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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ
第212話 ルンルンお清楚顔合わせ
しおりを挟む「――ああ、来たようですね。出来損ないの聖域使い」
薄暗いその場所で、指揮者は一人椅子に座りダイヤを待ち構えていた。
廃棄された劇場だろうか。
手入れがされていないステージや、所々が破れた幕。
客席と思しき場所は、床が剥げ、いくつもの配線が無理矢理通されていた。
「ロイヤルではない場所ですわね。端的に言って、クソですわ」
「別にお前に理解してもらう必要はありません。ただ、テストをしようと思いましてね。簡単な事です。勝つことができれば、貴女を聖域使いと認めましょう」
「御託は結構。全てぶん殴って片付けますわ。そして、その子も救ってみせましょう」
ステージ上に作られた祭壇を指さしながら、ダイヤは高らかにそう宣言した。
罠があることを前提で、踏み込んだ敵地の真ん中。
しかし、その笑みからは勝利の確信が見えた。
「仮初の玉座に座る青二才風情が……」
「仮初? 私は正当な後継者ですわ。ネイ先生から続く聖域使いの技を見せてご覧に入れましょう」
そう言うと、ダイヤは拳を握る。
彼女にとって、指揮者の正体も目的も優先度は高くない。
なぜならば、全てをぶっ飛ばした後でもそれは知ることができるからである。
「聖域解放」
拳に込められた黄金のエネルギーが、床へと叩きつけられる。
その瞬間、ダイヤを起点として黄金の波紋が広がった。
波打つように世界を書き換えるロイヤル。
ソレはやがて壁を作り、空を生み出し、寂れたはずの劇場の中に豪華絢爛な大劇場を作り出して見せたのだ。
何処からともなく聞こえる万雷の喝采と、花吹雪。
彼女を照らすいくつものスポットライトに、眼が眩むようなシャンデリア。
壁に刻まれた装飾までもが黄金。
即ち――ロイヤル。
恐ろしいまでに贅沢の限りを尽くしたその場所こそ、今代の聖域である。
「これが、わたくしの黄金の庭。これこそが、ロイヤル!」
拳に黄金のガントレットが装着され、何処からともなく勝利を予感させるファンファーレが鳴り響いた。
「さ、始めましょうか。一発KOは無しでお願いしますわよ?」
「……俗物が。あの方はこんな下品な聖域ではなかった」
黄金の世界で、指揮者は顔を顰める。
そして、憎々し気にダイヤを指さした。
「行きなさい。そして、証明するのです」
指揮者の呼び掛けに応えるようにその場に銀色の風が舞う。
大鎌を構えるその姿は、間違いなくソルシエラであった。
それも、漆黒の衣装を纏う強化形態。
かつて、六波羅と激しい戦を繰り広げた過去を持つその姿に、ダイヤは臆さず拳を向けた。
「相手に不足はないですわね! 丁度、サンドバッグを切らしていた所でしたの!」
試合開始のゴングは必要ない。
既に、戦いは始まっているのだから。
「ッ!」
凄まじい脚力により、空気が弾ける音が響き渡る。
と、次の瞬間にはダイヤはソルシエラの目の前にいた。
短距離であれば、瞬間移動よりも速い踏み込みで、ダイヤは懐へと潜り込む。
そして――。
「顔は遠慮してあげますわ。偽者であっても、美しい顔を殴る趣味はありませんの」
腹部への鋭く重いボディブロー。
まるでショットガンを撃ったかのような音と共に、ソルシエラの体が宙に浮く。
そして、砂となり空中で弾けた。
一撃。
必殺の拳が瞬きの間に全てを終わらせる。
舞う砂の中で、ダイヤは指揮者を見て告げた。
