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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第213話 ニョキニョキ登場悪の塔

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 お祭りだー!
 わいわいわーい!

『はっはっは、はしゃぎすぎて転ぶんじゃないぞマイロード。だが案ずるな。もしも転んでもマイロードが好きなかめさん絆創膏を貼ってあげよう』

 助けてください。
 ずっとカメ君がこんな感じなんです。

 星詠みの杖君がいなくなった結果、変態同士の対消滅効果が消え失せ、ロリコンパワーが脳内に溢れている。
 ずっと一方的に俺をロリ扱いしてくる呪詛みてえなのが脳内に流れて困っちゃうよぉ><

「では、私達は予定通りに南エリアの警備となる。ケイ、ヒカリ、行くぞ」
「はい!」
「はい」

 俺達三人の役目は、偽シエラ警戒の見回りである。
 今更開始日をずらすことなどできるわけもなく、Sランクに警備を依頼する形でなんとか安全を確保しようとしたのだ。

 東はリュウコちゃん、北は六波羅さん、西はタタリちゃんで南はミズヒ先輩。
 そして中央はクローマの生徒会長と完璧な布陣である。

 ここまで完璧な警備だと、ソルシエラでも攻め入るのは難しいかもしれない。

「ああ、言うのを忘れていたが、欲しい物や食べたいものがあれば遠慮なく言うといい。ダイヤ生徒会長から、このロイヤルカードを貰った」

 そう言って、ミズヒ先輩は一枚のやたらと輝くカードを俺達に見せてきた。
 カードの中ではロイヤルな恰好のダイヤ生徒会長が写っている。

「これを出すと、全ての店が無料になるらしい」
「食べ放題ってことですか!?」
「た、食べる以外にも使えると思うよ」

 俺はそれとなく食べない方向に誘導する。
 ブレーキ役のクラムちゃんがいないので、ヒカリちゃんはその元気っぷりを存分に発揮していた。

 俺とミズヒ先輩はついていくのでやっとである。

「クラム達も早く来ると良いですね!」
「昼過ぎには合流する予定だ。……後は、ミユメだけなのだが」
「まだ連絡返ってきませんね。寝ているのでしょうか」
「ああ。昨日の夜遅くまでかかったようだからな。無理矢理起こす訳にはいかないだろう」

 こういう時、ヒカリちゃんと一緒にはしゃいでいる印象なので、少しだけ寂しい。
 クソ、俺が元気系娘を売りにしていたら……!

『何も今からでも遅くはないぞマイロード。そして、出来れば私の事をパパかお父さんと』

 お父さんあっち行ってて。

『………………すまない』

 いやごめんて。
 そんなに傷つくと思ってなかったんだって。
 ほんの冗談じゃん?

『冗談で人を傷つけるような子になってはいけないよ。誰かを守り、誰かのために怒れる子になるんだ』

 信じられるか?
 これが人類を滅ぼそうとした奴の言葉だぜ?

「それにしても人がかなり多いですね! あ、行列できてますよあそこのたこ焼き! 行きましょう!」
「ヒカリちゃん、そっちはルートじゃないよ」
「あっ、そうでした。さっそく本来の任務を忘れるところでした……!」 
「ではルート上のたこ焼きはどうだろうか。もう少し歩くとあるぞ」
「本当ですか! 行きましょう!」

 ヒカリちゃんは、太陽の様に明るい笑顔で駆けていく。
 お祭りで楽し気な人々に、心地の良い喧騒。

 厄災など忘れてしまうほどに、平和な光景である。

「……いつか、フェクトムもこうなるといいな」
「はい。俺達の手で、必ず」

 ミズヒ先輩はいつもこうしてフェクトムのことを考えている。
 トアちゃんやミロク先輩を含め、三人は特に思い入れの強い事だろう。

「帰ったら、ミロクに祭の提案でもしてみるか」
「うちの特色があるのが良いですね」
「ふむ……なら私達と挑戦者の戦いの祭にするか。フェクトムは腕に覚えのある者が多い」
「一旦ミロク先輩と話し合いましょう。うん、マジで」

