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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第206話 コソコソ捕捉御曹司

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 キャッキャ!
 
『キャッキャ!』
『それは一体なんだ』

 現状に歓喜しているのだよ。
 今の俺達は美少女達が集まって、ある種の百合園を形成している。

 ミユメちゃんとネイさんは仲良くなったし、リュウコちゃんとミズヒ先輩、そしてヒカリちゃんもガールズトークで盛り上がっていた。

 ここにとてつもないエネルギーを感じるだろ……!
 今の俺なら、ラスボス一歩手前ぐらいなら殺せる自信があるぞ!

『おぉ、相棒の魔力の高まりを感じるよ。素晴らしい、高純度かつ大量の魔力だ』
『なぜこれで魔力が……? いや、実際に魔力の増加を確認したが……相変わらず分からない……』

 美少女を前に不可能は存在しないからだよ。

『そうか』
『思考を放棄したねぇ』

 いずれ、君にも理解してほしい所だ。
 
 そうだ、双星じゃなくて三人でやる? 
 三人のソルシエラみたいな感じでさ。

『残念ながら私と天使は相性が悪い。干渉しあって互いの力を発揮できないだろう』
『そうだ。あくまで我々は相反する存在。こうして同居していること自体が奇跡に等しい』
『あと双星形態は私と君の愛の結晶だ。わかるかい? わ・た・し・と・き・み・の!』
『圧が凄い』

 圧が凄い。
 
 ごめんてそんな怒んなし。

『怒ってないよ^^ 。ただ、デモンズギアと天使の力は同時には使えないと言いたかったんだ』

 確かに、原作でもトウラク君は天使の力は使っていなかった。
 デモンズギアと天使の能力を引き出した三位一体形態の計画は残念ながら白紙のようだ。

『マイロード、私は貴女を見守るだけで充分だ。いつか、貴女を通して美少女を完全に理解できるだろう。それまではどうか無知を許してくれ』

 なんて殊勝な心がけだろうか。
 これが人類を滅ぼそうとしていたのだから驚きである。

『それと、前から訂正したかったのだが滅ぼすつもりはない。あくまで乗り越える試練として降臨しているつもりだ。そこに悪意はない。そうだな……仕事で滅ぼしているだけ、と言えば分かりやすいだろうか』

 こっちからすれば変わらねえんだよ!
 おかげで世界中の美少女が迷惑被ってんだぞ!

「ケイ、これからどうするっすか?」
「そうだな……聖域については分かったし、時間的には……お昼ご飯?」

 クレープを食べて、聖域についてネイさんから色々と教えて貰えた美少女一行は、完全な自由時間を手にしていた。

 対偽シエラの夜間警備までまだまだ時間があるし、夜に向けて休憩をとっても良い。
 が、せっかくなら皆と楽しく遊びたい。
 そんなお年頃なのである。

「お昼……まだ食べるの? クレープを食べて私はまだお腹パンパンなんだけど……」

 年長者のネイさんはそう言って顔を顰めた。
 ミユメちゃんとずっと一緒にいるけれど、この人仕事は良いのだろうか?

「私は食べれるっすよ。というかお腹が空いたっす」
「別に私はそこまでではないな。モヤシ時代に比べれば十分すぎる食事量だ」
「あっ、ハンバーグ食べたいです!」

 ミユメちゃんとヒカリちゃんは食べる気満々である。
 対して、俺とミズヒ先輩はもうお腹に余裕はなかった。

「私もいいかなぁ。これ以上食べると太るし……うん」

 そう言ってリュウコちゃんは申し訳なさそうに手を上げる。
 ふむ、意見が分かれてしまったな。

 こういう時はどうするべきだと思う?

『身体を二つに分けて両方の意見を叶える』

 最初に出る回答じゃないだろ。

『全員ロリにしてポカポカお昼寝タイム』

 二番目なら好きな事を言っていいルールでもねえよ。

「あ、じゃあ私がミユメちゃんとヒカリちゃんを連れてレストランにでも行こうか? 丁度、お酒が飲める場所を探してたし」

 これだよ変態共、これこそが正しい回答だ。

 常に全員で纏まって行動する必要はない。
 後でまた合流すれば良いのだ。

「じゃあ、それでいきましょうか」

 ネイさんの提案に、反対する者はいなかった。
 特に、食べる組は嬉しそうである。

 トアちゃん、後でいっぱい食べようね……!

『トアに食べさせるために苦手な料理を必死に練習するソルシエラ概念!? ……普段は栄養補給の目的だけで食事を行っていた彼女だが、いつしかトアの笑顔が見たいと密かに練習を始める。戦闘は得意な彼女だが、料理となれば話は別。味や見栄えというものを今まで気にしてこなかったソルシエラが最初に作った料理はあまりにも不格好で味もたいして良くない。それでも美味しいと食べてくれたトアを見て、さらに美味しい料理を作ろうと決意するんだねぇ^^』
『急に情報の洪水が発生して驚いたぞ』

 この瞬発力こそ『★ヨミ@前夜祭初参加』さんの真骨頂だよ。
 一つの発言や光景からシナリオを作り出す天才なんだ。

『マイロード、貴女が妄想の対象だがそれでも良いのか?』

 ? 
 誉れ高い事では?

