かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第202話 ニコニコ余裕の主人公

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  時間帯はギリギリ夜!

  ネイさんの前から逃げ出した俺の目の前で夜が明けようとしていた。
 ご存じ、美少女と同じ部屋で一夜を明かすことは法律で禁じられているので俺はひたすらに偽者を狩り続けていたのだ。
 最近、とある大学の研究グループにより判明したことだが、楽し気な人々の裏で戦いを繰り広げるミステリアス美少女ムーブは睡眠の五倍の休息効率だそうだ。

 やはり、健康のためにもミステリアスムーブは続けるべきなのだろう。

 故に、俺は寝ていなくとも問題なく動くことができていた。
 うおおおおおお! 俺は元気だぞおおおおおお!

『ずっと何を言っているかわからなかったぞマイロード』
『うおおおお! 元気いっぱいだねぇ^^』
『なぜ付いていけているのだ……?』

 偽者は許してはならない。
 感情の起伏がない系のヒロインとしての可能性もないし、本当に価値がない。
 美少女の輝きを手に入れてから出直しな。

『そんな物はないのだけれどねぇ……む、偽者の反応だ』

 またかよ。
 もうどれだけの偽者を殺したか。

 その場に砂を置いておくと清掃員が困ってしまうという理由で砂を集めていたが拡張領域はもうパンパンであった。

 これどうすんだよ。

『……構成する要素は天使だ。ソレがあれば、私は実体を持てるかもしれない。マイロード、私はヨシヨシなでなでがしたい』

 要求があまりにも性癖に素直なので駄目でーす。

『じゃあ本物には出来ない事を沢山する実験体にしてもいいかな?^^』

 君はもっと駄目に決まってんだろ。
 砂は後でミズヒ先輩に焼いてもらいます。

『悲しいねぇ……っと、次の角を右だ』

 俺はナビゲート通りに進んでいく。
 流石にこの時間帯は静かであり、人の数は数えるほどしかいない。

 それでも無人の場所は数えるほどしかなく、偽シエラが湧くのはそんなポイントだった。

 なぜわざわざそんな場所に湧くのか、皆目見当もつかない。

『聖域使いを求めているようだが……天使にあれは不要な筈だ。聖遺物から生まれた産物など、興味がない』

 流石天使本人。
 言葉に説得力があるぜ。

『厄災は今回の人類に興味を抱いている。故に、その試練は過酷であり、通常の型から逸脱してもおかしくない』
『何が来ようが殺すだけだねぇ^^』

 原作でもそんな感じだったし、何とかなるやろワハハ。

『む、ここだ。この路地裏にソルシエラ育成キットがあるぞ!』
『流石にその認識はどうなんだ』
 
 星詠みの杖君の声に止まる。
 屋根の上から見下ろせば、そこには偽シエラの姿があった。

『マイロード、一般人がいるぞ。ロリではないが助けなければ』

 言われなくても助けるけど、ロリを判定するの止めてね。

「ふふっ、私の輝きを騙ろうだなんて、哀れな子」

 風に干渉し、偽シエラと襲われている子へとミステリアスセリフをギリギリ聞こえるように流しながら俺は飛翔する。
 そして、まだ薄暗い空から一直線に偽シエラ目掛けて堕ちた。

 銀の髪をたなびかせ真っすぐに堕ちていく様は、さながら流星。
 俺は大鎌で偽シエラを抵抗の隙すら与えずに一刀両断した。

 こんな奴にいちいち真面目な戦闘してらんねえよ。

『砂もお持ち帰りしようねぇ』
『マイロード、お城を作ろう。去年の夏に砂浜でやったように』

 そんな過去は存在しない。

「愚かね……」

 俺は砂を見下ろしてそう呟く。
 そして、クールに振り返った。

「怪我はないかしら」
「は、はい。ありがとうございます!」

 恰好から見るに、クローマの女子生徒であるらしい。
 いいぞ、ソルシエラに助けられたと広めるんだ。

 人気投票一位は俺のもんだぜー!

「あ、あの……もしかして本物のソルシエラ様ですか……?」

 あ、俺の事知ってくれてる人だ!
 嬉しいねえ。

 が、それを表情に出さないのがミステリアス美少女である。

「だとしたら、どうなのかしら」
「わっ、私ファンなんです!」
「……はぁ、そう。別に興味はないわ。さっさと失せなさい」

 俺の言葉に生徒はぱぁっと表情を明るくして何度も頭を下げた。

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 俺のファンにしては変態がすぎるな?