「わたくしの黄金の庭は、あらゆる異能を無効化します。聖遺物だろうが、魔法式だろうが関係なくゼロにする。この場では唯一拳のみが真実。……貴女の拳に、ロイヤルはありますの?」
「ロイヤルなどとふざけた世迷い事を……」
自身の駒が一体やられたというのに、指揮者は変わらず冷静だった。
それどころか、近くの黄金の椅子に腰を下ろす。
「独りよがりの拳に何ができる。誰が救える。あの方とは違い、やはりその聖域は駄目ですね。評価に値しません」
「負け犬の遠吠えにしては随分と捻くれていますわね。次は貴女がリングに上がりなさい」
「嫌ですよ。そんな野蛮な事」
その言葉と共に、ダイヤの周囲に大量の魔法陣が浮かび上がる。
そして中からソルシエラ達が姿を現わした。
彼女達が通り過ぎた瞬間、効力を失った転移魔法陣が破壊される。
同時に、ソルシエラ達はこの場で干渉や収束砲撃無しの試合を強いられることになったのだ。
「何人来ようと同じ事ですわ。ここからがロイヤルでしてよ」
「行け」
指揮者の号令で、一斉にソルシエラが飛び掛かった。
■
一般開放前だというのに、その場所は熱気に包まれていた。
爛々と輝く眼は、まるで獣のよう。
しかし、無駄のないその動作により、会場内には次々と本の山が出来上がっていく。
その他、ポスターやアクスタetc.……
ヒノツチ文化大祭前夜祭より解放されるクローマ第二ドーム。
この学園の全てのコンテンツが集まる約束の地であった。
「――ふむ、こんな所か」
自分に割り当てられたエリア内で、完璧な設営を終えた星詠みの杖は、それを見て満足げに頷く。
そして、支援サイトの稼ぎで入手したタブレット端末を使い、写真を撮った。
(設営完了しました……っと)
最先端の兵器は、呟きもこまめに行うようだ。
「あの、★ヨミさんですか?」
「ん?」
振り返れば、そこには帽子を深くかぶった少女がいた。
星詠みの杖は、すぐに美少女であると判定を下す。
既に主と思考回路が似てきていた。
「アタシです。チッチー六夢です」
「おお! チッチー六夢さん! こうして会うのは初めましてだねぇ^^」
「そ、そうですね」
差し出された手をチッチー六夢はおずおずと握る。
どこかこちらに遠慮しているようにも見えた。
「ふむ、どうかしたのかな。こうして誰かと会うのは初めてなので、不手際があれば教えて欲しい」
「い、いえ! ただ、その思っていたよりも可愛いなって思って。……アタシ、★ヨミさんって男の人かと思っていたので」
「ははは、成程ねぇ。私は見ての通り何処にでもいる美少女だよ」
そう言って星詠みの杖は得意げにその場でひらりと回って見せる。
主直伝の美少女に見せる角度と笑み、そして服の靡き方。
演算能力をフルで使用して、星詠みの杖はお清楚美少女のCGをその場に顕現していた。
周りで設営をしていた生徒達の手が、一瞬止まる程に可憐な姿。
チッチー六夢もまたその姿に見惚れて、口をポカンと開けた。
(ふふふ、どうだい。相棒とは別ベクトルのお清楚美少女は。……というか、この子どこかで見た気がするねぇ)
星詠みの杖は記憶領域を探ろうとする。
が、それよりも先にチッチー六夢が声を上げた。
「あ、あの! ど、どうやったらそんなに可愛くなれるんですか?」
「え? ……え?」
今までにない反応に、星詠みの杖は戸惑う。
脳を焼くことから始まる攻めの美少女は既にソルシエラ塾でやったのだが、こうして対等な立場の友人に迫られた場合の対処法を星詠みの杖は習っていない。
(キスで黙らせる……? いや、初対面でそれは駄目だねぇ。相棒にするのとは訳が違うし)
星詠みの杖は、主とは違い分別のつくまともなデモンズギアであった。
うんうんと唸り、星詠みの杖は答えを考える。
