かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第214話 ピカピカ戦うお嬢様

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 黄金の舞台で砂が舞う。
 辺りに散らばった砂は、それだけダイヤの勝利の数を証明していた。
 
「雑兵ですわね」

 背後から襲い掛かってきたソルシエラの大鎌を腕で受け止めると、その柄を掴み握力のみでへし折る。
 そして、お返しと言わんばかりの右フック。
 砲弾と表現するのも生易しいほどの一撃で、ソルシエラはあっけなく砂となった。

 しかし、敵は一人ではない。
 振り抜いた姿勢のダイヤへと、両サイドからソルシエラが迫る。

「馬鹿の一つ覚えかしら」

 が、ダイヤはそれを見ることもなく攻撃を仰け反って回避した。
 そのまま、黄金のエネルギーを足に纏い回し蹴りで二人のソルシエラを破壊する。
 戦いと呼ぶには、一方的なそれはまるで舞台の上で舞っているようにも見えた。

 一方的な虐殺と言っても良い状況。
 しかし、ダイヤの表情は明るくない。

「……いつまでくだらない前座を続けるつもりですの? そろそろ、貴女も舞台に上がってくださいまし」
「冗談を。舞台とは、相応しい者のためのものです。私にはとてもじゃないが……」

 そう言って指揮者は首を振る。
 その顔は、愉快そうに歪んでいた。

「こんな事をしても、無駄でしてよ。私の黄金は揺るがない」
「……ふむ」

 指揮者は顔色一つ変えることなく、ダイヤを指さす。
 
「では、女王帰還の儀を始めましょうか」

 指揮者の言葉と共に、辺りに複数のモニターが展開される。
 映し出されているのは、ソルシエラの偽者に襲われている民衆の姿であった。

「っ!? 下劣なことを!」
「人々の為に怒る。いいですね。聖域使いとして加点です。まあ、その他がどうしようもないので、認めることはしませんがね」

 そう言うと、指揮者は虚空からティーセットを生み出した。
 まるで当てつけのように、戦うダイヤの前で指揮者は紅茶を飲み始める。

「あー! ここは基本的には飲食厳禁でしてよー! そんなロイヤルじゃない行動は……いや、待ってください」

 一人、二人と砂に変えながら指揮者を注意したダイヤは気が付いた。
 目の前の光景は、この黄金の庭において絶対にあり得ないからだ。

「なぜ、拡張領域が使える」
「何ででしょうね。……ははは、そのロイヤルが詰まった頭で考えてみてはいかがでしょうか」

 楽し気に笑う指揮者。
 そんな彼女を見て、ダイヤは気が付いた。

「黄金の庭が侵食されている……!?」 

 果てまで続くはずの黄金の舞台に異変が生じている。
 この聖域の主であるダイヤにはそれが理解できた。

 収縮を始め、権能の及ぶ範囲が限定されていく聖域の異変をこの時になってようやく感知したのである。

「っ、どうして今になって……!」
「もう貴女が知っても良いと思ったので、隠すことをやめたからです。聖域は、あくまでクローマの自治区に刻まれた巨大な魔法式。故に、貴女を倒さずとも聖域は奪取できる」
「ですが、核となる力は私が――ッ!?」

 目の前に飛び出してきたソルシエラが、大鎌の柄を自分へと向ける。
 その先端には砲撃の魔法陣が展開されていた。

(回避は不可能。ならばっ!)

 ダイヤは拳を握ると、敢えてその砲撃へと飛び込んでいった。
 
 放たれる砲撃に合わせて、ダイヤは拳を放つ。
 激突による凄まじい衝撃と共に、辺りの砂が舞う。

 砂塵に包み込まれた舞台が晴れる頃には、そこにはダイヤのみが立っていた。

 変わらず、常勝。
 がしかし、その顔には少しばかり疲労の色が見えた。

「なぜソルシエラを模ったか教えてあげましょう。この干渉の力ですよ。これで、クローマ聖域の魔法式へと干渉した。本物には至らなくとも、何万もいればそれは本物を超える。既に聖域の半分以上の権能を奪いました」

 指揮者はようやく立ち上がった。
 同時に、指揮者の足元から辺りがさび付き黒ずんでいく。

 まるで、聖域を蝕むように広がる闇を従えて大げさに手を広げて言葉を続けた。

「クローマの生徒会だけが面倒でした。下手に干渉すれば勘づかれかねない。貴女には、常に後手に回って貰う必要がある。だから、こうして聖域を広げた状態を作り出す必要があった。この状態だと、外の魔法式の細かな変化まで気を遣うことは出来ないでしょう?」

