっ、次があったら流石に人気投票はリュウコにしてやるか」
軽口を叩き、リュウコを信じ、終末のような世界へと再び臨む。
こうして、ただ一人の平凡な少女により盤面は覆されたのだ。
■
「ふざけるなぁ! エキストラが舞台に無断で上がるんじゃないッ!」
一部始終を見ていた指揮者は、怒りに我を忘れて叫んでいた。
ダイヤの冷ややかな視線に気が付くこともなく、ウィンドウに向かって喚き散らしながら指揮者は歩みを進める。
「修正が必要です。ネイ様以外が、私を倒すなどあってはならない事なのですから。……舞台に相応しくない人間はこの手で引き摺り降ろしてやりましょう!」
指揮者は壁へと手をかざす。
その瞬間、まるで砂のように壁が崩れ去り向こう側の景色が見えた。
眩く輝く暁の龍。
その姿を見て指揮者は叫ぶ。
「お前のような凡人が正義の味方をするんじゃないッ!」
指揮者の足へと、砂が集まっていく。
「殺す。ネイ様には、出来損ないの弟子はいらない。英雄は、孤高であるからこそ英雄なのです」
刻み込むようにそう告げた指揮者は、塔の外へとその身を投げる。
その瞬間、砂が彼女をあっという間に飲み込んだ。
砂は次第に集まっていき、やがて百メートルはあろうかという巨大な怪物の姿へと変化した。
サソリの様な鋏と胴、龍の形をした尾。
模倣と浸食を司る厄災――第五の天使。
その完全体が、この瞬間に顕現したのだ。
「この舞台には……修正が必要だッ」
天使となった指揮者が叫ぶ。
塔から現れた巨大な怪物の姿に、リュウコ達もまた気が付いた。
「あれが親玉かぁ。気持ち悪いな……うわ、よくみたら人の手足がギュッてなってんだ……キショ……。というか、選挙終わるまで待ってよ。まだ開封作業してるんだから」
「ワタシ様は今は戦えない。頼んだぞリュウコ」
「私もあの巨体は無理そうだなぁ。よし、頼んだリュウコ」
「えぇ……」
嫌そうにしながらリュウコはバルティウスの頭を天使へと向けた。
空を照らす暁の龍と、世界を闇に沈める混沌の怪物が相対する。
その光景は、まるでおとぎ話のようであった。
「選挙が終われば、聖域も使える。もうひと踏ん張りだね!」
「ほざくなよガキがっ!」
彼女は天使を操り、リュウコへ向けて収束砲撃を放った。
ソルシエラの技術を模倣した、星すら砕く一撃がリュウコへと迫る。
指揮者の眼には、もう邪魔者であるリュウコしか見えていない。
故に、その存在に気が付くことに遅れた。
「――これは、星の剪定」
暗雲に覆われた空が割れ、突如として星が落ちる。
それは指揮者の放った砲撃をあっけなく粉砕して、地面へと着地した。
落下地点を中心に巨大なクレーターが生み出される。
それ自体が兵器となる驚異的な質量。
まさに流星と呼ぶ他ないそれの姿を見て、リュウコと指揮者は同時に悲鳴に近い声でその名を呼んだ。
「「ソルシエラッ!?」」
砂煙と、赤く煮えたぎるマグマのようになったコンクリートの中心で、銀色の髪をなびかせる少女が一人。
「ようやく、天使本体が姿を現わしたのね。プロローグが長すぎて、待ちくたびれたわ」
「何故ソルシエラがッ……!? これはアイツが足止めする筈じゃ……!?」
驚き固まる指揮者に対して、ソルシエラは大鎌を構える。
その姿を見て、リュウコは違和感を持った。
「……ん? なんか、小っちゃい?」
以前に会った時よりも、明らかに小さい。
おそらく、レイと同じくらいだろうか。
大人の色香を醸し出していたミステリアスな少女は、なぜか幼い姿へと変わっていたのだ。
「さあ、踊りましょうか。ここからがメインステージでしょう?」
「ふざけた事をッ」
「ねえ、小さいよねあれ。私の見間違いじゃないよね?」
かくして、舞台に役者は揃った。
これから繰り広げられるのは、クローマの未来、ひいては学園都市の未来を決める戦い。
そして――。
『すまないマイロード。座標を間違えて上空に転移してしまった。転移魔法は難しいのだな』
『難しいのだな、じゃねえんだよ! というか、なんでロリシエラになってんだオイ!』
ロリコン監修のミステリアス美少女タイムである。