『最近サドシエラばかり投稿していたからその影響かもしれないねぇ』

 身内が犯人だった。

『少し前はマゾシエラだったよ^^』

 しかも前科持ちだった。
 身内が勝手にSとMの両方の需要を満たしてた。
 
「あ、あの……ちなみにさっきの奴ってなんですか?」
「気にする必要はないわ。忘れなさい」
「そうですか……あっ! あの、私実は友達と一緒にいたんですけど、はぐれちゃって……!」

 そっちを先に言いなさいよ。
 なんで最初にファン公言なんだ。

『仕方ない、探してあげようねぇ……あっ、相棒マズいぞ』

 どうしたの?

『く、来るっ!』
 
 えっ何が?
 なんで来ることだけ教えるの?
 こういう時は何が来るかも教えてー!

「――ソルシエラ?」

 聞き覚えのある原作声に振り返れば、そこにはトウラク君の姿があった。
 なんなら、ルトラを持ってるし、隣にミハヤちゃんもいる。

 そしてクローマの制服を着た女子生徒の姿もあった。
 この子がはぐれたという生徒だろうか。
 
「アンタ……どうしてこんな所に」

 ミハヤちゃんの言葉に、俺は答えることができなかった。
 どうしてって言われても……。

『さて、ミステリアスムーブ、お手並み拝見といこうか^^』
『なぜマイロードを窮地に追い込むようなことをわざわざするんだ?』

 至極最もなカメ君の疑問を他所に、俺の美少女脳が回転を始める。
 では、夜明けとミステリアス美少女をお見せしよう。

 











 トウラクを見たソルシエラは、面倒臭そうにため息をついた。
 そして、自身が助けたであろう生徒に「後はあの子たちに従いなさい」と言って背を向ける。

「待ってくれ。ここに来るまでに、君の偽者と戦った。アレはなんだ?」

 その言葉にソルシエラは足を止める。
 そして、振り返ることもなく言った。

「第四の天使が降臨した」
「っ……やっぱり。ルトラの言う通りだった……!」
「ねえ、知ってることがあるなら話して。私達も手伝うからっ!」

 ミハヤの言葉に、ソルシエラは考える事すらなく首を横に振った。
 
「っ、相変わらず強情ね。いいからさっさと話しなさい!」

 そう言ってミハヤはソルシエラに駆け寄ると、その手を握ろうとした。
 が、ソルシエラは背を向けていたにもかかわらず、完璧なタイミングで振り返るとミハヤの腕を掴みあげる。
 そしてそのまま壁に押し付け、ミハヤの髪をそっと撫でた。

「相変わらず直情的ね。可愛い子」
「はっ、はぁ!? な、な、何を急に言ってんのよ!」
「照れちゃって、初心なのね。あそこの彼氏はきちんと言葉にしてくれないのかしら?」

 ソルシエラはそう言ってトウラクを見る。
 するとトウラクは真面目な表情で、口を開いた。

「ミハヤはいつも可愛いよ。勿論、いつも言ってる」
「はぁ、別にそういう事を聞きたかった訳じゃないのだけれど。もういいわ」

 呆れた様子のソルシエラはそう言うとミハヤの腕から手を離す。
 
「警告するわ。今回、貴方達は関わらないで。あの天使の狙いは間違いなく私よ。私、天使からのダンスの誘いなんて初めてだから、存外浮足立っているのよ」

 言葉と共に放たれるプレッシャーに、その場にいる全員が息をのむ。
 間違いなく、天使はソルシエラの逆鱗に触れたのだ。

 手を出せば誰であろうとも殺すとでも言わんばかりの眼には、今まで以上の冷たさが宿っている。

 恐らく、手を引いて静観するのが正しいだろう。
 ソルシエラであれば、問題なく天使を倒せるはずだ。

 しかし、それでもミハヤは声を上げた。

「嫌よ。私も手伝う。勝率は少しでも高い方が良いでしょ」
「……足手まといが増えるだけ。いらないわ」
「はぁ!? バカにしないでよね! 私だって強くなって「ミハヤ、止めよう」……トウラク?」