 黄金が光を失い、舞台が端から崩れ落ちていく。

「一度でも干渉に成功してしまえばそこからは容易い。こうしてここに来た時点で貴女の負けなのですよ、偽者の聖域使い」

 吐き捨てる言葉と共に、ダイヤの周りにさらに多くのソルシエラが現れる。
 しかし、今までのように近距離での戦闘を仕掛けてくるわけではない。

 ソルシエラ本来の戦術である、砲撃による一方的な制圧。
 その準備段階として大量の砲撃陣が展開されていた。

「……成程。聖域を奪い取るまで、異能を封じられたフリをしていた、と」
「そうですよ。貴女の聖域は、一対一においては無敵でしょうが、それだけです。そんな独りよがりの力では、誰も救えない」
「ロイヤルではない。ですが、効果的な策ですわね」

 意外にも、ダイヤは狼狽えることなくそれを受け入れた。
 そして、ウィンドウを1つ展開すると、迷いなく操作をしていく。

 今まさに砲撃が放たれようとしていてもなお、ダイヤは防御も回避もしなかった。

「……助けを呼ぶつもりでしょうが、無駄です。今、クローマの至る所に、私の作り出した天使たちがいる。誰も、貴女を助けに来ない」
「そうですか。結構な事ですわね」
「随分と淡白な反応ですが……なぜですか」

 ダイヤの態度を見て、指揮者は息を吸う。
 そして、眼を見開きながら叫んだ。

「なんで聖域使いなのに諦めた! この圧倒的に不利な状況を乗り越えてこその聖域使いだろうッ! あの人はそうだった! いつでも逆境を乗り越え、苦難を打ち砕いていった! 英雄と呼ぶに相応しい風格があったッ! だが、今のお前からは何も感じないッ! 聖域使いを名乗るならッ、最後まで抗って見せろッ! …………という訳で、私の正しさの証明とさせて頂きましょう」

 頭を掻きむしりながら叫んだかと思えば、次の瞬間には冷静になり指揮者はダイヤを指さす。

「撃て」

 その言葉と共に、一斉にソルシエラ達が砲撃を放った。
 銀色の光線が、全方向からダイヤへと向かう。

 それを横眼で見たダイヤは変わることなくウィンドウ操作し、やがて閉じた。

「……やはり私のロイヤルは正しかった」

 誰にも聞こえない小さな呟きと共に、光線が当たる間近で拳を握る。
 そして、その拳を――自身の胸へと叩きつけた。

「ッ!」

 黄金のエネルギーが全身を包み、光線を一瞬にして全て跳ね返す。

 異能無効化の波動を自身を起点として放つ、ダイヤ唯一の広範囲攻撃だ。
 黄金の庭が不安定な今の状態ですら、ソルシエラ達の百を超える砲撃を無効化し、そのまま数十体をまとめて砂へと還す。

「……っ」

 強力な技ではあるが、代償は大きかった。

 舞台の中心にいるダイヤは、片膝をついて浅く呼吸を繰り返している。
 黄金の庭は崩壊を早め、辺りの景色は元に戻ろうとしていた。

「成程……残りの聖域の力を自身の中に閉じ込めましたか。これなら確かに手出しは出来ない――とでも思いましたか?」

 再びダイヤの周りにソルシエラ達が現れる。
 彼女達は、立ち上がろうとしたダイヤを銀の鎖で絡めとり、宙へと吊り上げていく。

 銀色の鎖が怪しげな光を放ち始めると、ダイヤの表情は次第に苦悶に染め上げられていった。

「人間の閉じた次元深層領域への干渉は、既に学者がアプローチの仕方を確立していたのですよぉ! 哀れですね、紛い物。さて、ではこれを見ている愚かな民衆にも、教えてあげましょうか」

 指揮者は吊り上げられたダイヤと、眠ったままのミユメの前で両手を広げる。
 それは、まるで舞台の悪役のように分かりやすく邪悪な動作であった。

「ここに聖域使いは倒れました。クローマは、私の暗黒領域に沈み、人々は死に絶える。……もしもそれに抗うならば、歓迎しましょう。私は、英雄の誕生を拒まない」

 クローマ全体への宣戦布告。
 こうして、クローマの歴史上最も大きな事件は幕を上げたのだった。


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