「なんという悲しい舞台。今日という幸福にあふれた祭日が、ただ一人の邪知暴虐たるこの悪役によって破壊されてしまった。……許される事ではないッ! 悪は必ず打ち砕かれなければならないッ! 正義による鉄槌は、今まさに始まろうとしているッ!」
両腕を広げ、その場でグルグルと回りながら指揮者は高らかに笑う。
「……滑稽、ですわ」
「は? なんですか? もう、貴女の台詞はないのですが。役割りは終えたでしょう踏み台」
吊るされたダイヤへと近づいた指揮者は、忌々し気に吐き捨てる。
しかし、ダイヤの瞳の奥の光はいまだ消えることは無かった。
「なんとなく、貴女の心の輪郭が掴めましたわ。可哀そうに、誰も貴女の隣に居なかったのでしょう」
「ハッ、知った風な口を。悪に心情はいらない。敵にも悲しき過去なんて、寒いウザイテンポが悪い! ……でしょう? 私は、悪。そして、それを倒すのは――」
顔を近付けると、指揮者はニタリと笑った。
「英雄であるネイ様です」
「確かにあの方は英雄でした。けれど、今は先生です。貴女のくだらない妄想の通りにはなりませんわ」
「なるのです。何故なら、世界があの人を望んでいるのだから。あの人でなければ、アレには勝てない……! 早く、アレが来る前にネイ様に英雄の自覚を持ってもらわないと……!」
何かを幻視しているのか、焦燥感に駆られた様子の指揮者はそのままダイヤの元を離れると、ミユメの元へと移動する。
ミユメは依然として意識を失ったままであった。
「貴女も、早く救われることを望んでいるでしょう? 今度こそ救われて、そして姉妹揃って、ネイ様の舞台を見る。そう約束していましたよね? 私、貴方達の為に沢山の曲を作ったんです。跳ねるような陽気な曲が好きと聞きましたから。ね?」
まるで幼い子供に話しかけるような優しい声色で指揮者は語り掛ける。
その姿を見て、ダイヤは悟った。
指揮者は、とうの昔に壊れているのだ。
「ああ、そうだ。このまま眠り姫の役を続けるのも大変でしょう。だから、ここからはアドリブです。貴女を救うために、塔へと向かう英雄。その前に立ちはだかる魔物たち! 華麗に倒していく様を、一緒に楽しみましょう!」
指揮者はそう言って、ウィンドウを展開する。
そして、すぐにその眼を見開いた。
「……何ですか、これはッ!」
■
絶望に支配された街を、一陣の風が舞う。
何よりも速く、眩く、力強く。
空を駆けるソレを見て、真っ先に気が付いたのはやはりクローマの生徒達だった。
「バルティウス、もっと高くそして目立つ位置に!」
クローマ音楽院にて、最強の少女。
全校生徒から少し捻くれた愛情を一身に受ける彼女は、今空へと高く高く飛んでいく。
指揮者の暗黒領域により暗雲に覆われた空の中を、バルティウスは矢のように真っ直ぐに昇っていた。
「作戦は理解したよ。……でも本当にいいの?」
バルティウスの背にしがみついたネイは、教師としてそう問い掛ける。
ロイヤル作戦第一号、そう名付けられたそれは理にかなった最強のカウンターであった。
これならば、指揮者の野望を食い止められるだろう。
リュウコの意思を無視しているという点さえ除けば。
「大丈夫です。私、あの椅子に座ってみたかったんで。ふかふかそうだし。それに、バルティウスぬいぐるみの予算を勝手に増やせるし」
「いや別にあそこってそういう組織じゃないんだけど……」
「あー、風が急に強くなってきたなー! 何も聞こえないなー!」
大きな声で都合の悪い真実をかき消しながら、リュウコは耳をふさぐ。
そんな彼女の腰をレイがちょんちょんと突いた。
「そろそろ良いだろう。この辺りなら、よく目立つ。それにワタシ様の射程圏内だ」
「よーし」
リュウコは腕をグルグルと回し、意気揚々と口を開いた。
「それじゃあ始めようか! 龍位継承――ホルス!」
主の命により、龍はその姿を変える。
赤い鱗がより赤くなり、皮膜で覆われていた翼に深紅の羽が生え始める。
その形状はトカゲからハヤブサへと変わっていった。
「マイクよーし! いつもの可愛い笑顔よーし! 愛嬌よーし!」
リュウコはバルティウスの上でいくつものウィンドウを開く。