 ミズヒ先輩だけに任せると、学園都市最強トーナメントが出来ちゃいそうなので怖い。

 そうなったらこの学園にはゴリゴリマッチョの探索者しか来なくなっちゃう。
 せっかくのお祭りなら可愛い子がキャッキャしているのが良い。

『ならぷかぷかカメさん祭りはどうだろう。フェクトム内を期間中は可愛いカメさんが沢山泳ぐ祭だ。小さい子は乗ってもいい』

 ロリコンばらまき祭りの間違いだろ。

『神輿は僭越ながら私が務める。上に乗るのは当然、マイロードだ。フワフワお姫様衣装を着るといい。去年のバースデーに買ってあげたやつだ』

 コイツやば……。
 相変わらず、星詠みの杖君とはまた違った狂い方をしてるねぇ。
 どうして存在しない過去の話ばっかりするんだろう。

「ほらほら、2人も早く来てくださーい」

 笑顔で手をブンブンと振るヒカリちゃん。
 そんな彼女を、微笑ましそうに見る道行く人。

 俺達もそんな光景を見て、思わず頬を緩めてしまう。

「また、大食いツアーになりそうですね」
「ははは。任務よりも辛そうだ」

 軽口を言い合いながら、俺達はゆったりとした足取りでヒカリちゃんの元へと向かった。

『――マイロード、敵性反応を確認した』

 俺とミズヒ先輩の足が同時に止まる。
 Sランクとしての本能と、天使からの警告がほぼ同時に機能したのだ。

「ミズヒ先輩」
「ああ」

 ミズヒ先輩は弾かれたように振り返る。
 するとそこには、ソルシエラの姿があった。

 人々は、何かの演出なのかと勘違いし逃げる素振りを見せない。
 偽シエラは、そんな彼等へと砲撃の魔法陣を展開した。
 
 同時、ミズヒ先輩が告げる。

「第二戦術」
「わかりました。ヒカリちゃん! 第二!」

 振り返ることなくそう言って、俺は駆け出す。
 人混みの中を直線的に移動するのは不可能に近い。

 しかし、ここにはその前提を覆す存在が二人もいた。

「第二、わかりました!」

 背後から聞こえたかと思えば、声は俺を通り越し金色の光となって一直線に頭上を通り過ぎていく。
 光翼をジェットのように噴射して、一直線に進むヒカリちゃん。

 が、それでは偽シエラの砲撃を止めるには間に合わない。

 騒めく人々へと砲撃が放たれる。
 同時に悲鳴が上がり、ようやく逃げようとするが避けられるわけがなかった。

 そんな人々と砲撃の間に、焔の壁が現れる。
 魔力を根本から焼却する無敵の防壁が、砲撃を受け止め次々と焼却していった。

 そして、俺の出番は、ここからである。

「ケイ頼んだ」

 俺の視界が一瞬、焔で包まれた。

 突き進むヒカリちゃんは偽シエラ本体の処理、ミズヒ先輩が焔の壁での人々の安全の確保。
 残った俺の役割りは勝利を完全なものにすることである。

「ドンピシャですミズヒ先輩」

 視界が開けた瞬間、俺の目の前にあったのは偽シエラの背中であった。
 距離の焼却による、転移魔法とは違う瞬間移動。

 がら空きの背中へと、俺は短刀を顕現させて突き出す。
 短刀を這うように巻き付いた焔が、干渉の壁を焼却。

 俺の刃は容易く偽シエラの背中へと突き刺さった。

「ヒカリちゃん!」

 麻痺して動きが止まった偽シエラを確認して、俺は名を呼ぶ。
 間もなく、眩い光が偽シエラの前に現れた。

「シャイニングゥ! パーンチ!」

 叫びと共に、右手に光翼を巻きつけたヒカリちゃんが思いきり振りかぶった拳を放つ。
 既に動きを制限された偽シエラになす術はない。

 真正面からヒカリちゃんの拳を受けた偽シエラは、そのまま砂となり弾けて消えた。

 現れてから三秒の間の出来事である。
 人々の安全の確保、逃走の阻止、戦いの被害を最小限に抑えるための一撃必殺。

 その全てを兼ね備えた戦い方を、俺達三人の異能を元に生み出した今日限りの戦術であった。
 
「びくとりー!」
「ヒカリちゃん、お疲れ様」

 周りの人がまだ状況が呑み込めていない中、ヒカリちゃんがピースサインを空に掲げる。
 
 まさか昼前に偽シエラが出現するとは思わなかったので驚きである。

「ケイ、ヒカリ、無事か」
「はい! ナイスな戦術でした!」
「怪我人もいません。とりあえず、クローマ生徒会に報告しましょう」

 俺の言葉にホッとしたミズヒ先輩が頷く。

 そうだ。
 あれが偽者だって事も皆に教えないと。
 ネットで、ソルシエラが悪とか言われたら嫌だしな。

 カメ君も教えてくれてありがとうね。
 俺だけなら気付くの遅れていたわ。

『礼には及ばない、マイロード。よくやった……と、言いたいところだがここからだ』

 え?
 それってどういう――。

「っ!?」
「なんだ、地震か?」
「揺れてますよぉ!」

 突然、地面が激しい音と共に揺れる。
 海上都市の上に作られた学園自治区内で地震などある訳がない。
 
『敵性反応、増え続けているぞ。ここからが本番だマイロード。星詠みの杖を呼び戻せ』

 カメ君の警告に、俺はまともに返事をすることができなかった。
 
「な、んだアレ……」

 遥か先の中央区。
 そこにここからでも見える程に大きな塔が今まさに生えてきていた。

 同時に、街中にあるいくつものモニターや、飛行船のモニターの映像が切り替わる。
 そこには、黄金の世界で戦うダイヤ生徒会長の姿があった。

「生徒会長!? ミズヒ先輩、何かがおかしいですよ!」
「ピンチってやつですね!」
「慌てるな。こうなることも想定して、ダイヤ生徒会長は私達を雇ったんだ」

 慌てふためく人々の悲鳴と、次々と姿を現す偽シエラ。

 一瞬で阿鼻叫喚に変わった世界で、映像の向こうから確かに声が聞こえた。

『では、女王帰還の儀を始めましょうか』
 

 
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