そして、自身の中にある万を超える美少女ゲーの中から、それらしい回答をサルベージした。
「特別なことは何もしていないよ。強いて言えば恋……かな^^」
「恋……!」
「そうだよ。君だって、私から見れば随分と可愛く見えるよ。君も恋をしているのだろう」
「はっ、そそそ、そんなっ」
「隠さなくてもいいさ。私と君は同じ志を持つ者。いわば、同志だ」
そう言って、星詠みの杖はチッチー六夢に近づく。
そして、その頭を撫でて微笑んだ。
「互いに、恋が実ると良いね」
「……はい!」
(と言っても、私は既にいつでもぐちゃトロに出来るけどねぇ! あの子が寝ている間に■■にして■■■■■■をして、それから■■■■で■■――)
あまりにも恐ろしい邪悪な思考とは裏腹に、春の木漏れ日のような笑みを浮かべる星詠みの杖。
そんな彼女に勇気をもらったのか、チッチー六夢は強い意志を感じさせる光を瞳に宿していた。
「そうだ……! あの人が振り向くまで頑張るぞ……! あんな三下デモンズギアなんかに負けるもんか……!」
「ん?」
独り言をブツブツと呟くチッチー六夢を見て、ようやく星詠みの杖は彼女の正体に気が付いた。
(あ、チッチー六夢さんって騎双学園の副風紀委員長か。会うのは、プロフェッサーをしばき倒しにいった時以来だねぇ)
チッチー六夢の衝撃の正体。
それは、騎双学園の風紀委員会の№2である叉上チアキであった。
しかし、例え正体を知っても、星詠みの杖はニコニコするだけで名を口にしない。
マナーはしっかり守るデモンズギアの鑑だ。
「あっ、そう言えば……これどうぞ!」
そう言って、チッチー六夢から一冊の本が差し出される。
星詠みの杖はハッとして、自分もまた己の心血を注いで描き上げた一冊を差し出した。
「どうぞ^^」
欲望と欲望がトレードされる。
星詠みの杖は、チッチー六夢から受け取った本を興味深そうに見つめた。
(ふむ……六波羅×夢主か。このジャンルの第一線を走り続けているだけの事はある。表紙だけでも、熱意と愛が伝わってくるねぇ)
やや少女漫画チックになった六波羅とどことなくチッチー六夢に似た美少女との甘い恋の話のようだ。
普段、自分からは手に取らないジャンルを見て、星詠みの杖は存外興味津々である。
(男体化ソルシエラ! そういうのもあるのか)
インスピレーションを受けた星詠みの杖の回路に電流が走る。
主がいれば、一言突っ込みが入ったであろう。
「ありがとう。とても良い刺激になりそうだよ^^」
「アタシもです。この絵、勉強になります。そ、その……やっぱりかなりエッチなんですね」
「そうかな? 大分抑えたのだが」
顔を赤らめて星詠みの杖作の本をぱらぱらと捲るチッチー六夢。
星詠みの杖にとっては健全本でも、一般人からすれば違うようだった。
チッチー六夢はそのまま顔を赤くしつつも本を読んでいたのが、思いだしたかのように顔を上げる。
「こ、こうしちゃいられない! もうすぐ始まるから戻らなきゃ!」
「確かにそんな時間か。では、チッチー六夢さん、ご武運を」
「はい! ……あ、そうだ。いつか、一緒に本を出しましょう」
「おお! いいねぇ!」
お互いに満面の笑みで頷き合う美少女二人。
彼女達はまだ知らない。
来年のヒノツチ文化大祭で、群を抜いた売り上げで話題をかっさらう『六波羅×夢主×ソルシエラ』の三角関係本を作り出すことを。
そしてそれがあろうことかヒノツチ文化大祭最優秀賞に輝き、本人たちにそれはそれは怒られることを。
今の二人は、無邪気な夢想家でしかなかった。
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