そして最後にカメラを見つめて、自分の頬を両手で叩いた。
「バルティウス、始めて!」
その言葉に、バルティウスが発光を始める。
それは瞬く間にクローマ中を照らし出した。
■
ソルシエラ達との戦いに疲弊しきった生徒達の頭上を突然眩い光が覆った。
戦いを忘れ、何事かとその先を見れば一匹の龍がいる。
ハヤブサのような形をしているが、それが何であるかなどクローマの生徒にとっては常識だった。
「リュウコだ……」
それは誰の言葉だっただろうか。
絶望に抗う為に必死だった人々の心に、確かな希望が生まれる。
気が付けば、全員が予感していた。
これから始まる逆転劇を。
『皆さーん! 元気に戦ってますかー! ……あ、別にこっちに声は届かないんだった』
カメラに向かって耳を向けるリュウコの姿が、突然街中のモニターへと映し出された。
「な、何やってんだリュウコ……って、今はそれどころじゃ――」
一瞬、リュウコに気を取られた生徒は思いだす。
すぐ近くにソルシエラが迫っていることを。
しかし、武器を構えて振り返った先で見たものは氷漬けにされたソルシエラであった。
『今、レイちゃんが滅茶苦茶頑張って街中全てのソルシエラを……いや、ややこしいな。うーん、そう、偽シエラ! 偽シエラを氷漬けにしています。なので、ちょっとだけ時間を下さい。一分でいいんで』
『ワタシ様は三分はいけるぞリュウコ』
『なら三分。……えー、ではでは皆に質問! ――あの指揮者とかいう奴、メッチャむかつかない!? どこの誰だか知らないけど、イキってこんなことしてさ! しかもたぶんいい歳だよ、あれ。私のプルプルお肌とは違うもん!』
モニターに写るリュウコは、いつもの雑談のような調子で言葉を紡いでいく。
あまりにも日常なその様子に、人々は気が付けば冷静さを取り戻していた。
それどころか、口元には笑みすら浮かんでいる。
『私、クローマのお祭りが好きなんだよね。何でもアリで、皆が笑顔で。本当に幸せがいっぱいで。だから、アイツはマージで許せない。あんな奴のせいで、誰かの涙は見たくないんだ。今日から五日間は、皆が笑顔になるべきハッピーの日。そして、私が人気投票で一位になる日!』
そう言うと、リュウコはビシッと指を指して言った。
『だから、皆でアイツの計画をぶっ壊してやろうぜ!』
その言葉と共に、クローマの生徒達の前にそれぞれウィンドウが立ち上がる。
絶望など忘れて、生徒達はそのウィンドウを見て呆れていた。
【わくわくっ! 可愛いリュウコちゃんの生徒会長選挙】
「なんだこれ」
「えぇ……」
「またなんかやってる」
「自己顕示欲Sランク」
「ぬいぐるみで爆死して懲りたはずじゃ……!?」
生徒達が様々な言葉を口にする。
が、全員その表情は明るいものだった。
『今、皆の前には選挙の投票ページが現れたはず。それに清き一票をお願いしたいんだ』
一人、また一人とウィンドウへと手を伸ばす。
答えなど最初から決まっているのだ。
リュウコへの信頼など、今さら言葉にする必要すらない。
『私一人じゃどーにもなんないけど、皆となら絶対にどーにかなる! だから、私の全てを託すから、皆の全てを私に頂戴!』
悲劇の舞台が、一瞬にして書き換わる。
ここから始まるのは、陳腐で、ありきたりで、脈絡も葛藤も何もない。
ただ、正義の凱歌を奏でる物語。
人はそれを英雄譚と呼んだ。
『……あ、もうダイヤ生徒会長から許可は貰ってるから! 後、ネイ先生の許可も!』
『いえーい! 夕方の舞台は17時から再開予定でーす!』
カメラに顔を近付けて、リュウコと共にネイはピースサインを作る。
完全に、いつものおちゃらけ師弟コンビの姿であった。
でも、だからこそクローマの人々は立ち上がる。
非力である者は自分にできる最大限を探し、抗う者は前を向いた。
「……ははっ、次があったら流石に人気投票はリュウコにしてやるか」
軽口を叩き、リュウコを信じ、終末のような世界へと再び臨む。
こうして、ただ一人の平凡な少女により盤面は覆されたのだ。
■
「ふざけるなぁ! エキストラが舞台に無断で上がるんじゃないッ!」
一部始終を見ていた指揮者は、怒りに我を忘れて叫んでいた。