 幼馴染の声は、冷静な物だった。

 極めて冷静に、そして穏やかな眼でトウラクはソルシエラを見る。
 そして、簡潔に問い掛けた。

「勝てるんだね?」
「愚問ね」

 短い返答の間に、トウラクは彼女の思いを理解する。
 そして一つ頷くと、ダイブギアを操作してソルシエラへとデータを送信した。

「……これは?」
「御景学園の生徒会が使用する秘匿回線だよ。もしも、何かあれば連絡してくれ。必ず、助けるから」
「そんな大事な物を渡すだなんて、相変わらずお人好しね。……だから、貴方が嫌いなのよ」
 
 ソルシエラはそれだけ言うと、手をヒラヒラと振りながら背を向ける。
 そして、展開した魔法陣の中に消えていった。

『トウラク、いいの?』
「大丈夫だよルトラ。今回は、回線の事を教えただけでも良しとしよう」

 ルトラの言葉にトウラクは太刀を撫でる。
 彼の手の中で、太刀は嬉しそうにかちりと音を鳴らした。
 
「もうっ。絶対に、いつかあの表情を崩してやるんだから……!」
「ははは、そうだね。頑張ろう」
「……」
「ん? どうしたのミハヤ」

 ソルシエラを前にしても穏やかなままの彼を見て、ミハヤはどこか複雑そうに言った。

「なんでそんな「理解してます」みたいな顔してんの? 私だけ置いてけぼりな気がするんだけど」
「そんな事ないよ。僕も、置いてけぼりだ。だから、頑張らないと」

 トウラクの言葉に、ミハヤはふっと微笑むとその背に抱き着いた。

「あーもう、なんか頼もしすぎてムカつくー!」
「すっごい理不尽!?」

 どうみてもイチャイチャである。
 
 そしてトウラクはハッと気が付いた。
 今、目の前には無関係の二人がいることに。

 自分たちがソルシエラの偽者から助け出した生徒と、ソルシエラが助け出した生徒だ。

「あ。あの……」
「な、何かな? あ、そうだ。君が言っていたはぐれた子ってもしかしてこの子?」

 二人は同時に頷いた。
 そして、少しだけ興奮した様子でトウラクへと顔を寄せる。

「私達、ソルシエラ様同好会なんですけど、もしかしなくてもソルシエラ様と因縁ありますよね? それも、なんかエモそうなやつ」
「変な子たちだった」
「勿論、無理にとは言いません。ですが、良ければソルシエラ様の印象やエピソードなどあれば……! それと日光さえあれば私達は生きていけますので……!」
「変な子たちね」

 何も知らないままクローマに行き、たまたま早朝に散歩をして、偶然ソルシエラの偽者と戦い、奇跡的に本物と遭遇する。
 そんな運命的な流れの中にいるトウラク達は、襲われていた生徒達がピンポイントでソルシエラの変態的ファンである確率を引き当てていた。

 控えめに言って大事故である。

「そっ、その、私はソルシエラ様の鼠径部を一度で良いから見てみたいと思っているのですが……見た事ありますか?」
「生々しくて嫌だ……」
「私は薄っすらと汗をかいたソルシエラ様のうなじを舐めたいです」
「普通に変態じゃないかしら、これ」

 ミハヤは若干引いている。

 が、トウラクは意外にもこの状況を受け入れていた。

(良かった……あの子、怖がられているだけじゃないんだ。ちょっと変な子たちだけど、こうして慕ってくれる子もいる)

 孤高を貫く少女を、それでも好きでいてくれる存在がいる事に、当事者でないにも関わらずトウラクは喜んでいた。
 御景学園では、わざと嫌われ者を演じていた彼女をこうして語る人々がいる事実は、妙に嬉しい。

「……なんでニヤけているのよ。もしかして、アンタもそっち側だったの?」
「ち、違うよ!」

 トウラクは慌てて否定する。

「ただ、ソルシエラにもいつか知って欲しいなって思ってさ。この子たちみたいに、信じてくれる人がいるって事を」
「その口振り、やっぱり知り合いなんですね……! よろしければお話を……!」
「僕から語れることなんてあまりないよ。けど、そうだな……」

 トウラクは脳裏にソルシエラの姿を思い浮かべた。
 未だ届く事のない孤高の星は、それでも優しく輝いている。
  
「強いて言うなら、僕よりもずっと強くて優しい子かな」

 その言葉に、ミハヤは言葉もなく同意する。
 
 クローマに朝が訪れようとしていた。
 
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