『成程、まともなのは私だけのようだ』

 どの口が言ってんだ。

「ハンバーグの美味しいお店ありますか!」
「あるよー。しかもお酒も美味しい。うん、なんかテンション上がってきたかも。……あ、リュウコちゃんこれはコガレ先生に内緒ね」
「えぇ……」

 何か言いたげなリュウコちゃんへとそっと近づいたネイさんは、その掌に何かを握らせた。
 ソルシエラの超人的な視力が、その正体をすぐに見破る。

 それは、万札数枚であった。

 教師が生徒を買収しただと……!?

「し、仕方ないですねぇ。いつもお世話になっている師匠の頼みとあらば、本当に仕方がないですが、見逃がしましょう!」
「ありがとう。やっぱり持つべきものは理解ある弟子だね!」

 ネイさんとリュウコちゃんはそれはそれはよく似た笑顔で頷き合った。

「それじゃ、出発しよう。可愛い生徒さんたち、私に付いてこーい!」
「はいっす!」
「わーい!」

 もう酔ってない?
 元気な酔っ払いの後ろをミユメちゃんとヒカリちゃんが嬉しそうに付いていく。
 それを見送った訳だが、俺達三人はどうしようか。

「で、何するの。……あ、ちょっと待ってねファンクラブにミズヒちゃんとの仲良しアピールしとかなきゃ。写真と、嘘三割の出来事報告をして――」

 そう言ってリュウコちゃんは慣れた様子で作業を始めた。
 なんでこんな時だけスムーズなんだろう……。

「ケイ、私もああやった方が良いのだろうか」
「いいえ。ミズヒ先輩はそのままで良いです。こういうのは向き不向きがありますから……」
「だが、苦手なままで放っておくのは性に合わない。リュウコ、私にも教えてくれ」
「お、いいね。一緒に万バズしようぜ!」

 よりによって一番まともに駄目な人間を手本にし始めたミズヒ先輩を止めることなど俺には出来なかった。

 その眼が、キラキラと輝いていたからである。
 リュウコちゃんはSランクの先輩。
 そんな先輩が行っている事はなんでもカッコよく見えるのだろう。

「いい、大事なのは図太さと勇気。そして退かない心だよ」
「成程……!」

 大体それ系統一緒じゃない?

「あの、リュウコちゃん程々にね……」
「大丈夫だよ、私に任せてって」

 程々って言ってんだろ。

 さて、手持ち無沙汰になってしまった俺一人、何をするべきだろうか。

『お昼寝』
『楽しい写真をクラムに送り、挑発。そして夜は――』

 君たちに相談した俺がバカだった。

 こうなったら、新たなる美少女を求めて軽く辺りを散策でも――ッ! この気配はッ!

『え、何? 何か始まった?』

 俺にはわかるぞ。
 この気配、この張りつめた空気……ッ!
 性癖ぶち壊しタイムが近づいているッ!

「……ミズヒ先輩、ちょっと俺自販機行ってきます」
「ああ、わかった」
「あ、じゃあついでに私にシャインマスカットジュース買ってきてー」

 なぜか流れるようにパシリにされた。
 が、今はどうでもいい。

「……どこだ」

 俺は周囲を見渡す。
 溢れんばかりの人混み。
 
 しかし、俺の目は確かにその姿を捉えていた。

 そう、神宮寺ソウゴ君である。
 
 一人周囲を気にしながら本屋へと入っていったソウゴ君の後を、俺は当然追った。

『パーティー開催^^』

 お祭りの楽し気な雰囲気にホイホイ誘われた御曹司君^^
 こっちで、お姉ちゃん達と楽しい事しようね^^

 行くぞー^^

『わぁい^^』










 神宮寺ソウゴは、正真正銘の御曹司である。
 将来を嘱望されている彼には、常に何人もの護衛が付けられていた。

 が、今だけは違う。
 
(護衛さんからも離れたし、お姉ちゃんもいない。……今ならっ)

 ソウゴの前にあるのは、クローマでも指折りの本屋であった。
 それも、ただの本屋ではない。

 クローマの有志達により合同で経営されているそこは、世には出回ることのない本を集めた本屋なのだ。
 己が欲望の結晶体であり、魔本でもあるそれを、人は同人誌と呼ぶ。

 ソウゴが来たのは、全年齢の安心安全の本屋であった。
 なお、全年齢とはクローマの学生基準である。

(ここにソルシエラの本が沢山あるんだ……!)

 狙いなど最初から決まっている。
 ソルシエラの同人誌、それしか眼中にない。

「……よし」

 自分を奮い立たせて、本屋へと足を踏み入れようとしたその時だった。

「――こんな所で何をしているの?」
「へぇっ!?」

 聞き覚えのある声が聞こえる。
 それもASMRでよく聞いた大好きな声だ。

 ソウゴは恐る恐る振り返る。
 すると、そこには、この瞬間一番会いたくない人の姿があった。

「ソルっ……け、ケイお姉ちゃん……!」
「ははっ、今はお兄ちゃんだよ。ね?」

 そう言って人差し指を唇に当てるケイ。
 その姿は、まるで獲物を前にした獣のようだった。


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