ダイヤの冷ややかな視線に気が付くこともなく、ウィンドウに向かって喚き散らしながら指揮者は歩みを進める。
「修正が必要です。ネイ様以外が、私を倒すなどあってはならない事なのですから。……舞台に相応しくない人間はこの手で引き摺り降ろしてやりましょう!」
指揮者は壁へと手をかざす。
その瞬間、まるで砂のように壁が崩れ去り向こう側の景色が見えた。
眩く輝く暁の龍。
その姿を見て指揮者は叫ぶ。
「お前のような凡人が正義の味方をするんじゃないッ!」
指揮者の足へと、砂が集まっていく。
「殺す。ネイ様には、出来損ないの弟子はいらない。英雄は、孤高であるからこそ英雄なのです」
刻み込むようにそう告げた指揮者は、塔の外へとその身を投げる。
その瞬間、砂が彼女をあっという間に飲み込んだ。
砂は次第に集まっていき、やがて百メートルはあろうかという巨大な怪物の姿へと変化した。
サソリの様な鋏と胴、龍の形をした尾。
模倣と浸食を司る厄災――第五の天使。
その完全体が、この瞬間に顕現したのだ。
「この舞台には……修正が必要だッ」
天使となった指揮者が叫ぶ。
塔から現れた巨大な怪物の姿に、リュウコ達もまた気が付いた。
「あれが親玉かぁ。気持ち悪いな……うわ、よくみたら人の手足がギュッてなってんだ……キショ……。というか、選挙終わるまで待ってよ。まだ開封作業してるんだから」
「ワタシ様は今は戦えない。頼んだぞリュウコ」
「私もあの巨体は無理そうだなぁ。よし、頼んだリュウコ」
「えぇ……」
嫌そうにしながらリュウコはバルティウスの頭を天使へと向けた。
空を照らす暁の龍と、世界を闇に沈める混沌の怪物が相対する。
その光景は、まるでおとぎ話のようであった。
「選挙が終われば、聖域も使える。もうひと踏ん張りだね!」
「ほざくなよガキがっ!」
彼女は天使を操り、リュウコへ向けて収束砲撃を放った。
ソルシエラの技術を模倣した、星すら砕く一撃がリュウコへと迫る。
指揮者の眼には、もう邪魔者であるリュウコしか見えていない。
故に、その存在に気が付くことに遅れた。
「――これは、星の剪定」
暗雲に覆われた空が割れ、突如として星が落ちる。
それは指揮者の放った砲撃をあっけなく粉砕して、地面へと着地した。
落下地点を中心に巨大なクレーターが生み出される。
それ自体が兵器となる驚異的な質量。
まさに流星と呼ぶ他ないそれの姿を見て、リュウコと指揮者は同時に悲鳴に近い声でその名を呼んだ。
「「ソルシエラッ!?」」
砂煙と、赤く煮えたぎるマグマのようになったコンクリートの中心で、銀色の髪をなびかせる少女が一人。
「ようやく、天使本体が姿を現わしたのね。プロローグが長すぎて、待ちくたびれたわ」
「何故ソルシエラがッ……!? これはアイツが足止めする筈じゃ……!?」
驚き固まる指揮者に対して、ソルシエラは大鎌を構える。
その姿を見て、リュウコは違和感を持った。
「……ん? なんか、小っちゃい?」
以前に会った時よりも、明らかに小さい。
おそらく、レイと同じくらいだろうか。
大人の色香を醸し出していたミステリアスな少女は、なぜか幼い姿へと変わっていたのだ。
「さあ、踊りましょうか。ここからがメインステージでしょう?」
「ふざけた事をッ」
「ねえ、小さいよねあれ。私の見間違いじゃないよね?」
かくして、舞台に役者は揃った。
これから繰り広げられるのは、クローマの未来、ひいては学園都市の未来を決める戦い。
そして――。
『すまないマイロード。座標を間違えて上空に転移してしまった。転移魔法は難しいのだな』
『難しいのだな、じゃねえんだよ! というか、なんでロリシエラになってんだオイ!』
ロリコン監修のミステリアス美少女タイムである。
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次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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